<7th Day:Kasumi's Eye>

  またもや秋葉原。今度は自殺。もう1人くらいとは確かに言ったけど、自殺じゃあねぇ。
  そんな不謹慎なことを考えながら現場へ向かう。自殺したのは28歳の男。見た目から
  も服装からもぱっとしないいかにもオタクっぽい風貌だ。

  一通り現場を改めてから一息ついていたところに・・・

  「あ、かすみさん!」

  後輩(というか部下。いいえ、部下なんて呼べたもんじゃないわ。高幡クンより頭がま
  わらないから使い物にならない部下。もっぱらデスクワークばっかりやらせてるのよ)
  があたしの名前を呼んでる。はいはい。今行くわよ。

  「自殺なんでしょ?適当に処理すればいいじゃないの。なんで捜査中のあたしたちが呼
  び出されるワケ?」
  「すみません・・・遺書が残ってまして・・・」

  ああっ!もうじれったいわね!あたしはおそるおそるそいつが差し出す遺書とやらをひ
  ったくって読み始める。

     『一連の殺人は僕の仕業です。申し訳ありませんでした。死んでお詫びします』

  「・・・」
  「かすみさん、なんて書いてあるんです?」
  「高幡クン・・・読んで」
  「え?は、はい」

  一瞬の沈黙。たった1行の遺書。

  「・・・で、これによってこの事件は解決なんですかね?」
  「・・・そんなワケないっしょ」
  「でもお言葉ですが・・・」

  口を挟んできたのは例の使えない部下その1。

  「こうやって遺書がある以上、それを信じるのが捜査の基本なんじゃないですか?」
  「・・・」
  「とりあえずこの人の身元を割り出して家族の話を聞いて・・・」

  あたしの中で、何かがはじけた。

  「ああ!うるさいわね!だったらアンタはそうしなさいよ!アンタ、バカじゃないの?
  それ以前にこの遺書が本人によって書かれたものか判断するのが先でしょ!良く見たの?
  この遺書、いかにも女の子が書いた文字よ!こんなムサイ男が書くような文字じゃない
  ことくらいみてわかんないの?」
  「・・・」
  「とっととこの男の身元を割り出して家族に話を聞いてきなさい!」
  「は、はいっ!」

  アホ部下1は一喝されて逃げるように出かけていったみたい。まったくアホな部下を持
  つと苦労するわね。

  「いいんですか?あんなに言っちゃって」
  「いいのよ。あれくらい言っても何とも思わないくらいアホだから」
  「・・・」

  まぁ確かにあたしの言ってることは根拠ないんだけどね。もしかしたらこんなムサイ男
  が女の子が書くような字を書くかもしれないし。でも普通に考えたらそれはありえない
  話だもの。そんなことも分からないアホに用はないわ。

  「ということは、この遺書を書いた人間が犯人だということになるんでしょうか?」
  「うーん、確証はないけど、その確率が高いんじゃない?犯人が書いた遺書だとすれば」

  まぁとりあえず現場の処理はお願いして署に戻りましょうか。

             ☆              ☆              ☆             ☆

  とりあえず今まで起きてきたことを頭の中でまとめつつ、報告書を作成。これだからお
  役所はイヤなのよね・・・なんでも報告書報告書って。めんどくさいったらありゃしな
  い。ま、それで給料もらってるんだから仕方ないんだけどね。

  そんな時に携帯が鳴り響く。ん?ああ、アホ田クンね。

  「はいはい。雨宮」
  『あ、かすみさんですか?身元判明して、その人のうちを調べさせてもらったんです』
  「はいはい、それで?」
  『あの遺書なんですが・・・』
  「なによ」
  『やっぱり本人が書いたものに間違いないそうです。筆跡というかクセが見事に一致し
  ます』
  「・・・」
  『筆跡鑑定をするまでもなく、同じです。本人の書いたものが机の上に結構あったので
  すが、遺書とまったく同じ女文字でした』
  「・・・」
  『聞いてます?かすみさん?』
  「え、ええ。ご苦労様。んじゃとりあえず戻ってきて。あ、その人の部屋はなるべくそ
  のままにしておいて。ちょっと調べさせてもらいたいから」

  それはそれは・・・一大事。困ったわねぇ・・・

  「例の遺書なんだけど、犯人が書いたものじゃなくて、本人が書いたものだそうよ」
  「え?あの女の子女の子した文字で書かれてたあの遺書がですか?」
  「そ。人はみかけによらないものねぇ。なんて言ってる場合じゃなくなってきちゃった
  んだけどね。高幡クン、どうしよう」

  つまり今日自殺した男が犯人である可能性が高いということになってしまう。ホントに
  その男が犯人なのかしら?あたしのカンではそうではないと言っているんだけど。高幡
  クンはどう思ってるのかしらね。

  「僕ですか?やっぱり犯人は別にいると思いますね」
  「どうして?」
  「すでに7人を殺している犯人がいまさらそれを苦にして自殺するとは思えませんよ。
  それにそうなってくるとRIAの一件が説明できません。なぜ犯人はRIAにサブリミナル映
  像をかぶせる必要があったのか」
  「そうね。なかなか鋭いわ。つまり、今日自殺した男・・・えっと名前なんていうの?
  ・・・ああ、川本潔ね。川本も誰かに殺された、と仮定することも出来そうね。遺書ま
  で書かされて」
  「つまり8人目の犠牲者だということですね」
  「ピンポーン」
  「その確証は得られるんでしょうか」
  「それを得るのがあたしたちの仕事よ。頭を使いなさい」
  「うーん。確証か・・・」
  「確証は得られないかもしれないけど、ヒントなら得られるかもしれないわよ」

  ちょっとヒントをあげちゃおうかな。いままで殺された7人に共通している事柄はない
  かもしれない。でもそれは見た目だけ。必ず共通点が存在してると思うの。いままでの
  あたしと高幡クンとのやり取りの中にヒントは隠されているわ。高幡クン、あたしはあ
  なたのセンスに期待してるんだから。きちんと答えてちょうだい。