<4th Day:Kasumi's Eye>

  「仕方ないわねぇ。あまり何回も見せられないからね。よく覚えておくのよ」

  おもむろにプログラムメニューを起動するあたし。起動先は・・・RIA。

  「え?それは・・・」
  「そ。この間あたしが買ったゲームの旧作ね」
  「それにどんな秘密があるっていうんです?」
  「まぁ黙ってみてなさいって」

  黙々とクリックし、ゲームを進めていく。30分くらいたったかな。慣れたものだから
  サクサク進むかと思ったけど、結構忘れてるものなのね。でも、この手のソフトって一
  度見た画像や文章は読み飛ばせるようになってるから結構早く到達できたかしら。

  「うっ、こんなシーンがあるんですか?」
  「あたりまえじゃない、エロゲーなんだから」
  「い、いや、それはそうなんでしょうけど・・・」

  高幡クンって、結構うぶだったりして。まぁ始めてみる画面だし、驚くのも無理ないか
  しらね。

  「か、かすみさんってこんなのを鑑賞する趣味があるんですか?」
  「は?なんであたしが女の子の裸みてよろこばなきゃいけないのよ」
  「だったら、なんで先に進めないんです?」
  「・・・分かってないわねぇ」

  まるで分かってないみたいね。このおぼっちゃんは。一から説明しないとだめなのかし
  らね。これだからおこちゃまは困るのよ。

  「高幡クン。この画面には恐ろしい秘密が隠されているのよ」
  「えっ?それってもしかして・・・このモザイクがはずれちゃったりするわけですか?」
  「・・・アホなこといってるんじゃないわよ。そんなことしたら発売禁止になるのがオ
  チでしょうに」
  「そりゃそうですね。じゃあ何がこの画面にあるんです?裏ワザみたいなものでもある
  んですか?というか、これってホントに捜査に関係あるんですか?」
  「あんまり画面に近づきすぎないようにちょっと画面を凝視してごらんなさい。普通の
  人には見えないんだけど、もしかしたら高幡クンにもみえるかもしれないから」
  「それって・・・目を細めるとモザイクが消えたように見えるとかいうアレのことじゃ
  ないですよね?」
  「・・・つまらないこといってないで、早くみなさい!」

  なんなのよ。モザイクにこだわるわね。実は変なビデオに脳みそ冒されてるんじゃない
  のぉ?

  「・・・何にもわからないですよ」
  「あ、そう。高幡クンには荷が重かったかしら」
  「だから、なんなんですか?もしかして僕にエロシーンをみせたいだけだったとかそん
  なオチじゃないでしょうね!」
  「あんたねぇ・・・仮にも上司なのよ、あたし。そーいう口の利き方はどうかと思うの
  よねぇ〜」
  「あ、すみません。でも、そろそろ教えてくださいよ」
  「そうね。あんまり引っ張ってもアレだしね」

  種あかし。というよりはあたし自身推測でしかないんだけど。それにこれが分かったと
  ころで捜査が進展するわけじゃないのよね・・・

  「サブリミナルよ」
  「サブリミナル?サブリミナルって、あのサブリミナルですか?」
  「そう。あくまでもあたしの直感。というよりはそんな感じの映像があたしには見えた
  んだけど」

  自慢じゃないけど、あたし超能力みたいなモノをもってるのよね。動体視力がものすご
  いの。単なる偶然かもしれないけど、高速移動してるものが止まって見えたりするの。
  ホントたまになんだけどね。今回も、ゲームをやるつもりで(これは高幡クンには内緒
  ね)立ち上げたんだけど、偶然見つけちゃったのよね。

  「で、そのサブリミナル効果が殺人に結びついている・・・と?」
  「そこまではわからないけど、何らかの関係はあるんじゃないかしらねぇ。普通はこん
  なの入れないでしょ?」
  「うーん。サブリミナル効果・・・。でも、このゲームって何千本も売れてるわけです
  よね?で、その問題のサブリミナルが使われているシーンに到達する人って、多分ほと
  んどですよね?その中で効果が現れた人が殺された?殺すならまだしも、殺されたとな
  るとちょっと変な話ですよね・・・サブリミナル映像を見て殺されたってなると」
  「それもそうよね・・・しかもサブリミナル効果が起きたのが6人と考えるのも不自然
  かもしれないわね。もっと大勢の人間に対して効果が起きても不思議じゃないかもしれ
  ないし・・・」

  サブリミナル効果。ある映像の中に別の映像を一瞬織り交ぜることでその別の映像に対
  する意識を視覚的に植え付ける。たとえば、映画を見ていて、そのシーンの中で一瞬(
  といっても、本当に一瞬。まばたきしてたら見えないくらいの映像よ)、コーヒーの映
  像が出したりすると、映画を見ている人はコーヒーが飲みたくなるといった具合。もち
  ろん、一瞬だけじゃさすがに人間の視覚には訴えられないだろうからその一瞬を何回も
  映像に織り交ぜて出してるんだけど。一種の暗示みたいなものと考えればいいかしらね。

  「新たな謎になっちゃったわね・・・これが手がかりになるのかどうかも不明だし・・
  ・」

  とにかく、これを作ったソフトハウスに聞いてみないと。

  「そうですね。というよりはそのソフトハウスのだれかしらがこのサブリミナル画像を
  入れ込んだわけじゃないですか。てことはどう考えてもそのソフトハウスが犯人という
  ことになりません?」

  お、高幡クン、結構いいこと言うね。

  「おしい。確かに普通に考えればそうなんだけど、今回は『YEK』はシロだと思うわ」
  「な、なんでです?」

  だって、考えてもみなさい。さっき高幡クンが言ったようにソフトハウスが数千から数
  万本ソフトを売ったとして、サブリミナル効果に引っかかったのが6人しかいないとは
  考えづらいのよ。もっと大勢の人間が引っかかってる可能性が高いと思わない?そう説
  明してあげた。

  「うーん、そうですね・・・でも、ある特定の人間にしか効果が出ないような効果だっ
  たとしたら?」
  「・・・なるほど。そういう考え方も出来るわね。でも、そうだとしたら確かに『YEK』
  の計画的犯行ってことになるわね。でも、6人の間に関連性がないわ。つまるところ、
  『YEK』がその6人を殺害しようと思った動機が思い当たらないのよ。そのあたりはどう
  説明する?」
  「・・・」
  「別に責めてるわけじゃないわよ。結構いいセンついてたからちょっといじめてあげて
  るだけ」
  「・・・それって誉めてるんですか?」
  「あったりまえじゃなーい、しっつれいねー」
  「(その態度が誉めてるように見えないんだって)」
  「ん?何かいった?」
  「いいえ、なんでも。ではソフトハウスの犯行ではないとすると、犯人はどうやってソ
  フトハウスが作ったソフトの中にサブリミナル画像を入れることが出来たんでしょう?
  ソフトハウス全体の犯行ではないにせよ、ソフトハウスの中の個人の犯行であるという
  可能性はあるんじゃないですか?」
  「うん。それなら可能性はあるわよね。そのセンからも調べる可能性があるかもしれな
  いわね。とりあえずは、『RIA』のサブリミナル画像がどんな画像なのかを解析してか
  らでも遅くないわね。とりあえず鑑識にまわして調べてもらいましょうか」
  「・・・かすみさん、こんなの鑑識に回しても調べてもらえませんよ」
  「あっ、それもそうね。じゃぁだれに調べてもらおうかしら。さすがにあたしもそこま
  で出来るようなレベルじゃないし・・・」
  「僕、友人にその手のオタクがいるんで、そいつにちょっと調べてもらってきますよ」
  「いや、それはちょっとまずいわね。これは捜査でもあるから・・・サブリミナル効果
  が出て、その高幡クンのお友達のオタクが殺されちゃっても困るし・・・」
  「そうですね・・・」
  「留置場で作業してもらおうかしら。あそこなら殺される可能性も多分ないだろうし!」
  「(どうしてそういうことを考えられるのか不思議でなりません)そ、そうですね」

  じゃぁ、そのオタクをとっ捕まえて、留置場にGO、ね。