<3rd Day:Takahata's Eye>

  「あ、かすみさん。お帰りなさい」

  僕が戻ってきて30分もしないうちにかすみさんも戻って来た。『雨宮さん』って呼ぶ
  と思いっきり怒られる。さらに1時間は口をきいてくれなくなるのだ。ご機嫌の悪い姫
  君は手がつけられないので下僕のごとく付き従うしかないってのが本音だが・・・僕は
  僕で結構楽しくやっている。マゾなんじゃないかって?そうなのかなぁ・・・

  「ふわぁ〜暑いわねぇ。まだ」

  9月に入り夏も終わりを告げようとしている季節だが、まだ昼間は暑い。冷房がなけれ
  ば死んでしまいそうだ。

  帰って来るなり椅子に座りばたばたとうちわをあおぐ。しかも座った足は大きく開いて。
  みえそでみえないとはこのことで・・・いやさすが、これくらい豪胆でないと出世は出
  来ないという典型のような人だ。

  「で、高幡君、何か収穫あった?」

  僕は、成果をかすみさんに話した。とはいえ、ロクな話は出来なかったが・・・

  「強いて言うなら、被害者は全員秋葉原に来ていたということかしら」
  「はぁ?」

  かすみさんお得意の論理の飛躍が始まった。かすみさんは、時にして強引に論を発展さ
  せる事がある。しかし、その強引な展開が・・・ツボにはまることが多いのが僕として
  は不思議でならないのだが。

  「全員秋葉原に来て殺されているのよ。秋葉原の住人ではなくて。ということは秋葉原
  『で』殺すことが重要だったか、あるいは・・・」
  「秋葉原『が』いままでの殺人に何かしらの関係があるのかですか?」

  かすみさんは僕に人差し指を突きつけ、

  「ビンゴ」

  そして頭をなでなで。『高幡君も随分、私の考えてることが分かるようになったわね』
  と。誉められるべき事なんだろうか、それは。

  しかし、そういう事なんだろうな。被害者の住所に共通性はないし・・・通りすがりの
  可能性をひとまず置いておくとすると『秋葉原』というキーワードが浮かび上がるのは
  当然といえば当然だ。

  では、何故秋葉原なのか?この殺人は新宿や渋谷で起きてはならなかった理由がなにか
  しらあるのかもしれない。

  秋葉原か・・・秋葉原と言えば・・・電気街?電気街で殺人・・・

  「わからないっすね。なぜ秋葉原なのか」

  僕はおとなしく降参した。

  「ふふん」

  かすみさんの鼻で笑う声。いつものことだけど。

  「なんですか。かすみさんはわかってるってことですか?教えてくださいよ」
  「ふっふふふぅ〜ん。まだ教えたげない」

  たまに思う。この人は事件を解決する気があるんだろうかって。こんな姿部長に見られ
  たらどうなるかわかったもんじゃないと思うんだけど・・・その辺はかすみさんの美貌
  でなんとかなるんだろうか。おっと、なんか変な想像してしまった。こんな想像してる
  ことがバレたらどうなるかわかったものじゃない。

  「さぁ、とりあえずもう一度聞き込みがてら秋葉原に行くわよ」

  もう定時なのに・・・なんでこんなにやる気マンマンなんだ?今日に限って。

           ☆              ☆              ☆              ☆

  夏の終わりにしてはもう寒い。夜にもなるとこんなにも冷え込むのか。この間ガイシャ
  が殺されたときも結構冷え込んでたな。

  夜の秋葉原。店もちらほらと店じまいの様相。そりゃそうだ。もう8時をまわろうとし
  てるんだから。秋葉原の夜は結構早い。7時過ぎには店をたたみはじめ8時9時にはほ
  とんどの店が閉店になる。やっているのはゲームセンターとファーストフード店くらい。
  1件のパソコンショップにおもむろに入っていくかすみさん。聞き込みじゃないの?

  「今日はねぇ・・・。ジャジャーン!これの発売日なのよ!」

  え?『RETAW』?なんすか?それ。

  「あら高幡君、しらないのぉ?押すに押されぬ有名メーカー『YEK』の新作ゲームよ!」

  そんなの知りませんって。僕は仕事場以外ではパソコン使ったことないんですから。

  「んもう。つれない顔するわねぇ。この葉月ちゃんがいいのよ〜。ほら。みてごらんな
  さい」

  って仕方なく箱を受け取る。秋葉原に聞き込みがてらって・・・こういうことだったの
  か。まぁそれはいいや。上司がそういうんだから。おそるおそる箱を見る。ん?ん!?

  「この眼鏡の娘が葉月ちゃん。かわいいっしょ」
  「かわいいっしょ、ってこれ・・・」
  「ん?エロゲーよ?」
  「・・・」

  こともあろうに、仕事と称して来たはいいが、エロゲーを買うのにつきあわされるとは
  ・・・トホホ。

  「かすみさん、こんなゲームやるんですか?」
  「まーねー。最近のエロゲーはシナリオもゲーム自体もおもしろいんだから。下手にコ
  ンシューマのゲームをやるよりよっぽどたのしいのよ。わかってないわねぇ。前作だっ
  た『RIA』や『NONAK』なんか初回限定版が定価以上で取り引きされているのよ!」

  ・・・別にわからなくてもいいです。ていうか、いつプレイするんだ?この人は。うち
  に帰ったら速攻寝ると豪語していたのに・・・

  「んじゃ、GETするものはGETしたし。帰りましょうか?」
  「・・・へいへい」
  「『はい』でしょう?ボクちゃん?」
  「・・・ハイ」

  はぁ・・・住んでる街まで同じなんて、なんて不幸なんだろう。僕。