<3rd_GRADE 第9章:December(3)> Takeo's EYE 『去年の雪辱!?』 なんだかんだで、もう12月じゃないか。ヤバいな。そろそろ大学も決めない とまずいなぁ・・・ん? なんだ、この招待状。 手紙に混じって入り込んでいた金色の封筒。センスないなぁ・・・まぁ開けて みるか。 差出人は・・・伊集院メイ?誰だ、そりゃ。伊集院レイなら知ってるが、奴は 学校を辞めてアメリカに留学したらしいと風のウワサで聞いた。じゃぁこのメ イってのは誰だ?まぁ中身を見れば分かるか。 中身は・・・クリスマスパーティーの招待状だった。・・・え?招待状?伊集 院レイ(ややこしいなぁ)からの招待状ならなんとなく分かるんだが・・・そ もそもこのメイってのは誰なんだろう。 トゥルルルルル・・・・・ 「はい、高城です」 「あ、武雄君?藤崎ですけど」 「おう、詩織か。どうしたんだ?」 「うん・・・伊集院君のところのパーティーの招待状、届いた?」 「え?ああ、なんか今年も届いてる。伊集院はいなくなったのにな。ところで、 この伊集院メイっていうの、誰か知ってるか?」 「ああ、えっと、友達に聞いたところだと伊集院君の妹らしいわよ」 「妹?あいつに妹なんかいたのか?」 「さぁ・・・きらめき高校じゃなくて隣のひびきの高校に通ってるらしいって」 「ふぅん。んで、なんで俺らが誘われるんだ?妹のパーティーに」 どうやら、去年パーティーに招待したメンバーは全員誘われているらしい。伊 集院がどうなったのか気になるし、伊集院の妹っていうのも気になるから行っ てみるか。 ☆ ☆ ☆ ☆ クリスマス。詩織を連れてパーティー会場へ。俺と同じような気持ちの奴が多 いのか、きらめき高校の生徒が目立つ。そもそも伊集院は理事長の孫だし、人 気もあったからな。 でも、会場には伊集院の姿は見えないようだが・・・あ、パーティーがはじま るみたいだ。 『やぁ、庶民のみなさま我が伊集院家のクリスマスパーティーにようこそ・・ ・』 おや?伊集院の声だ。でも、壇上に立っているのは・・・あれが伊集院メイ? 妹とか言う。なんだかわからないが、伊集院の声をテープで流してるだけで、 本人口開いてないじゃないか。もう金持ちのすることは訳わかんないよなぁ。 「思ったより普通の子じゃないか、伊集院の妹って。髪型はすごいけど」 「・・・そうね。でもなんか背中にランドセルみたいなのを背負ってるみたい だけど・・・」 「ん?あ、ほんとだ。なんなんだろうな」 しかも表情を見るとムスッとしている。いかにもなんでこんなことやってるん だという顔つきだ。 『今日は姉の変わりにホストを務めることになりました。よろしく』 一言だけぼそっと言うと壇上から降りていってしまった。すぐさまバックのオ ーケストラがバロック調の曲を奏でる。気分は舞踏会といったところだろうか。 そう言えば、如月さんの姿が見えないな・・・あ、あれは・・・ 「Hello!高城君。調子はいかが?」 「片桐さんも来てたんだね・・・あ、隣の子はあの・・・」 「そう。きらめき高校一のスポーツマン、清川望よ」 「・・・スポーツウーマンって言ってよね!これでもおしとやかな女の子なん だから!」 「Oh! Sorry.ごめんなさい」 へぇ、彼女が水泳で日本新を出したっていう清川さんか。大学がぜひうちにと ひっぱりだこだとかいうはなしだけど。 「望、彼がウワサの高城君」 「へぇ、始めまして、だね。よろしく」 学校のことや、クラブのことなど、詩織を交えて他愛もない会話を交わした。 「今日は、腕相撲大会があるらしいのよ。男女あるいは女同士ペアの」 片桐さんがそんな話を始めた。ふぅん、今年はまともに腕相撲なのか。 「お互い頑張りましょうね。それじゃぁまた後でね。See You Later.」 言いたいことだけ言って去っていってしまった。相変わらずマイペースな子だ なぁ。・・・で、如月さんは・・・欠席?それとも呼ばれなかったんだろうか。 「あ、せ〜んぱ〜い」 一目散に走り寄ってくるのは紛れもなく・・・ 「先輩も参加するんですか?腕相撲大会。優美と一緒に出ませんかぁ?・・・ おっと、先輩は藤崎先輩と一緒に出るんだもんね。じゃぁ敵同士ってわけだ。 優勝狙って行きますよ〜それじゃぁあたしはお兄ちゃんでも誘って参加しよう かな。あ、これでも優美腕っ節は強いんですよ。お兄ちゃんをプロレス技で失 神させるくらいなんだから〜。それじゃぁまた後でね、先輩」 「・・・」 「・・・」 俺も詩織も一言も発することなく優美ちゃんはその場を去っていった。なんと いうか行動の早い子だな。しっかしプロレス技で毎度のように失神させられる 好雄・・・なんとなく想像が付くようで付かなくて。詩織と顔を見合わせると 苦笑い。お互い、好雄に同情してしまったのだろう。 「詩織、腕、強い?」 「え?全然強くないよ。優勝するなら他の人と組んだ方がいいと思うけど・・ ・」 「まぁいいか、俺が頑張れば何とかなるから、そんなこというなって」 「・・・でも足引っ張っちゃうかもしれないし・・・」 「気にしない気にしない。今回は伊集院もいないことだし」 さっとエントリーを済ませる。別に優勝しなきゃいけないわけじゃなし、楽し ければいいじゃん。 ☆ ☆ ☆ ☆ 腕相撲大会。ペアで剣道のように勝ち抜き形式で行われる。まぁ2人しかいな いので最大でも3試合しか行われないのだが。 俺と詩織ペアは決勝進出。相手にも恵まれたようだ。詩織もなんだかんだで2 勝しているし。片桐さん、清川さんペアは順当に勝ち進んできたが・・・準決 勝で負けてしまった。敗れた相手は・・・伊集院メイと外井? 外井といえば、伊集院レイの執事役だったヤツだよな。背の高い優男に見えた けど・・・結構腕っぷし強いのかもなぁ。 ・・・と思った俺がバカだった。よくよく伊集院と外井ペアを見ると・・・メ イの体に付いている機械・・・なんだ?ありゃ。どうせ『伊集院重工特製ハイ パーアーム』とか言うんだろう。なかばヤラセだな、これじゃ。 あ、決勝がはじまる。行かなきゃ。 ☆ ☆ ☆ ☆ 相変わらずメイは例のアームを付けている。俺は興味ない振りを装うことにし た。伊集院の兄弟だ、どうせ自分からウンチクをたれてくれることだろう。ど う考えても勝ち目はなさそうだなぁ。 「おい、これがなんだか聞かなくていいのか?」 メイが話し掛けてきた。 「ふん。別に興味ないね」 「・・・やはりウワサ通りの人だな。お姉様が気に入るわけだ」 「・・・!?」 「まぁ教えてやろう。これは『伊集院重工特製ハイパーアーム』だ」 「・・・」 やっぱり。そのままじゃないか。さっさと終わらせるぞ。どうせあんな機械を 使われたら勝てるはずないじゃないか。先鋒の詩織に無理するな、どうせ勝て ないんだ、と念を押し、決勝戦スタート。 詩織は先鋒の外井相手ならなんとか善戦できるだろうと考えたのか、頑張って いる。どうせ次はメイが待ってるんだから頑張らなくてもいいのに・・・ などと言っているうちになぜか外井の腕が机に付いた。詩織の勝ちだ。おいお い、勝ってどうする。どうせなら優勝してメイの鼻をあかしてやりたいと思う 様になってきた。うーん、何とかしてあのハイパ−アームを・・・ などと言っているうちに第2試合が始まった・・・が、詩織はメイのハイパー アームの前にあっさりと負けてしまった。あたりまえと言えば当たり前だが。 何とかしてやりたい・・・ 第3試合。これに勝った方が優勝。いちかばちか、だ。 「レディー・ゴー」 「あっ!」 と俺は使っていない方の腕でメイの後ろの方向を指差した。 「えっ?」 一瞬だけメイが後ろを向く。今がチャンスだ。渾身の力を込めて腕を倒す。ハ イパーアームさえなければ所詮は女の子だ。あっさりとメイの腕を机におしつ けた。 「・・・汚いぞ、高城武雄!」 「何といわれようと知ったことか。お前が後ろを向くのが悪い」 「うーぬぬぬぬ・・・」 首まで真っ赤になっている。余程悔しかったのだろう。去年も同じような手を 使ったんだが・・・相手が伊集院だったらこの手は使えなかったろうな・・・ とにかく優勝は優勝だ。誰も文句はないだろう。 こうして伊集院家のクリスマスパーティーは幕を閉じた。結局、伊集院がどう なったのかわからずじまいだったのだが。やはりイヤミな奴だったとは言え、 どうなったのか気になるのが正直なところだ。突拍子もないことを考え付くこ の家のことだからあらかたどこかへ武者修業とかいって飛ばれさたんじゃない かとは思うが・・・卒業式には戻ってくるんだろうか・・・いや、学校は退学 したんだったっけか。もう二度と会えないんだろうか。こないだの約束・・・ あれに関係するんだろう・・・せめてお別れくらいは言いたいな・・・ 「そろそろ帰るか。ちょっとトイレいってくるから玄関で待ちあわせな」 「うん」 ☆ ☆ ☆ ☆ ほとんどの参加者は帰宅の途についてしまった。誰もいないトイレ。なんか学 校のトイレ並みに広いな・・・金持ちの考えることは分からないな。 用を済ませ、トイレから出る。早く行かなきゃ。詩織が待ってる。 「高城君」 「・・・?」 呼び止められた気がした。後ろを振り向くと、一人の女の子。背は170cm くら いあるだろうか。明るい髪を後ろで束ねて・・・はて。どこかで見たような気 もするが・・・ 「高城君。ごめんなさい。この間呼び出したのに行けなかった」 「・・・」 呼び出した・・・え? 「お前・・・まさか」 「はい。伊集院レイです」 伊集院レイ?女?え?あ? 「驚くのも無理はないですね。伊集院家のしきたりで娘は高校を卒業するまで 男として育てられのです」 「あの、メイってお前の妹なんだろう?なんで女のカッコしてるんだ?」 「今回限りでそのしきたりを止めたからです。私が最後。私がきらめき高校を 去ることで今後くだらないしきたりをなくすと父上が・・・話すと長くなりま すが・・・」 伊集院は女の子の笑顔を見せている。そうか・・・よく見れば女だよな・・・ なんで気づかなかったんだろう。 「高校生活。高城さんがいてくれたおかげですごく楽しかったです。本当にあ りがとうございました。たぶんこれで最後だと思いますので、お別れが言いた くて、父上に無理を言って日本に帰らせてもらったのです」 「今は?」 「アメリカで大学に通っています。伊集院家の家長となるために」 そうか・・・いろいろと家には家の事情があるんだな・・・ 「多くは聞かないよ。俺も。でも、俺も結構お前とやりあったりしてるの楽し かったぜ」 「えっ?」 「イヤミな奴とは思ったけど、それなりに楽しかったよ。今年の5月くらいに お茶を飲んだりゲーセン行ったりした時もな」 「・・・」 「アメリカでも頑張れよ。またどこかで会えるかもしれないし」 「・・・はい。またどこかで・・・」 伊集院はうつむいている。肩を震わせ・・・泣いているのか? 「高城さん、これだけは聞いてください。高城さん、自分に嘘をつかないで下 さい。周りに流されないで。それじゃぁ、さようなら」 そういうが早いか、後ろを向いて走り去っていってしまった。あまりにあっけ ない別れだった。 ☆ ☆ ☆ ☆ 「遅いよ。みんないなくなっちゃってさびしかったんだから」 「ごめんごめん。ちょっと色々あってさ」 俺は、詩織にすべて話しても良かったのだが、なぜか話す気になれなかった。 どうしてだろう。俺と伊集院レイの心の中だけに仕舞っておきたかったからか もしれない。 自分に嘘をつかないで・・・どういう意味なんだろう。俺が自分に嘘をついて いるとでも?思い当たる節は・・・一つしかなかった。