<1st Day:Kasumi's Eye>

  「ん?これは・・・」

  見るも無残に背中からめった刺し。これで5人目だ。死後それほど経っていないからか、
  血の匂いが鼻につく。床を奇麗に掃除したところで死体からの血の匂いは消えるわけじ
  ゃないわね。

  「で?5人目なわけね・・・」

  私はタバコに手を出し、口にくわえ・・・火をつけようとおもったが止めておいた。さ
  すがに死者の前だもの。私にも礼儀ってモノがあるところを見せておかないとね。キャ
  リア組だとおもって蔑視してる奴が多いもんだから。ここでタバコ吸ったらなにいわれ
  るかわかったもんじゃないわ。ま、もちろんそんなことを意に介す私じゃないけど、死
  者の前での礼儀って話。

  「で?」

  私はいつものようにちらりと横を向いて問い掛ける。相手はふたつ年上の警部補。でも、
  部下。私は警視。キャリア組のほうが偉くなるに決まってるのよね。今の警察機構では。

  「はい。ガイシャは・・・『内山武』21歳。ここから近くのT大学の学生ですね。背
  中を刺されて出血多量にて死亡。死後4時間くらいでしょうか。それくらいです。今の
  ところは」

  ふむふむ。死後4時間ね。とりあえずメモしておく。

  「ところで以前としてこのガイシャたちの関連はつかめないの?」
  「ええ、一応調べてはいるんですが・・・直接結びつくものは何もないんですよ」

  この街、秋葉原で起きた連続殺人事件。今のところ1日おきに5人が殺されている。ガ
  イシャの共通点はなし。いえ、一つだけ・・・これは私だけが分かっているコト。多分
  この殺人事件の鍵になるものと信じている・・・。でもいまは言えない。こういうこと
  は最後に種明かしとしていうもんでしょう?明智小五郎然り、エルキュール=ポアロ然
  り。

  「しっかし・・・」
  「は?」
  「眠いわね」
  「え?」
  「眠いのよ!」

  そりゃそうよ。折角早く帰って寝てたのに、寝入りっぱなをたたき起こされて・・・今
  何時だとおもってるのかしら。2時よ、2時。若い女は睡眠をとらなきゃ美しい肌は保
  てないのよ。分かってるのかしらねぇ。

  「で、もう帰っていいの?」
  「かすみさん、そりゃないですよ。一応仕事ですから、最後までいてください。でない
  と僕が部長に怒られちゃいます」

  私?ああ、自己紹介してなかったかしらね。私は雨宮かすみ。もう27歳。未婚。いい
  男いないかしら・・・。これでも警視。警察機構の中に暮らす麗しき乙女。

  隣にいるのは私の部下の高幡。名前?そんなもの覚えてないわよ。なんで部下の名前ま
  で覚えておかなきゃいけないのよ。そんなことに私の脳細胞は使えないの。

  「はいはい。分かったわよ。仕方ないわねぇ。ちゃっちゃと終わらせちゃってちょうだ
  いよ」

  一通りの命令を済ませると、近く似合った自動販売機で缶コーヒーを買う。キャリア組
  だもの。こういう時はのうのうとして見てるものよ。もちろん、頭の中は・・・

  「ちょっとかすみさん!『早く帰りたいわねぇ〜』とか思ってるんでしょう!ちょっと
  は考えてくださいねっ!」

  ギクッ。

  「な、なによ!私が何も考えてないみたいじゃないのぉ〜」

  タクシーのって必要経費にする方法をずっと考えてたのを見透かすかのように高幡が話
  し掛けてきた。

  夜の秋葉原。

  昼のそれとは全く違う。夜も眠らない新宿などとは全然違う。夜はひっそりと何もいな
  い。いるのは警察官の制服組と私、高幡。他には何も見当たらない。これがホントの秋
  葉原。ネオンも消えて、音もない・・・

  「かすみ先輩。一応現場の調査が終わりました。そろそろ帰ってもいいですよ。検死に
  かけてそれからということになりますね」

  ふぅ・・・こんな季節だけど、夜はやっぱり寒いわぁ。ささっと帰って寝るわよ。寝不
  足はお肌の大敵!

  「じゃあ明日ね」

  明日などといったって、実際はもう今日。さっさと帰って寝るわ。