私は手にマシンガンを持っていた。ざわざわとした雑踏。商店街の中に私はい
  る。とりあえず引き金をひいた。

  周囲で絶叫が起こる。突然の私の発砲に逃げまどう買い物客たち。しかし私は
  ためらわなかった。老人。老人は社会の膿だ。殺せ。

  逃げ遅れて道路に転んでいる老人に銃口を向ける。

  「た、助けてくれ、わ、私は・・・」

  言い訳を聞いている暇はないので撃つ。時間効率から脳を打ち抜く。貫通した
  脳の先から血が飛び散る。が、そんなことは気にしない。一人でも多くの老人
  を殺さなければ。

  店から出てきた老人。孫だろうか子連れだ。関係ないか。ためらわず撃つ。何
  事が起きたのかわからないかのごとく倒れる。子供は撃たない。それが契約。
  ターゲットは老人だけだ。

  近くにある老人ホームに向かう。どうせすぐに死ぬ奴等だ。今殺してやっても
  大差あるまい。玄関から堂々と踏み込み・・・食堂らしき部屋を見つけ・・・
  入り込み・・・連射する。スローモーションの映画のように撃たれる老人ども。

  100人は殺っただろうか。これで少しは平均年齢も下ることだろう。老人は
  人間の汚点だ。人間50年だった時代が懐かしい。40ばかりにして死すのが
  良いのだ、と中国の偉い奴も言っていた。それを実行しただけだ。

  うちに戻ってきた。暗い4畳半の安アパート。マシンガンを枕の側において寝
  る。まだ火薬のにおいが生々しい・・・そろそろ時間だろう・・・

  ・・・目が覚めた。夢だったみたいだ。そりゃそうだ。そんな理不尽な考えを
  実行するほど私はバカじゃない。それに犯行に使ったマシンガンも見当たらな
  いじゃないか。内心ほっとした。

                           −−−50年後−−−

  こんな私でも結婚してくれる相手もいて、その相手との子供も出来て。マイホ
  ームと言えるのかどうかわからないがそれなりのささやかな城も持って。そし
  て孫が生まれて。おじいちゃんと呼ばれる歳になってしまったのだと実感して
  いる。

  週3回の水泳と週1回の将棋はかかさない。これくらいの楽しみは数十年働い
  たもののささやかな特権だろう。

  今日は将棋の日だ。目が覚めて、布団から出る。

  「ん?」

  枕元にマシンガンが置いてあった。孫のおもちゃかな?

  それにしてもおかしい。なんだろう。周りを見渡すと・・・自分のうちじゃな
  い。ここは・・・

  「お迎えに上がりました」

  どこから入ってきたのか黒づくめの男が3,4人。

  「何の用ですか?」
  「お迎えですよ。お忘れになりましたか?」
  「お迎え?まだこんなにピンピンしてるが・・・死神ならもうすこし待ってく
  れと伝えてくれないかの?」

  男たちは互いにひそひそ話している。

  「で、何か用なのか?これから将棋にいかなければならんのだが」
  「そういうことでしたか。あなたの記憶はプレイ完了後にご本人の希望により
  抹消されているのですね」
  「さぁ、私たちといっしょに参りましょう」

  嫌がる私を連れ(といっても睡眠薬か何かで寝かされていたのだが)、どこか
  研究室のようなところへ連れて行かれた。部屋の真ん中にあるイスに座らされ
  ている。座っているが別に拘束されているわけではない。が、この部屋にはド
  アがない。窓もないみたいだ。どうやって連れてこられたのだろうか。それよ
  り、なんでこんなことされるのだろう・・・記憶が抹消、とか言っていた気が
  したが・・・

  「ようこそ、『快楽追求公社』へ・・・といってもお客様は2度目ですね。3
  度目はないのですが・・・」

  壁に付いているスピーカーから声が聞こえてくる。女の声だ。

  「このたびは私どもの『快楽パックSuper』をご利用いただきまことにあ
  りがとうございました。お時間が参りましたのでお呼びした次第でございます」

  そんなものを利用した覚えはない、といいかけたが女の声は続く。

  「・・・失礼いたしました。お客様は記憶抹消オプションが付いているのです
  ね。ではご説明いたします。お客様のご要望をなんでもかなえる変わりに50
  年後にあなたの生命を頂戴するのが『快楽パックSuper』でございます。
  今日がその50年後です。よってお迎えに上がった次第でございます。ご利用
  いただきまして、ありがとうございました」
  「ま、待ってくれ、私はそんな物を利用した覚えはない!」

  声にならない声で言った。

  「契約によりまして記憶は『最期の刻』の前にはお返しいたしますので、ご安
  心を。では、最後の時間をごゆっくり・・・」

  女の声は私の声を聞いていないのか、一方的に話しつづける。

  「おい、どういうことだ!返事をしてくれ!」

  なんのことやらさっぱりわからない。このまま死ぬのだろうか。

  ・・・いつのまにか眠っていたようだ。というよりは眠らされていたと言った
  ほうが正しいのかもしれない。「最期の刻」はどうなったのだろう。

  周りを見ると・・・研究室の風景はなくなっている。病院のベッドみたいだ。
  早く逃げ出さなくては・・・と急ぎ足で家に向かう。が、ここがどこかもわか
  らない。近くの人に最寄りの駅を聞くと・・・自宅から電車で1時間ほどの駅
  である事が分かった。幸いにして交通費も持っている。早く逃げなくては。

  ・・・しかし、なぜ逃げなくてはならないのだろう、ということは考えている
  暇すらなかったのだ。

  商店街が見えてきた。買い物帰りの主婦から、若者、老人、いろいろな人間で
  ごった返している。

  ダダダ・・・

  なんだ!?今の音は。人の波がこちらに迫ってくる。人の波に飲まれ、転んで
  しまった。

  人が近づいてくる。手にしているのは・・・マシンガン?

  マシンガン!

  私はすべてを思い出した。というより思い出さされたのであろう。50年前、
  ここで、私は・・・夢だと思ってすっかり記憶から消えていたのだ。転んで
  いて立ち上がることが出来ない。腰が抜けてしまったみたいだ。

  「た、助けてくれ、わ、私は・・・」

  目の前に立っている男はためらわず引き金をひいた。

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