<3rd_GRADE 第9章:December(2)> Mio's EYE 『友達失格』 藤崎さんが編み物をやったことがないというのはなんだか奇妙な感覚です。藤 崎さんは何でも出来るというイメージがあったから・・・ 明日から編み物の特訓ですね。なんだか私も編み物自体久しぶりなので出来る かどうか自信がないのですけれども。 そういえば、藤崎さんと高城さんが付き合っているという話はついに公然の事 実になったみたいですね。いままで隠していたのが不思議なくらいです。お似 合いのカップル・・・ですね・・・。 ☆ ☆ ☆ ☆ 翌日。藤崎さんと・・・あら?隣の人は、どなたでしょうか。 「あ、ごめんなさい。紹介するね。同じクラスの美樹原さん。中学以来の友達 なの。彼女も混ぜてもらっていい?」 「そういうことですか。いいですよ。大人数の方がお互い教えあえますから」 「・・・よ、よろしくお願いします」 屋上へ向かう階段の踊り場でひっそりと3人で編み物の特訓が始まりました。 藤崎さんも美樹原さんも上達が早いですね。すいすいと進んでいきます。この 分ならクリスマスまでに十分間に合いそうです。 「未緒ちゃん、ここ、どうやってやればいいの?」 「え?ここですか?ここは、右から3番目を通して・・・」 藤崎さんの後ろに回って手を取り一緒にやってあげます。 「あ、そういうことね。なんか面白いね、編み物って」 「そうですね。作る人の気持ちが表れやすいですから。いいかげんに編むとい いかげんな物しか出来ませんからね」 「そうなんだ・・・じゃぁ一生懸命作らないと。ふふっ」 「・・・そうですね」 美樹原さんは先ほどから黙々と編んでいます。なんでも小さい時に手芸教室に 通っていたらしく、思い出してきたとのこと。2人とも筋がいいので教えるの も楽ですね。 ☆ ☆ ☆ ☆ そうこうしているうちに、マフラーが完成しました。まだクリスマスまではか なりの日数が残っています。 「思った以上に早く完成して良かったですね」 「うん。未緒ちゃんのおかげよ。本当にありがとう」 「いいえ、これくらいならいつでもどうぞ。ところで藤崎さん、時間がまだあ りそうですので、セーターでも作ってみたらどうですか?」 「え?いきなりそんな難しいもの出来ないよ」 「そんなことないですよ。私も手伝いますから」 「・・・頑張ってみようかな」 急遽、編み物特訓のついでにセーター作りがはじまったのでした。さすがにマ フラーの時のように一筋縄では行きません。ちょっと進んで失敗、やり直し・ ・・。それを繰り返しつつ日は刻一刻と過ぎていきます。 「未緒ちゃん・・・終わりそうにないよ」 藤崎さんの口からそんな言葉が出たのはクリスマスの3日前くらいだったでし ょうか。 「大丈夫ですよ。まだ3日もあるじゃないですか。諦めちゃだめです」 「それはそうだけど・・・」 「私もお手伝いしますよ。腕の部分は私が作ります。藤崎さんは胴体の部分を 作っていてください。最後に藤崎さんが繋げれば、3日で間に合うと思います」 「・・・うん。頑張ってみるね」 それからの3日間は私も大変でした。でも、藤崎さんのため・・・ ☆ ☆ ☆ ☆ −− 藤崎さんのため?本当? 藤崎さんが頑張っているのを見捨てるわけには行きませんから。 −−本当に藤崎さんのために手伝っているの?このクリスマスプレゼント、誰 にあげるのか分かっているの? ・・・ええ、分かっているつもりですけど・・・ −−それでも藤崎さんのためだといえるの?本当は藤崎さんのためじゃないん じゃないの? ・・・!? ☆ ☆ ☆ ☆ はっと目が覚めました。どうやら夢の中で誰かに問いかけられていたようです ね。 ・・・私は本当に藤崎さんのためにセーターを作っていたのでしょうか。自分 自身に問いかけてみます。 違うかもしれない。 ☆ ☆ ☆ ☆ 伊集院さんが学校を辞めたにもかかわらず、伊集院家でのパーティーは行われ るようです。招待状が来ていましたので。 当日私は風邪をひいてしまったみたいで、熱がひどかったので、沙希ちゃんに 一緒に行こうと誘ってもらったのですが、お断りしてしまいました。 ベッドの中で一人で寝転びながらボーッと考え事。というより私の頭の中には 藤崎さんのことしかありません。セーター・・・藤崎さんは高城さんにあげる のでしょう。私は・・・ 高城さんのことが好きなのかもしれません。 気づいてしまいました。とうとう。いままで考えないようにしてきたのかもし れませんが・・・ 1年生の時、運動会で倒れた時に助けてもらった時。 1年生のクラブ合宿で朝、一緒に練習した時。 伊集院さんのお宅でのクリスマスパーティーの時の他愛もない会話 私のことをとても大切にしてくれるのが高城さんだったのですね。どうしてそ んな簡単なことに気づかなかったのでしょう・・・朝日奈さんに彼氏が出来た らしい藤崎さんの様子を探って、といわれた時に乗り気がしかなったのもそれ で説明が付きます。 はっきりしました。私は高城さんが好きなのです。高城さんには藤崎さんがい るから、なるべく表に気持ちを出さないようにしていただけみたいです。そう やって隠してきた気持ちを見つけてしまった私・・・ 藤崎さんと編み物をしていた時もきっと、高城さんのことが気持ちの奥底にあ ったに違いありません。セーターを編んでいる時、どう考えても間に合わなか ったのに、セーターを薦めたのは私です。そこまで計算していたわけではない ですが、きっと私の気持ちも・・・藤崎さんのセーター作りを手伝うことで高 城さんに・・・。 そう考えると、すごい卑怯者ですね。自分で気持ちを伝えられないからといっ て人のプレゼントを手伝って気持ちを伝えるなんて・・・ でも、藤崎さんと高城さんはお似合いです。嘘偽りない気持ちです。私の入り 込む余地なんかないんです・・・セーター作るの手伝うくらい・・・いいです よね・・・?それとも、私、友達失格でしょうか。 熱っぽいからでしょうか。思考が混乱している気がします。今ごろ、藤崎さん は高城さんとクリスマスパーティーでしょうか・・・