<3rd_GRADE 第8章:November(1)> Takeo's EYE 『電話』

  もう11月か・・・どうりで寒いわけだ。朝も辛くなってきた。受験生として
  は気合いを入れなきゃいけない時期なんだろうな。休日もバリバリ勉強して。

  そんな芸当、俺に出来るわけがない。起きた時が起床時間。勉強もそれなりに
  はやるが、もののついでだ。なにも大学に行かなくったって就職は出来る。い
  くら不景気とはいえそれなりに職はあるもんだ。ヒーヒー言ってる奴等はわが
  ままなだけ。職を選んで失敗しといてヒーヒー言うか?

  まぁ、考えるのもアホらしい。せっかくの休日。朝っぱらからこんなことで時
  間をつぶすわけには行かない・・・。もう一眠りするか。

             ☆              ☆              ☆              ☆

  トゥルルルルル・・・

  くそ、折角眠れそうだったのに・・・知らん知らん。無視だ無視。

  トゥルルルルル・・・

  しつこいな。いないものはいないんだ。ほっといてくれ。

  トゥルルルルル・・・

  ・・・分かったよ。出ればいいんだろ、出れば!

  「はい、高城です」
  「・・・」
  「イタズラ電話なら間に合ってます」
  「あ、あの・・・伊集院ですが」

  いじゅういん?

  「どちらの伊集院さん?俺には伊集院という名前の知り合いはいないんですが
  ・・・あ」

  伊集院って・・・まさか?

  「あ、あの・・・伊集院レイです」
  「なんだ、伊集院か。女みたいな声出してるから気づかなかった。なんだよ、
  俺に説教でもするのか?」
  「い、いや・・・ちょっと話がある。大丈夫?」
  「別に構わないけど」
  「じゃぁ、夕方17時に学校入り口にある大きな樹の前で待ってる」
  「17時?あ、ああ分かった。それじゃぁ」

  一体何の用だ?しかも夕方。電話で済む話というわけじゃないみたいだな・・
  ・。

  1日中気になって仕方がなかった。電話の声とは言ええらく元気のない伊集院
  の声。何か、思いつめたような感じの声だった。俺に相談事なのだろうか。で
  も、でもだ。何で俺なんだ?あの執事だかなんだかの外井かなにかに相談すれ
  ばいいことじゃないか。

  昼ごろから勉強しようと思ったが手に付かなかったので、詩織に相談してみる
  ことにした。

  「はい・・・あ、武雄君?どうしたの?」
  「あ、詩織?それが・・・」

  簡単に朝の状況を説明した。

  「ふぅん・・・なんか伊集院君思いつめてるのかしら。心配事とかなんでしょ
  うね。そういえばここ数日、元気なかったみたいだし・・・」
  「そうなのか・・・でも、何で俺なんだろうな」
  「ふふっ、武雄君、頼り甲斐があるんじゃない?きっと」

  俺が?

  「そうよ。自分じゃ気づかないかもしれないけどね。すっごく頼りになるんだ
  から」

  電話口とは言え、そんなこといわれたら照れるじゃんか。

  「そっか・・・とりあえず聞いてやるだけ聞いてやるかな。あいつ、友達って
  いう友達、いなさそうだしな・・・」
  「うん、そうしてあげた方がいいと思うよ」

             ☆              ☆              ☆              ☆

  結局詩織の言う通り、17時に学校入り口の樹に向かうことにした。10分前
  に着いて、早すぎたか・・・と思ったが・・・伊集院は17時になっても来な
  かった。18時になっても19時になっても。20時になって俺は諦めて家に
  帰ってしまった。

  翌日以降、伊集院は学校に来なくなった。伊集院がどうなってしまったのかは
  定かではなかったが、俺らが知らされたのは12月に入ってからだった・・・