<3rd_GRADE 第9章:December(4)> Shiori's EYE 『ひび割れ』

  「遅いよ。みんないなくなっちゃってさびしかったんだから」
  「ごめんごめん。ちょっと色々あってさ」
  「帰りましょう」

  誰もいなくなった玄関から出ます。伊集院君のうちって本当に大きいのね。お
  金持ちは違うって感じね。あら?武雄君、誰か待ってるのかしら?玄関前の廊
  下の遠くの方を見ているみたい。

  「どうしたの、武雄君。誰か待ってるの?」
  「あ、いや、何でもない。帰ろうか」

  なんか変な武雄君。

  伊集院君のうちを出るまで、かなりの頻度で後ろを向いていたもの。なにかあ
  ったのかしら・・・

  「はぁ・・・やっぱり伊集院君のうちって大きいね。玄関出てから道路まで1
  0分くらい歩くんですもの」
  「そうだな」
  「伊集院君、結局来なかったね」
  「え?あ、ああ・・・そうだなぁ。どこいっちゃったんだろうな、伊集院」
  「元気でやってるといいんだけど・・・」
  「あいつのことだ、元気でやってるんじゃないか」
  「そ、そうかもしれないね」

  なんだか他愛もない会話を繰り返しながら人通りのない夜道を歩いていきます。
  今日は一段と寒いね。雪でも降りそうな感じ・・・あっ!

  雪。

  今年も雪が降ってきたの。今年もホワイトクリスマスね。でも、早く帰らない
  と。かさ持ってないから濡れちゃう。それに渡さなきゃ行けないものもあるし
  ・・・。パーティーでの腕相撲大会の話をしながら歩きます。

  「今年も降ってきたね、雪」
   「ああ。早く帰らないとな」
  「うん、急いでかえろ」

  夜道を2人より添って歩きます。武雄君、喜んでくれるかな・・・

  「じゃぁ、また」
  「あ、武雄君。ちょっとまってて」

  うちに着いた私と武雄君。さぁ、渡さなきゃ。武雄君をうちの玄関に待たせて
  取りに行きます。なんて言って渡せばいいのかなぁ。とにかく急がなきゃ。武
  雄君外で待たせたままにしておいたら風邪ひいちゃう。

  バタバタと階段を上がり紙袋に包んだセーターとマフラーをもって下に行きま
  す。ハデな包装にしなかったのは・・・恥ずかしいから。

  「詩織!階段は静かに降りなさい。うるさいわよ」
  「あ、お母さん。ごめんなさーい」

  怒られちゃった。でも、そんなことはお構いなし。

  「ごめんなさい。寒かったでしょう?」
  「え?あ、ああ、別に大丈夫」
  「あの・・・これ」
  「なんだ?プレゼントか?」
  「そ、そうなの・・・一生懸命作ったんだよ」

  恐る恐る武雄君に紙袋を手渡します。

  「お、セーター。マフラーも?そんなに作ったのか?時間かかったんじゃない
  のか?」

  ・・・どうしよう。言うべきなのか、言わないべきなのか・・・

  「う、ううん。勉強の合間に作ったから大丈夫よ。大きさとか、大丈夫かどう
  か心配なんだけど・・・」
  「ああ、大丈夫そうだよ。結構時間かかっちゃっただろうな。ありがとう。大
  切にするよ」
  「え・・・でも、大切にしたらほこりかぶっちゃいそうだから、ボロボロにな
  るまで着てくれた方が嬉しいな」
  「あはは、大切に着させてもらうよ」
  「うん!」

  武雄君、喜んでくれたみたい。良かった・・・

  武雄君と別れて、私はうちに入りました。クリスマスも終わり。雪が激しくな
  ってきました。明日は積もるかもしれないな。

  「クシュン」

  あ、とりあえずお風呂にでも入って暖かくしようかな。

             ☆              ☆              ☆              ☆

  お風呂に入っていつものように湯船につかり考え事。

  ・・・結局言えなかった。あのセーター、私一人の力で作ったわけじゃないっ
  て。別に嘘をつきたかったわけじゃないのに・・・なぜか言えなかった。実際
  のところ、私が作ったことに変わりはないから。

  でも・・・なんだか心苦しいです。やっぱり、話しておかなきゃ。

  そう考えたわたしは、お風呂から飛び出すと髪もふかずに電話に向かいます。

  トゥルルルル・・・

  「はい。高城です」
  「あ、武雄君。藤崎ですけど」
  「え?詩織?どうしたんだ?」
  「あ、あのね・・・さっきあげたセーターのことなんだけど・・・」
  「なに?実はどこかで買ってきたやつだとか?」
  「そうじゃないの。あれ、実は未緒ちゃんに手伝ってもらったの。だから10
  0%手作りって訳じゃないの・・・でもね、マフラーは100%手作りなのよ。
  ところどころ未緒ちゃんに教わりながら自分で作ったの」
  「・・・ふぅん。そうか。如月さんにねぇ・・・」
  「マフラー作った時点で時間がありそうだったからセーターにも挑戦したんだ
  けど間に合わなくなっちゃったから未緒ちゃんが手伝ってくれるって・・・」
  「クリスマスに間に合わせなくても良かったのに」
  「え?」
  「まぁ仕方ないか。クリスマスに間に合わせたいと思うのが普通だよな。手伝
  ってもらっても仕方ないんじゃない。間に合わないんだったら」
  「ごめんなさい・・・」
  「まぁ、気にするなよ。マフラーは手作りなんだろ?マフラーは大切にするよ。
  セーターは・・・マフラーの50%くらい大切にする」
  「うん・・・」

  やっぱり後味の悪いことになってしまいました。マフラーだけにしておけばよ
  かったな・・・