ボクの命はもってあと数日だといわれている。病名はわからない。誰も教えてくれない。
病人には教えちゃいけないらしい。でも、自分の体だもん。自分で大体わかるよ。自分の
生命力が弱まってきていることくらい。それでもお母さんやお姉ちゃんはそれをひた隠し
にして、ボクにやさしく接してくれる。でも、ボクは聞いたんだ。もってあと数日ですね、
というお医者様の言葉を。それみたことか。みんなボクにやさしくしてくれるのはボクが
もうすぐ死んじゃうからだ。それをボクに悟られたくないからあんなにやさしくして話を
そらそうとするんだ。ボクは知ってるんだ・・・

秋も過ぎて冬になろうとするある日のことだった。外は寒いんだろうな・・・あんなに風
が吹いて木の葉が落ちちゃって丸坊主になろうとしてる。あ、あと1枚しかないよ、はっ
ぱ。こんなときアニメだったら『ああ、あのはっぱが落ちたらボクの命も終わるんだ・・
・』なんてセンチメンタルなことを言わなきゃいけないんだろうけど、あいにくとボクに
はそんな感傷的な心は持ち合わせていない。

どうせボクはもうすぐ死ぬんだ。死ぬ前に・・・なんかちょっと眠くなってきたな・・・
あと数日なのに寝なきゃいけないなんて。ボクの意識は遠のいていった。ベッドのそばに
変なヒトがいるのは気づいたけれど、あまりの眠さに対応できるほどの気力はなかった。

「・・・いらっしゃいませ。『快楽追求公社』へようこそ・・・」

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あれ?ボクは・・・

ここはどこだろう。どこかの小学校?あ、ここはボクが通ってた小学校じゃないか。手に
は・・・片手に収まるくらいの鎌を手にしている。見た限り思いっきり新品だ。その辺の
草でも刈ろうものならスパッと切れてしまいそうな、そんな鎌だ。もう一つの手にはサブ
マシンガン。こちらも片手でらくらく持てる重さの銃。きっと引き金を引いたら弾がぱら
ぱらと出るんだろう。もちろんそんなことやったことないけど。

ん?というよりはボクはなぜここに立っているんだろう。しかも立てるような体じゃなかっ
たはずなのに。なんでこんなにピンピンしてるんだろう。おかしいな。

そうこうしているうちにボクの頭に一つの光景が思い浮かんできた。そういえば・・・夢
の中で契約を交わしたような気がする。望みを何でもかなえてもらえる代わりに・・・変
わりに?思い出せないな。ボクの望み。それは子供を皆殺し。ボクが死んでいくのになぜ
今から大人になっていく子供は死なないんだ!ボクはそいつらを殺してやるんだ。どうせ
ボクも死んでしまうんだから。だから、こうして鎌をもっているんだろう。

早速実行開始。Kill Them All.

何時かもわからないが、今は授業中らしい。校舎の中で子供たちが静かに授業を受けてい
るみたいだ。そこに乱入すればじゃんじゃん殺し放題。まずは当然教師から。さすがに大
人は先に処理しておかないとあとで大変なことになりそうだしね。それから子供を・・・

2年3組と書いてある教室の前に立って深呼吸。さて、ボクの最後の舞台。行くよ!

ガラッ、と扉を思い切り開けてまずは教卓を探す。教師を先に処理するためだ。他のこと
には目もくれないで、銃の引き金を引く。ぱららら、という音とともに教師らしき人が倒
れた。男か女かも見てない。別に関係ないし。

これで問題は片付いた。ここまで数秒。高揚したボクは教卓とは反対側を向く。いた!何
事が起きたのかわからないかのようにじっと座ってるやつら。クソガキども。殺してやる。
殺してやる。コロシテヤル!

ぱらららら・・・マシンガンの弾丸が教室いっぱいに広がる。どんなアホでもあたるだろ。
それでもまだ座ってる。何がおきたのかわかってないんだろうか。まぁいいや。とりあえ
ず目の前の子供の目の前に鎌を振り下ろしてみる。さすがに気づいたのか目の前の子供は
奇声を発して逃げたが間に合わなかったようで肩にざっくり刺さった。ひゃぁぁぁという
わけのわからない声をだしてるので銃の引き金を引いたら、ぴくっと体がはじけたように
なって大人しくなった。さぁ、生きてるガキは血祭りにあげてやる。

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・・・ハァハァ。どれくらい倒しただろうか。覚えてない。手当たり次第に教室に入って
銃を乱射して、鎌を振り回して・・・無我夢中で走り、無我夢中で殺して、無我夢中で逃
げた気がする。ここは、体育倉庫かな。マットや跳び箱がおいてある。なんかカビくさい。
懐かしい感覚がするな。嫌いな先生にいたずらを仕掛けて逃げたりして。逃げる先は決まっ
て体育倉庫だったな。今回はいたずらといえばいたずらかもしれないけど、スケールの大
きさが全然違う。外は大騒ぎになっているはずだ。その証拠にパトカーのサイレンの音が
けたたましく鳴っている。ここは絶対に気づかれない。体育倉庫だけど、ボクだけが知っ
ている秘密。ここの倉庫、二重床になっていて、床の下に隠れる場所があるんだ。これを
知ってるのはボクだけ・・・だと思う。まぁ、どうせそのうち死ぬんだから隠れる必要も
ないんだけど、警察につかまるのも気分悪いしね。隠れてひっそりと死んでいきたいな。
夜中になればさすがに警察も一旦引き上げるでしょ。そのすきにここから逃げ出して、ど
こか一人になれる場所を探そう。そしてゆっくり寝ながら死のう。

夜。まだ日付は変わっていない・・・と思う。ゆっくりと体を起こして静かにあたりを見
回す。もちろん、周りが静かになっていることを確認してからだけど。今なら誰もいなさ
そうだ。こんなカビくさいところじゃなくて、どこか静かなところであと数日の余生を送
ろう。それとももっといろんなことをしてやろうか。いろいろな思いが頭をよぎるその時
だった。体がふっと浮いたかと思うと、急に力が抜けてボクはまた横になってしまったの
だ。え?でも意識はまったく薄くない。体だけが言うことを聞かなくなっている。なんだ
かわからないけど。寝たきりの老人のようにじっと横になって天井を見つめている。こん
な状態じゃいずれ見つかってしまう。早く逃げなくては!もぞもぞと体を動かそうとはす
るのだがどうしようもなかった・・・

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ボクは必死になって体をゆすったり起き上がろうとしたりしたがなしのつぶて。おまけに
人が近づいてきていることすら気が付かなかった。

「お目覚めですか?」

男(多分だけど。暗くてよく見えない)はそういった。

「な、何か用?」
「ええ、ちょっと」
「なんでこんな時間にこんなところにいるんだよ!まるでボクがここにいるのを知ってた
のか?」
「ええ、まぁ」

男はまったく動じる様子もない。どちらかといえば動揺していたのはボクのほうだ。

「お迎えに上がりました」
「な、なんの?」
「ご利用ありがとうございます。『快楽追求公社』のものでございます。あなた様のお命
を頂きにあがりました」
「え?」

何を言っているんだ?ボクはもしかしてこんなに意識がはっきりしてるにもかかわらず実
は既に死ぬ寸前で、こいつは死神とか?

男はそんなボクの気持ちを知ってか知らずか、淡々と語り始めた。

「あなた様は私どもの『極楽パック』にお申し込みいただいたのですよ。あなた様のお命
と引き換えにあなた様の望みをお叶えさせていただきました」
「・・・」
「本来、お命を頂戴するのは数十年後なのですが、今回、あなた様のご要望により当日の
0時にて発動とのご契約をお受けいたしました。あと10分少々にて0時になりますので、
お迎えにあがった次第です」
「・・・ボクはそんな契約をした覚えはない。大体ボクは重病人で病院で寝ていたはずな
のに、なぜこんな学校の体育倉庫で寝ているんだ!」
「それは『約束の刻』がくればおわかりになられるかと存じます。今現在、あなた様の記
憶は契約時のところのみ消去させていただいておりますので。あと数分ですね。数分でお
返しいたしますよ」
「・・・ボクの命を?」
「はい・・・そろそろ『約束の刻』ですね。では、お命を頂戴いたします。ご利用まこと
にありがとうございました。あ、も・・・け・・・・・ん・『約束の刻』は・・後・」

そう言ったのは記憶にあるが、そこでボクの意識は中断した。

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朝。ボクは病院のベッドにいた。普通に。いつもどおりの朝。外には・・・落ちかけたはっ
ぱがまだ残っている。ボクの命もまだ続いているってことかな。しかし、記憶には残って
いる。昨日のことが・・・

どこをどうやって移動したのかもわからない。自分の出身の小学校にいて、鎌とマシンガ
ンを持っていて、そこである教室に入り込んで・・・まず教師を・・・撃った。それから、
子供を撃ちまくって、鎌で切りかかって・・・体育倉庫の二重床の下に逃げ込んだんだ。
生々しい記憶がボクの中に蘇ってきた。でも、ボクはこうして病院のベッドの上で寝てい
る。当然夢だったんだろう。きっと。現実であるはずがないもの。

それに、夢の中に出てきた男はこう言ってた。あなたのお命を頂戴します、と。現実問題
としてボクはまだこうして病院のベッドで生きている。ずっとここに寝ていたんだ。いつ
死ぬかもわからない体で小学校までいけるはずがない。やはり夢だったんだ。

しかしボクは確信していた。さっきからにおう鉄のにおい。布団をかけているので外から
はまったくわからないが・・・

ボクのパジャマは血まみれだった。

体育倉庫の男の言うことが正しかったということなのだろうか。ボクは小学校でかたっぱ
しから銃を撃ち鎌を振り回してたんだろうか。だとしたらなんであの男の契約が発動しな
いんだろうか。だってボクはまだ死んでいない(少なくともボク自身はそう思ってる)。
結局体育倉庫の男はなんだったのだろう。結局0時に命は頂戴されなかったわけだ。

ふいに病室のドアがばたんと開いた。

「いました」
「よし。抑えろ」

け、警察?強そうな男の人がボクの体を取り押さえる。ボスらしき男がボクの目の前に紙
切れを突き出してこう言った。

「殺人容疑で逮捕する」

            ☆                ☆                 ☆                 ☆

コツ、コツ、コツ・・・

ボクの人生は今終わろうとしている。あと数日しかもたないといっていたのは実は隣のベッ
ドの人のことで、たまたまお医者様が話しているその隣でボクの家族が話していたのをボ
ク自身がボクのことについて話していると誤解していたみたいだ。今となってはどうしよ
うもないことなんだけど。結局数日で死ぬことなんかもなく、数ヶ月生き延びるようになっ
たわけだった。本当は死ぬ必要なんかなかったのに。

コツ、コツ、コツ・・・

今わかった。こうなる結末を予期していたから、ボクの命を奪わずにいたのかもしれない。

コツ、コツ、コツ・・・

そうに違いない。最後によく聞き取れなかったけど・・・

コツ、コツ、コツ・・・

(あ、もうしわけございません。『約束の刻』はまた後日)

コツ。

13階段を上り終わったボクにはもう関係もないことだった。