<終章:Epilogue(10 Years Later)> Takeo's EYE あれは、いつのころだったんだろうと思うくらい昔の話しに感じる・・・ 高校を卒業してから10年の月日が経った。成人式を迎え、大学を卒業し(と いってもギリギリの単位数だったのだが、卒業は卒業だ)、大会社とまではい かないまでも、そこそこの会社に就職し・・・ そして結婚しようとしている。まぁ20代も後半だし当然といえば当然だが、 最近では30歳すぎても結婚しない人たちが増えているとかいないとか。人間 の、というよりは生物は種の保存で生きている以上結婚を遅らせることに何に も意味はないと思うのだが・・・ といったくだらない話は置いておくとして。 「・・・武雄さん」 ん?仕度が出来たのかな?どうにも手持ち無沙汰で暇をもてあそんでいる。 「・・・未緒・・・」 「え?な、何かおかしいですか?」 俺の表情を見て不安そうにこちらを見ている。そうじゃない・・・ 「い、いや・・・すごくきれいでさ。びっくりしたんだ」 「・・・そ、そうですか、あ、いえ・・・」 高校を卒業してから大学に進学し(高校受験の時もそうだったのだが運良く志 望の大学に合格できてしまった)、未緒も当然のことながら合格。自宅からは かなり離れた大学ということもあり、一人暮らしを経験することになる。無論、 一人暮らしとは言え・・・未緒が常にそばにいたわけだが。 高校のころから未緒の言葉づかいはほとんど変わらない。強いて言うなら俺を 呼ぶ時に『武雄さん』と名前で呼ぶようになったことくらいか。これもかなり 強く言ったからなんとか変えさせられたのだが・・・ 大学を卒業して未緒は図書館に勤務するようになった。未緒としては願ったり 叶ったりの結果だろうと思う。就職活動も頑張ってたからなぁ、未緒は。 「きれいだよ、未緒」 「・・・あ、ありがとうございます・・・」 付き合い始めて10年たった今でもこんなぎこちない会話が続いている。子供 が産まれたらまた何か変わるかな・・・ 「新郎と新婦の方、そろそろお時間になりますので準備の方よろしくお願いし ます」 遠くの方で式場のスタッフが声を掛けてきた。ああ、もうそんな時間か。たか だか2時間やそこらの儀式だ、我慢するか、と思ってはいたが、やっぱりイヤ だな。こっぱずかしいったらありゃしないじゃないか。ま、腹を括って望むし かないか。 ドアの向こうで、司会者の人の声がする。 「それでは、新郎新婦が入場します。みなさま大きな拍手でお迎えください!」 ・・・人生2回目の鐘が今鳴ろうとしていた。