<6th Day:Kasumi's Eye>

  「あら、おはよう。高幡クン。その顔だと昨日は寝てないみたいね」
  「ええ。昨日はありがとうございました」
  「まぁまぁ、上司としての務めですわ。ふふふ」

  顔色が随分悪いみたいだけど、まぁ寝てなければそんなものでしょ。まだまだ若いんだ
  し全然平気でしょ。あたしなんかちゃんと寝ないとお肌が荒れちゃってどうしようもな
  くなっちゃうのよね。もうお肌は若くないんだもの。

  「そ、それにしてもかすみさん、今日は早いですね。どうした風の吹き回しですか?」
  「ん?たまにはあたしも早く出てきたりするのよ。これでも仕事熱心ですからね」
  「・・・」
  「あら、なぁに?」
  「いいえ・・・」
  「それはそうと、ガイシャの検死の結果が出たみたいだから、ちょっと聞いてくるわね」
  「え?僕もいきますよ」
  「・・・うん。じゃあついてきて」
  「はい!」

  実はかすみさんは結構理想の上司なのかもしれないと思ったのは内緒だ。

             ☆              ☆              ☆              ☆

  「あ、ありがとね」

  検死官から検死の結果を聞いてきた。死亡推定時刻は一昨日の0時ごろ。背中を一突き
  で即死。それからめった刺しにした模様。

  「ちょ、ちょっと待ってください!」
  「ん?」
  「昨日が遺体の発見ですね?」
  「うん」
  「で、昨日会う約束をしていたが、殺されていた。そこまではいいんです」
  「そうね」
  「でも、昨日会う約束をする電話をしたのは一昨日の夜なんですよ」

  高幡クンが紙に書き始めた。

  4日目  昼:川村  良太宅でRIA起動。手がかりをつかむ。飯田  章に協力を依頼しに
              いくも捕まらず。
  4日目  夜:飯田に高幡がTEL。翌日に待ち合わせるとの約束をする。
  5日目  昼:飯田宅にいくも本人不在。
  5日目  夕:飯田の死体が発見される。

  「ですよね?」
  「うん、そうなるわね」
  「でもですよ・・・」

  高幡クンはその紙に書き加えた。

  4日目深夜:飯田の死亡推定時刻
  4日目  昼:川村  良太宅でRIA起動。手がかりをつかむ。飯田  章に協力を依頼しに
            いくも捕まらず。
  4日目  夜:飯田に高幡がTEL。翌日に待ち合わせるとの約束をする。
  5日目  昼:飯田宅にいくも本人不在。
  5日目  夕:飯田の死体が発見される。

  「え?」

  なんか変ね・・・。あ!

  「そうなんです。これで言うところの4日目の夜、つまり一昨日の夜に僕は飯田に電話
  してるんですよ。『明日は絶対にいろよ!』って」
  「でも、殺されたのは一昨日ではなくそのさらに1日前・・・?」
  「検死の結果からするとそういうことになります。あきらかに矛盾してます。僕は死ん
  でいるはずの人間と電話をしていたんでしょうか?」
  「あらら・・・なんか矛盾だらけよね・・・まさかとは思うけど、高幡クン、実は留守
  電と会話してたなんてことはないわよね?」
  「・・・そんなことはないですよ。きちんと会話しましたから」
  「だとすると強烈に不思議な話になっちゃうわね」
  「・・・そうですね・・・そうなってくると僕もホントに飯田と会話してたのかどうか
  不安になってしまいますよ」
  「ということで、高幡クンの精神鑑定から始めないといけないかもね。死人と話してる
  なんて危険なこといっちゃうんですもの」
  「・・・」
  「冗談よ。あたしは信じたげるわ。大方、留守電かオーディオテープかで死んでいる人
  間を生きてるかのように会話させたってだけのトリックなんじゃないの?とは思うけど」
  「それくらいしか思い付きませんね。でも、なんかもっとものすごいことが裏にあるよ
  うな感じがします」
  「ものすごいこと?」
  「僕にも説明できないんですけど・・・なんかありそうな気がするんです」
  「なーにいってんのよ。そんなのあるわけないでしょ。ほれ、さっさと捜査に戻るわよ」

  実は、あたし自身そう思ってたのは高幡クンには内緒。この事件。あたしたちだけじゃ
  解決できないくらいなにかとてつもないものを感じる。女の勘ってやつなのかもしれな
  いけど・・・でも高幡クンも感じてるってことは女の勘とは言わないのかしら。まぁ、
  このあたしが言ってるんだから間違いないわね。最初から予想してた通りになってきた
  って感じかしら。これ以上被害者を増やすわけにはいかない・・・

  「でも、ちょっと待ってください、かすみさん」
  「ん?どしたの?」
  「いや、ふと思ったんですが、かすみさん、あのソフト持ってるって言いましたよね?」
  「うん。ついでに言えばオールクリアもしたわよ」
  「だとしたら、かすみさんはあの・・・その例のシーンを見たってことですよね?」
  「もちろんそうなるわね」
  「その時、サブリミナルみたいな感触はなかったんでしょうか。だってかすみさん飯田
  のところでサブリミナルに気付いたって言ってましたよね?つまりかすみさんのところ
  のソフトではサブリミナル現象は見られなかったと言うことになりませんか?」
  「ほうほう。高幡クン、なかなか鋭いね」
  「からかわないでください。どうなんです?」
  「うーん、その時点ではサブリミナルだと思って見てたわけじゃないし、気付かなかっ
  ただけで、実はサブリミナルだったのかもしれないわね」
  「確認してくださいよ、きちんと」
  「でも確認したらあたし、殺されちゃうかもしれないじゃない」
  「・・・(あなたは平気です)」
  「なんか言った?」
  「いいえ、なんでもないです。とにかくかすみさんはきちんと調べてくださいよ。いい
  だしっぺなんですから!」
  「う・・・じゃぁ高幡クンついてきて。なんかやっぱり自分のパソコンにサブリミナル
  映像があって、殺されちゃったらいやだもん。護衛としてついてきてちょうだいよ」
  「で、でも・・・」
  「でも何よ。あたしの部屋には入れないって言うの?」
  「え、い、いや、逆ですよ。女の人の部屋に入るのはちょっと」
  「ふふん。高幡クン、やっぱりウブなのね」
  「・・・」
  「はい、じゃぁ決定。いくわよ」
  「あ!ち、ちょっと!腕引っ張らないでくださいよ〜」

  あたしのお城に最初に入る男が高幡クンとは・・・ま、仕方ないか。

             ☆              ☆              ☆              ☆

  高幡クンとは同じ町に住んでるから実際何度も道端であったりもしてるけど、実は家に
  入れるのは始めて。上司として部下を自分のうちに招いたりってするものなのかしらね。
  とにもかくにもあたしのうちにくることになっちゃった。・・・え?てことはあの・・
  ・

  「そういえば、何回も送ってもらったりしてるけど、うちに上がるのってはじめてなの
  よね」
  「そうですね」
  「なによ〜。もう少しくらい嬉しそうな顔したら?うら若き乙女のお城に入れるのよ。
  しかも無料で!普通なら1万円はくだらないところよ」
  「・・・」
  「まぁ冗談はさて置き、例のサブリミナル映像、出ると思う?」
  「どうでしょうね・・・出たらかすみさん、殺されちゃいますね」
  「・・・」
  「大丈夫です。僕が護りますから」
  「頼もしいこといってくれるわね。さすがあたしの部下」
  「・・・」