<6th Day:Kasumi's Eye>

  結局、あたしのPCからは手がかりが見つからずじまい。失意のうちに署に戻ることに
  なってしまった。残念だけど、まぁそう簡単に解決する問題でもないと思うけどね。

  「か、かすみさん!」
  「な、なによ!いきなり大声出して」

  急に高幡クンがあたしの名前を呼ぶ。その顔からすると、なにかひらめいたのかな?

  「あのですね、さっきのインターネットシナリオってのをダウンロードするってことは、
  インターネットに接続してるってことですよね?」
  「当たり前よね」
  「でもかすみさんはしていない、と」
  「そうね。時間がないから」
  「でも被害者たちはダウンロードしてたんじゃないですか?」
  「!?」
  「被害者たちとかすみさんのPCの違いをずっと考えてたんです。かすみさんとの違い
  はそこしかないと思うんですよ」
  「・・・」
  「そのインターネットからシナリオをダウンロードすればサブリミナル映像が一緒に送
  られてくるってことはないでしょうか」

  高幡クン、今日は冴えてるわね。さっそくウチに戻ってダウンロードしてプレイしてみ
  ることにしようかしら。善は急げ、よ。

           ☆              ☆              ☆              ☆

  またもや自宅。高幡クンの名案を試すべく、再度PCをONに。

  『ふにょ〜ん。おっはよ〜。今日もがんばるしかないにょ〜。れっつ、ご〜』

  なんともかわいい声が部屋にこだまする。みなみちゃん、かわいい〜。スリスリしたく
  なっちゃうかわいさよね〜。

  「で、そのインターネットシナリオとかはどうやるんです?」
  「あ、そうだったわね。待ってね。インターネットに接続しなきゃ」

  そういって、ルータの電源をONにする。うちのマンション。専用線接続でいつでもイ
  ンターネットOKってやつなのよね。でも、常時接続ってやっぱり恐いから(だって、
  いつ誰にあたしのPCを覗かれるかもしれないじゃない?)、いつもはルータ(つまりイ
  ンターネットへのウチ側の玄関口)の電源は切ってるの。そうすればインターネットには
  接続されないから安心ってワケ。必要な時だけ電源を入れて接続するってこと。

  「はい。おまたせ」
  「もう繋がってるんですか?」
  「ええ。1.5Mだから早いわよ」
  「1.5Mって?」
  「高幡クン、そんなことも知らないの?・・・困ったものね」
  「だから、僕はこういうのに疎いんですって」
  「そんなんじゃ今の時代についていけないぞ。1.5Mってのはね、回線のスピードのこと。
  数字が大きいほど早いのよ。1.5Mってのは1500k。いまはやりのISDNが64kだから、ざっ
  と20倍以上のスピードってことになるわね」
  「は、はぁ・・・つまりすごいはやいということですね」
  「そういうこと」

  10分ほど回線についての講義をしてあげた(でもホントに分かってるのかしら)あとでい
  ざインターネットシナリオをダウンロード。ダウンロード自体はものの数分で終わっち
  ゃった。さすが早いわね。

  「もう終わったんですか?」
  「そ」
  「じゃぁ、そのさっきのシーンを見てみましょうよ」

  そしてまたもや例のお約束シーンを見る。1日に何回もこんな絵を見るのもアレね。し
  かも凝視しなきゃいけないなんて。端から見たら変態としか見えないワケよね・・・こ
  れが高幡クンだったからよかったものの・・・

  「ところでかすみさん」
  「んー、なあに?」
  「こうしてみてるとなんか変態じみてますね。じっと凝視してるのって」
  「・・・高幡クン。査定マイナスね」
  「えー!そ、そんなぁ・・・」

  自業自得よ。あたしはこんなに一生懸命捜査してるっていうのに。失礼しちゃうわっ。

           ☆              ☆              ☆              ☆

  「手がかりなしでしたか・・・」
  「確かに名案ではあったんだけどね・・・」

  結果から言うとNO。サブリミナル映像は見られなかった。インターネットシナリオか
  ら配信されてきているわけじゃないってことね。

  「ん?でも待てよ。かすみさん?このインターネットシナリオって、良く見てみたんで
  すが、YEKだけから配信されるわけじゃないんですね」
  「え?そうなの?どれどれ・・・あら、ホント」

  インターネットシナリオはRIAの付属シナリオという位置づけだけど、一般のユーザも
  作成が可能になっていて、配布も可能ってことになってるみたい。ということは・・・

  「ということは、犯人がサブリミナル映像入りのインターネットシナリオを配布してい
  るとすると・・・」
  「なるほど、高幡クン!ビンゴよ!犯人がどうやってサブリミナル映像入りのデータを
  被害者だけに送り付けることが出来たのか!いままでどうして気付かなかったのかしら。
  あんなにゲーム自体はやっていたのに」
  「被害者にだけシナリオを配信してしまえば他の人間の目に触れることなく特定の人間
  にのみ見せることが可能になりますね」
  「それは電子メールなどを使って巧みに送り付けたんでしょうね。被害者のメールの中
  身をチェックすれば分かることだと思うわ。被害者に共通のメール、それもインターネ
  ットシナリオがについて書かれていればそれが犯人からのメールということになるわね」

  やっと犯人の手がかりをつかむことができたわ。あとはしらみつぶしに被害者のメール
  のチェックをするだけね。人のメールを覗くのはちょっと気が引けるけど、捜査のため。

  「じゃぁかすみさん、とりあえず飯田のうちにいきましょう。あそこならまだ親御さん
  が荷物を取りに来ていないはずです」

           ☆              ☆              ☆              ☆

  「う〜ん、そんなメール、見つかりませんね」

  さっきからモニタに穴が空くくらい探してる(もちろん探すのは高幡クン)んだけど、全
  然その手のメールが見つからない。つまり犯人はメールを送ってインターネットシナリ
  オを配信したってわけじゃないってことかしら・・・

  でも、そう考えると、サブリミナル映像の配信方法が不明。電子メールを使って送り付
  けたことは多分間違いないはずだから、どこかにメールがあると思うんだけど・・・

  「かすみさん・・・みつかりませんよ」
  「うーん、おかしいわねぇ・・・」
  「ところで、かすみさん。メールって削除も出来るんですよね?」
  「もちろん、ゴミバコにポイってできるわ」
  「飯田の奴、捨てたってことはないですかね」
  「でもこのPCを見る限り、来たメールを捨ててしまうようには見えないわ。きちんと
  わけてとって置くような几帳面そうな人じゃないの?」
  「ええ、そうなんです。飯田は昔から几帳面だったんですよ。だから、メールを1通だ
  け捨てるなんてことはないと思うんですが・・・」

  でも見つからないとなるとその可能性だってないわけじゃないわよね。サブリミナル映
  像の中で『メールを消せ』という指示がなされていたらどうなる?うん!その可能性は
  ありそうな感じ。

  「でもそうだとすると、差出人から犯人が割り出せなくなっちゃいます」
  「・・・そうね。犯人も手の込んだことをしてくれるわねぇ」

  手がかりはつかめど、先に進めず。インターネットシナリオを被害者に配信したのは一
  体誰なの?何のために?サブリミナル映像によってどうやって殺害されたのか?殺人は
  同一犯なのか?それとも複数犯なのか?このインターネットシナリオが配信されたのは
  これで終わりなのか?そうでないとするとまだ殺人が起きてしまう。そもそもこの考え
  が正しいのかどうかすらいまだ不明確。インターネットシナリオ=サブリミナル映像と
  いう確証が欲しいわね・・・まだソフトハウス『YEK』の犯行という容疑が晴れたわけ
  じゃないからそっちのセンもあたらないとだめかしら・・・

  考えなきゃいけないことが多いわ・・・