<7th Day:Takahata's Eye>

  被害者たちに共通していること?殺され方が共通している?いや、殺され方は最後の一
  人だけ異なるから除外。

  秋葉原であること?うーん。確かに共通してはいるが、ちょっと漠然としてるな。秋葉
  原と言えば?電気街・・・パソコン・・・ん?パソコン?

  「そうか。パソコンですね!被害者たちは秋葉原を熟知してる。必ずと言っていいほど
  パソコンを持っているんだ。飯田がそうだったように。そしてインストールされている
  のが、RIAなんだ。つまり被害者たちに共通しているのはRIA。はっきりいってしまえば
  例のサブリミナル映像を見たのかもしれない」
  「・・・そう。ちょっとヒントが多すぎたかもしれないわね。要するに川本の家を捜査
  してPCがあれば第一段階クリア。そしてRIAがあれば第二段階クリア。さらにいえば
  例のシーンにサブリミナル映像が追加されていればまさにBINGO。あたしたちの仮定は
  正しいと言うことになると思うわ」

  そういうことで善は急げ。川本の部屋にGO!

  「ただいまかえりましたぁ〜」

  その気の抜けた声は・・・アホ田!

  「はいはい。おかえり。あたしたちは川本のところに捜査に行ってくるわね。ちょっと
  気になることが見つかったから」
  「え?また行くんですか?僕が調べてきたのに・・・」
  「ちょっとね。そういえば、川本の部屋にはパソコンあった?」
  「ええ、ありましたよ。僕が再インストールしてきました」
  「え゛?」
  「いや、家族の方に頼まれまして・・・このままじゃなんかいろいろソフトが入ってて
  使いにくいから再インストールしてくれって。断るのも悪いのでやっちゃいました。な
  にかまずかったですか?」

  さ、再インストール?つーことは、川本が自殺した時点のデータは・・・

  「ええ、きれいさっぱりですよ」

  ・・・あ、あれほど部屋はそのままにしておけって言っておいたのに!アホは死んでも
  直らないのね・・・せっかく捜査が進展するかもしれなかったのに・・・あたしが偉く
  なったら絶対クビにしてやるんだから。

  「かすみさん、で、どうして川本の家に捜査に行くんです?」
  「・・・(もう行かないわよ。アンタのせいで)」

             ☆              ☆              ☆             ☆

  「結局振り出しに戻ると言った感じですね」
  「そうねぇ・・・あのアホがおかしなマネしてくれなきゃ、少しは進んだのかもしれな
  いのにね」
  「そうですねぇ・・・ま、とりあえずは川俣のサブリミナル映像の解析の結果を待ちま
  しょう」

  なんかうまく行かない日だな。

             ☆              ☆              ☆             ☆

  「ふぅ。やっぱり夏はビールよね、ビール!」
  「そ、そうですね」

  傍目も気にせずビールをガブ飲みするかすみさん。確かに素晴らしい飲みっぷり。なん
  とも今日はうまく行かなかったので2人でビアガーデンでいっぱいやろうと言うことに
  なったのだった。無論、上司であるかすみさんのおごり・・・なはずもなく、男である
  僕のおごりと言うことになっている。この間飯田が殺された日、あの日のことはあまり
  覚えてないんだけど(そりゃそうだ。あれだけ飲まされたんだ)、そういえばあの日はか
  すみさんにおごってもらった記憶がある(というか払った記憶がないだけかも)。ま、た
  まには日ごろのご愛顧にお応えしてってのも悪くないだろう。先方はそんなこと微塵も
  思っていないだろうけど。

  今までに何度も思ってきたことだが、かすみさんは実は結構理想の上司だったりするん
  じゃないかという気がしているのだ。たまに訳も分からずキレたり、不思議な行動にで
  たりすることもあるが、結構部下思いなんじゃないかな。仕事のこなしかたも確かに合
  理的で効率的だし(でも、なるべく仕事をしないで他人に押し付ける癖があるんだよな)。

  「ほれ?高幡クンも飲め飲め」
  「へ?あ、は、はいはい」

  かすみさんは飲んでも飲まなくてもテンションはあまり変わらない。酒に強いんだろう。
  僕?僕は・・・まぁ普通かな。弱いわけではないが、決して強いわけでもない。かすみ
  さんのペースで飲んでたら、すぐにダメになると思うと、やっぱり普通なんだろう。

  「しっかし、あのアホにはまいったわね〜。ほーんと困っちゃう。なんで、あれほど現
  場を残しとけって言ったのにPCを再インストールなんかしちゃうのかね」
  「山田さんのことですか?でも、家族に頼まれたって言ってましたし、ある意味仕方な
  いことなんじゃないですか?」
  「ホントにそう思う?自分の身内が自殺したのよ?で、警察が調べに来て、それで現場
  を残しておくべきなのに、1日もたたずに現場保存を解除するなんておかしいと思わな
  い?たった一人しかその現場、いえ、現場じゃないかもしれないけど、重要な手がかり
  があるかもしれない部屋を片づけちゃったのよ!」
  「そ、それはそうですが・・・警察と言えども、家族の意向には逆らえないってのが本
  音なんじゃないですかね?わたしもその場にいたとしたら、再インストールしてたよう
  な気がします」
  「・・・」
  「すみません。軟弱な男で」
  「・・・ううん。それで正しいと思うわ。アホ田は正しい決断をしたと思う。手がかり
  が消えるのは残念だけど。いくら警察とは言え家族の希望を差し置いて警察権を行使す
  るのはやはり誤りよね。ただですら自殺とはまったく関係のない場所ですもの。これが
  まさに自殺の現場であるなら現場保存が第一になるかもしれないけど、今回で言えば・
  ・・仕方ないわよね。アホ田の決断は正しかったんでしょうね。どうせそこまで考えず
  にやったんでしょうけど」
  「別な方面からひょっこり手がかりが出てきますよ、きっと。なんかもうすぐすべての
  糸が繋がるような気がするんです」
  「なーにいっちょまえなこと言ってんのよ!ほれ、飲め飲め!」

  あ、ちなみに山田さんって言うのは僕の2年上くらいの先輩で、周りからは疎ましがら
  れてる人。僕はそれほど嫌いじゃないんだけど。奇しくもかすみさんの部下に当てられ
  てしまった人。あ、それは僕もそうか?しかし、山田さんも、かすみさんの部下でよか
  ったんじゃないんだろうか。つくづく思うんだが・・・

  ふと気になったことをかすみさんに聞いてみた。サブリミナル映像を見て、暗示をかけ
  られた被害者たち。暗示をかけられて殺されるというのはどういうことなんでしょう。
  暗示をかけて人を操って殺すというのなら分かるんですが・・・飯田も暗示をかけられ
  て殺されたということなんでしょうか?暗示をかけられてさらに死ぬというのは、自殺
  か、その辺のヤクザにでもケンカを売らない限り出来ないような気がするんです。でも
  現に飯田は殺された。多分他の6人もサブリミナル映像を見てから殺された。

  今日自殺した川本は特異ですよね。まぁ彼が犯人でないという前提で話してますけど。
  他の被害者はすべて殺されているのに、彼だけが自殺。これは何を意味するんでしょう。

  そもそも自殺かどうかもまだはっきりしてないんでしたっけ。ただ遺書が置いてあった
  だけですもんね。もしかしたら誰かに殺されたのかもしれないし。暗示にかけられて遺
  書を書かされ、自殺に見せかけて殺されたとも取れますし・・・でも、そもそも一人だ
  け殺害方法が違うというのも気になりますよね。だとするとやっぱり自殺なんでしょう
  か?って、僕、なんか変なこと言ってますね。忘れてください。

  「・・・かすみさん?」

  今までに見たことのないハイペースで飲んでいたかすみさん。僕が独白している間に既
  におやすみになっていました。ま、今日は暖かいし、もう少し寝かせてあげよう。しか
  し起こす時は至難の技なんだよな・・・なかなか起きないんだよな・・・かすみさん。
  しかも起こすと強烈に機嫌が悪いし・・・はぁ、これも部下の務めか。

  「・・・いいセンついてるわね。高幡クン」
  「え?か、かすみさん、起きてたんですか?」
  「・・・むにゃむにゃ・・・」

  ・・・やっぱり寝てる。起きているわけがないか。閉店まではもう少し時間があるし、
  寝かしておいてあげよう。その間にもう少し考えてみようか。おもむろに紙とペンをと
  りだし、書き始める。酒飲んでるのに、なぜかやる気がある。今日はなんか冴えてるの
  かな?

  1人目から7人目までの殺人と8人目の自殺の関連性は?
                         つまり
  8人目の自殺者はRIAをもっていたのだろうか?サブリミナル映像を見たのだろうか?

  だめだ。僕はここまで書いて紙をぐちゃぐちゃに丸めてしまった。やっぱり冴えてない。
  いつものことよ、とかすみさんなら言うのだろうが・・・

  「ふーん。いつものことだから仕方ないけどねー」
  「・・・!?」

  ボーッとしていたその刹那、丸めた紙をまじまじと見つめていたのは・・・かすみさん。
  うわ、見られちゃった。

  「ホント、いい線ついてるんだけどね。あと一歩センスがないのよねぇ」
  「すみませんね、センスなくて」
  「ま、あたしがセンスありすぎるって言う話もあるけどー」
  「・・・」
  「発想の転換をしてご覧なさい。8人目の自殺者。自殺じゃないとしたら?」
  「もちろん他殺ですね」
  「よね?じゃぁなんで自殺に見せかけたのかしら?別にいままでと同じで、背中からグ
  サッで、いいわけじゃない?」
  「・・・そう言われてみれば、そうですね」
  「でしょ?そこを敢えてそうしないで自殺にみせかけて殺した。しかも自分が犯人であ
  るという遺書を残して」
  「そこが解せないところですね」
  「もうすこしヒント。あなたが犯人だとする。8人殺そうと思い、7人まで実行した。
  あとの1人はどうする?」
  「え?今までと同じく普通に殺しますけど」
  「・・・その辺がセンスないわよね〜すぐに捕まっちゃうわよ」
  「そんなセンスいらないですよ!・・・ん?8人殺そうと思った?8人目は自殺・・・
  8人目に遺書・・・そうか!」

             ☆              ☆              ☆             ☆

  「正解は?」
  「犯人にとって、これで目的が達成された、ということですね!」
  「ピンポーン。随分時間がかかったわね」

  なるほど。こういうときのかすみさんは恐ろしいほど頭が切れる。やはりセンスが違う
  といわれてしまうとそれまでなんだけど・・・

  「自殺に見せかけて殺すのはそれで自分の殺人が終わるというサインにもなるわけよ」
  「これ以上殺人が起きなければ正しいということになりますね」
  「手がかりがない以上、とりあえずそう信じて捜査するしかないわね。でないと、あの
  川本って男が犯人に仕立て上げられてそれで捜査打ち切りになっちゃうわ」

  ということは、犯人はこの8人を殺す動機があったということになる。無差別殺人でな
  いとすれば。無差別殺人を行うのだったら、なにもインターネットから8人選んで、な
  どという遠回りな方法を使う必要はないだろう。8人を殺す媒体としてRIAを使用した
  というだけで、8人の関連性は他にもあるはずだ。そこから真犯人の殺人の動機が見え
  てくるんじゃないだろうか。

  かすみさんとの結論はそういうことに落ち着いた。問題はその関連性を探すのが難しい
  ということか・・・

  「というわけで、飲め飲め」
  「え!まだ飲むんですか?もう閉店じゃないですか」
  「だって、あたしが寝てる間どうせサボってたんでしょ?」
  「サ、サボってただなんて・・・」
  「文句を言わずに飲む!」

  翌日、ふらふらになっているだろう自分を想像するのに数秒もかからなかった・・・