<8th Day:Kasumi's Eye>

  昨日は飲みにいったはいいけど、なんか疲れちゃったな。それもこれもあのアホ田のせ
  いよね!せっかくの証拠になりうるパソコンのデータをあっさりと消しちゃうんだから。
  どうしようもないアホを部下に持つと上司は大変だわ、まったく。

  時間より30分ほど遅れて登庁。ま、これくらいなら許容範囲っしょ。あたしにも上司
  はいるけど、あんなくされオヤジいつでもひねり潰せるからね。ちょっと色香を使えば
  はい問題なし、だし。エロオヤジにも困ったものね。

  ・・・と思ったけど、高幡クンは?あら珍しい。ちょっと飲ませすぎちゃったかしら?

  ピロロロロロ・・・・ピロロロロロ・・・・ピロロロロロ・・・・

  「はい、雨宮」
  「あ、かすみさんですか?高幡です」
  「あーら、遅いじゃないの?どうしたの?」
  「いまYEKにいるんですが、こられます?」
  「え?」
  「例のサブリミナル映像、解析したんですよ、川俣が」
  「なんですって!どうしてそれを早く言わないの!」
  「いや、なんか僕の携帯にかけてきて『すぐ来てくれ』って言うもんですから・・・」
  「(あの男、あたしにかけるのが怖かったのね)」

  わかった、今から行くわ、と伝え電話を切ると、鉄砲弾のように飛び出していった。だ
  って例のサブリミナルよ!?なにが出てくるのか興味あるじゃないの!

  30分強かかるところを20分弱で到着。高幡クンに、かすみさんでもやればできるじゃな
  いですか、と言わせしめちゃった。もちろん、デコピンしてやったけど。

  「で、解析できたってホント?」
  「い、いや・・・実は100%ではないのですが、とりあえず少しだけ見えてきたので、
  連絡したんですが・・・」

  連絡するならあたしにしなさいよ!今度ふざけたマネしたら、本気であのFD公開する
  わよ!と脅してやった。今後は何があってもあたしに真っ先に連絡くれるって。

  で、サブリミナル映像は、どうやら3枚くらいの画像から成り立ってるみたいなんだけ
  ど、とりあえず1枚だけ解析して、復元したみたい。え?もう1つも進んでる?だった
  らそれも見せなさいよ!

  デジタル画像だから100%復元できるのかと思ったんだけど、こんな中小のソフトハ
  ウスにあるような器材じゃそんなことはできないんだって。だから、モザイクがかかっ
  たようなぼやけた画像しか復元できないと、川俣。ま、本庁に頼めないんだから仕方な
  いわね。時間をかければ多少はマシになるらしいから、今後もしっかりやってもらうよ
  うに念を押して・・・

  「これがその画像です」

  データは飯田のパソコンから川俣のへ移してあるらしく、川俣のPC(というかワーク
  ステーションってやつ?これ?)のモニタから出力された・・・その映像は見るも無残、
  なんだかモザイクがかかったようなピンボケした写真のようなまるでつかみ所のない画
  像だったのよ!

  「は?なに?これ」
  「モザイクなんてもんじゃないですね・・・全然分かりませんね。なんとなく人間っぽ
  い感じがするんですが、かすみさんはどうです?」
  「うーん、そうね。そんな感じもするわね。人間の顔っぽいわね。頭が茶色っぽいし、
  リボンっぽい赤いのもあるわね。てことは女?それも若い。川俣さんはどう思う?」
  「う、僕にふらないでくださいよ・・・まぁ、僕も女の子って線に同意しますよ。しか
  も色合いとか明るさからみて、CGじゃありませんね。実写です。写真をスキャンした
  かなんかの画像だろうと思います」
  「その女の子は一体誰なのかしら・・・犯人?事件に関係する人物なのかしら・・・」

  一部わかったといっても、これじゃぁねぇ・・・川俣にデコピンしてやりたい衝動を抑
  えて抑えて。これからもがんばってもらわなきゃいけないからね。アメとムチは使いよ
  う。

  「で、高幡クンはどうみる?」
  「え?この女の子が誰かですか?難しいですね。被害者の誰かの知りあいでしょうか」
  「うん。そんなところかもね。というよりは・・・」
  「というよりは?」
  「全員と知り合いだったんでしょうね。でなきゃサブリミナル映像として流してもあま
  り意味がないでしょうし」
  「ああ、なるほど。確かにそうですね。ということは、その辺の歌謡曲のアイドルとか?」

  きみねぇ・・・なんか古臭い言い方じゃないかい?

  「ほっといてください!」

  あらあら、図星つかれて怒ってる。ま、そんなことはどうでもいいんだけど。有名人な
  のかしら。どっちにしたって、このモザイクばりにぼやけてる画像からじゃ何も読み取
  れないわ。

  もう一つの画像は?なに?白地に黒い文字みたいなもので書いてあるけど・・・やっぱ
  りモザイクみたいなのがかかっててまるでみえないじゃない!・・・ってことは見えて
  きたという二つの画像は・・・もしかしてまだこんなレベル?

  「で、このモザイクはいつになったら取れるの?モザイクはずすの得意じゃない?ちゃ
  っちゃと取っちゃってよ」
  「・・・そう言わないでくださいよ」

  既に川俣は涙目。さすがかすみさん、相手の弱いところにつけこむのが上手い。恐ろし
  いほど上手い。敵に回したくない度No.1とまで高幡クンに言わせしめたあたしの口撃が
  炸裂。

  「なるべく最優先で作業してるんですよ、これでも・・・」
  「わかってるわよ!だからそれでどれくらいかかるの?って聞いてるんじゃない!」
  「この画像をある程度鮮明にするには・・・早くとも今日の深夜くらいです・・・」

  わかったわ、んじゃ今日の夜また来るから、きちんと仕上げておいてね。しっかり念を
  押してYEKを後にした。

             ☆              ☆              ☆              ☆

  とりあえず現場である秋葉原に戻って来たあたしと高幡クンは、とりあえずお茶。お茶
  というとサボってるみたいだから、喫茶店で作戦会議、って言い直しちゃおうかしら。

  「なーんか、期待はずれー」
  「まぁまぁ、そう言わないであげてくださいよ。あれでも相当がんばってるように見え
  ますよ。かすみさんだって、分かってるくせに」
  「まーねー。仕方ないのも分かってるけどさぁ、あと少しってところでモザイクかかっ
  てるってのが、気に入らないのよね〜。まさにAVの理屈」
  「なんですか、それ?」
  「みえそで見えない、って奴よ」
  「・・・」

  んもう、冗談が通じないんだから。とにかく、あの状況、あの画像からじゃどうしよう
  もないわけで、なんとかしてなんか手がかりを見つけなきゃ。

  「そうですね・・・でも今となってはあの画像が唯一の手がかりですから・・・あれを
  待つしかないかもしれませんね」

  高幡クンの言う通りなんだけどね・・・。

  とりあえずこの間の自殺の現場へ向かってみることにした。現場へは何度も足を運ぶこ
  と。これ捜査の鉄則。行くたびに新しい発見があるかもしれない。

  昭和通りから、JR線との立体交差をくぐって電気街方面へ。そのくぐって、抜けた時
  のことだった。

  「あれ?こんなところに花束が置いてありますよ、かすみさん」
  「ん?あら、ホント。なにかしら?」

  こんな道路の道端に花束が置いてあるのは不自然。なにかしら。誰かが捨てていった?

  「捨てていったんですかねぇ。最近の若者はものを粗末にすることにかけては天下一品
  ですからね」
  「自分だって若いじゃない。それに若者が捨てたなんて証拠はないわよ」
  「え、ええ。それはそうですけど・・・でも僕はあそこまで粗末にはしませんよ」

  そうね・・・なんか最近の子達ってモノを大切にしないのよね。お金で買えるものが多
  くなってきちゃってるからだと思うんだけど・・・なんでもお金を出せば買える時代と
  いうのも問題アリよね・・・

  その場を過ぎていったあたしたち。それを後悔することになろうとは・・・

  「とりあえず、デスクにもどりますか」
  「うーん、仕方ないわね。川俣からの連絡を待ちましょうか」