<4th Day:Takahata's Eye>

  2時間くらいたっただろうか。

  「ち、ちょっと!かすみさん!なにやってるんですか!」
  「え?」

  僕がひたすら部屋をあさってパスワード探しをしていたころ。かすみさんはとうの昔に
  パスワードを入れてログインを完了していたのだ。

  「『え?』じゃないですよ!なんでログインできてるんですかって聞いてるんです!」
  「ああ、あたしの大好きな『みなみ』ちゃんのあだな『minamina』って入れたら動いた
  の」
  「『minamina』?」
  「そ。みなみちゃんってすっごくかわいい娘がでてくるのよぉ〜」
  「・・・」

  僕の必死のパスワード捜索は一体・・・

  「もしかして、いつからログインできてたんですか?」
  「うーん、休憩し始めて、タバコ吸い始めてすぐ」
  「・・・そういうことは僕にも教えてくださいね」
  「パスワード探しだけじゃなくて他人の行動に注意を向けることも刑事の基本よ」
  「・・・」

  もし逆の立場だったら間違いなく怒涛のごとく怒るくせに。なんて間違っても言えない。

  「あとはね、パスワードってのは人に教えるものじゃなくて自分『だけ』が知っていれ
  ばいいわけだから、紙に残したりはしないものなのよ。要するにこのあたりを捜しても
  どうしようもないってわけ」
  「・・・」

  そんなことは最初から言ってくれればいいのに。なんて口答えしたら『そんな捜査の基
  本を一から教えるわけないでしょ』と言われるのがオチか。

  「まぁとりあえずよかったですね。なんかの手がかりがあるかもしれないですしね・・
  ・って!」

  こともあろうか、かすみさんはひとパソコン(それもガイシャ)でゲームをやっていると
  いう・・・まぁかすみさんらしいといえばらしいのかな。

  「ってことは手がかり探しはしてないってことですかね」
  「そんなことないわよ。『RETAW』にはこの事件に関するいろいろなヒントが隠されて
  いるわ」
  「この事件ってどの事件ですか!まさかゲームの中の事件の話じゃないでしょうね!」
  「ん?うっふふっ」
  「また笑ってごまかさないでくださいっ!」
  「まぁまぁ。あんまり怒ると老化の元よ。がんばって手がかりを探しなさい」

  この人はたまにこうやって人を弟子かのように扱うことがある。こういった時は大抵か
  すみさん自身が手がかりをつかんでいる時に起きる。つまり自分の知識をもったいぶっ
  て僕に教えてくれないのだ。

  「はいはい、自力でがんばりますよ・・・」

  僕もパソコン自体あまり詳しい方でもないのだが、Windowsくらいは扱える。ふむふむ。
  Cドライブから順に見ていくか・・・特に怪しいフォルダはなさそうだな。以前にかす
  みさんが言っていた『RETAW』とか『RIA』とか『NONAK』のフォルダがあるな。つまる
  ところガイシャはオタクだったわけだ。まぁ、そんなことは同人誌の山や、壁に張って
  あるポスターを見れば分かることか。それもしてもそんなフォルダしか見当たらないぞ。
  あとは、どこで見つけてきたのかわからないがかなりきわどい画像(いや、きわどいなん
  てもんじゃないか。見つかったら逮捕ものだろう。僕らはそんな捜査をしてるわけじゃ
  ないので逮捕しないし、ガイシャはすでに死んでいるわけだし)のフォルダやら、こっち
  もかなりきわどいアイコラ画像。あとは・・・CGか・・・こんなに膨大な量をどこか
  らさがしてくるのやら・・・

  あっ、あれっ?かすみさんは?・・・ばっくれられたか!まぁその辺でお茶してるのが
  いつものパターンだし。お茶に飽きたころに戻ってくるだろう。それまでに結論をだし
  ておかないと、あとでバカにされるからな。なんとかして手がかりをつかまないと。

  かれこれ1時間ちかくパソコンをいじって手がかりを探していた。が、結局労むなしく
  なにもみつからなかった。かすみさんに報告するの、気が重いな・・・

  「はぁい。高幡クン。みつかった?手がかり」
  「全然見つかりませんでしたよ」
  「ふぅん。高幡クンもまだまだねぇ〜」
  「まだまだでもいいですよ。いいですから早く教えてください。かすみさんはなにをつ
  かんだんです?」
  「仕方ないわねぇ。あまり何回も見せられないからね。よく覚えておくのよ」