<4th Day:Kasumi's Eye>

  「かすみさん!待ってたんですよ!連絡一つくれないでほっつきあるくなってあれほど
  言ったじゃないですか!」

  デスク(仕事場のことね)に戻った早々高幡に怒られる。なんであたしが怒られなきゃ
  なんないのよ、遊んできたわけじゃなし。

  「でぇ?そこまで偉そうにあたしに説教たれるんだからよっぽどすごいネタつかんだん
  でしょうねぇ?ん?」
  「そ、それが・・・また起きちゃったんですよ」
  「何が起きちゃったっていうのよ」
  「なにがって・・・殺人に決まってるじゃないですか」
  「・・・」

  6人目の被害者が出てしまったのね・・・

  「か、かすみさん?」
  「うるさいわねぇ、聞いてるわよ。で、誰が殺られたの?」
  「えっと・・・『川村  良太』26歳。大学生。秋葉原の電気街からちょっと離れた公
  園の公衆便所で」
  「やはり背中からめった刺し?」
  「はい・・・」

  ふむ・・・若い男が連続で殺される。しかも背中からめった刺し。被害者の共通点は秋
  葉原。もう少し情報が欲しいわね。

  しかたないわね。現場に行くかな。と、思ったとたんわたしの手を引っ張る高幡。

  「なによう」
  「どこ行くんですか。帰って来たばっかりでしょ。どっか遊びに行こうったってそうは
  いきませんよ!」
  「なーに、言っちゃってるのよ!あたしはねぇ。現場を見に行くのよ!刑事は1に現場
  2に現場、3,4がなくて5に現場よ!」
  「・・・」
  「文句あるの?」
  「いや、行くなら止めませんけど・・・もう片づけ終わってますよ?」
  「・・・」

  とつまらないジョークはこれくらいにしておいてあげるわ。

  それにしてもまた殺人。背中をめった刺し。秋葉原。ん?26歳大学生?

  「ちょっと高幡クン」
  「はいはい」
  「ガイシャは大学生って言ったわよね」
  「ええ、いいましたよ」
  「26歳とも言ったわよね」
  「ええ、いいましたね」
  「大学生って普通に卒業すれば22歳か23歳なんじゃないの?一浪したって24歳じ
  ゃない。よほどバカ学生だったとして一浪一流したとしても25歳。26歳で大学生っ
  てのはそうとうなアホだったってことなんじゃないの?」
  「さすがかすみさん。いいところに気付きましたね。そうなんです。ガイシャの身元、
  つまりガイシャの家を捜索すればその辺がなにかわかるかも知れませんね」
  「そうね。じゃ、いこうかしら。高幡クンも行く?」
  「え?も、もちろんですよ。私は(あなたのおもりなんですから・・・)」
  「ん?なにか言ったかしら?」
  「いいえ、なんにも」
  「じゃ、善は急げ。ガイシャの住所はOKね?行くわよ」

           ☆              ☆              ☆              ☆

  「うーん、ここは・・・」

  つんと鼻を突く匂い。異臭といって間違いない匂いがここにはあった。なんなのよ!

  「ちょっと、高幡クン。男の人の部屋ってみんなこんなんなの!?」
  「あれ?かすみさん、彼氏の部屋に入ったことないんですか?」
  「・・・」
  「あたしの彼氏の部屋はこんなに汚くもないし臭くもないのよっ!」

  あたり一面に散らかる食べ物の山。インスタントラーメンやら、スナック菓子やら。片
  付けていないのでどんどん山積み。洗濯なんかしていないので着たままの服が床に散ら
  っている。壁際にはん?なに?この本みたいなものは。

  「ああ、それですか。同人誌ですよ」
  「同人誌?」
  「うーん、自費出版の本なんですが、普通の本屋で売ったりしないで、そういった同じ
  趣味の人たちが集まったところで売り買いしたりするんですよ」
  「ふぅん。高幡クン、やけにくわしいのね」
  「いえ、これも捜査の途中で出てきた用語ですよ」
  「・・・」

  その同人誌がうずたかく積まれている。その横にはCD-ROM?

  「これはかすみさんの大好きなエロゲーですね」
  「別にエロが好きで買ってるわけじゃないわよ。何度も言うけど」
  「まぁみんなそう言うんですよ。本心はさて置き」
  「・・・」

  ということで、この部屋にあるものは、食べ物(正確のはその食べクズ)と着たあとで
  洗濯していない服。同人誌。CD-ROM。そして・・・

  「パソコンね」
  「随分といいマシン持ってますね」

  こういったやつらは自分の食費とか生活費を切りつめて同人誌やらエロゲーやらパソコ
  ンにお金を費やすらしい。

  ちょっと電源入れてみようかしら。電源ボタンを押す。

  「うわ。Windows立ち上がるのがすごくはやくない?」
  「そりゃぁ、うちの部署にあるマシンの単純計算で5倍以上はCPUが速い計算になり
  ますしね」
  「ふぅん」

  実はちんぷんかんぷんなんだけど。とりあえず相づちを打っておく。

  「ん?どうしたの?高幡クン?」
  「いや、このパソコン、ログインできないんですよ」
  「Windowsが起動しないってこと?」
  「いや・・・Windowsは起動してるじゃないですか。見てのとおり、マイコンピュータ
  とかが出てこないじゃないですか。IDとパスワードがいるみたいなんですよ」
  「IDとパスワード入れなさいよ」
  「・・・わかるわけないじゃないですか」
  「・・・それもそうね」

  よっぽどあやしいデータでも隠しているのかしらねぇ。だいたい自分しか使わないパソ
  コンにパスワードなんかかけるものなのかしら?

  「高幡クン。なんとかしてパスワードを見つけてきてよ!IDはこのIDでいいんでし
  ょ?」
  「ええ、基本的に前回ログインしたIDが画面に残りますからね。IDはこれで合って
  いると思います。パスワードは、そうそう分かるもんじゃないですよ」
  「そこを調べるのよ!誕生日とかそんなんじゃないの?」
  「そんな、キャッシュカードじゃないんですから・・・」
  「このマシンにはかなり重要な秘密が隠されているに違いないわ。がんばって探すのよ。
  あたしは・・・休憩」
  「・・・そんなぁ・・・」