<3rd_GRADE 第7章:October(1)> Mio's EYE 『最後の文化祭』

  2学期もはじまり、外もすっかり寒くなってきました。やきいもがおいしい季
  節ですね。え?私だってやきいもくらい食べますよ。ただ猫舌なので私が食べ
  られるくらいになるころには冷え切っちゃってるんですけどね。

  それはそうと、文化祭です。

  私たちにとっては最後の文化祭。でも演劇部では3年生は参加しません。とい
  うよりは受験勉強などで忙しいので参加できない、というのが現状ですね。公
  演の時に応援に駆けつけるといったならわしがあるようです。

  今年の公演は『さらば遠き日』というタイトルだそうで、なんでも有名小説の
  リメイク版らしいです。私が去年リメイク(というよりパロディですけど)し
  たのに触発されたみたいですね。夏合宿でもそんな話が出ていましたから。

  内容はチェックしていません。私も1観客として客席から鑑賞したかったので。
  開場時に早々に席を取って舞台の裏手に行きます。開演前の舞台袖はそれはも
  う戦場。殺伐とした雰囲気が流れます。今年は完全に客観的に見られますね。
  緊張する人、最後までチェックに余念がない人、肝が据わっているのでしょう
  寝ている人、色々です。

  「あ、如月先輩」

  後輩たちが声をかけてくれます。そう言った時にああ、先輩なんだなぁって実
  感しますね。私はいろいろな人に頑張ってくださいね、と声をかけて回ります。
  時間もないし席に戻らなくてはならないのであまりいられませんでしたが、藤
  崎さんや高城さんも来ていたようです。


  さぁ、まもなく開演・・・

             ☆              ☆              ☆              ☆

  公演自体は1時間少々でした。私の脚本よりとっても魅力的な演劇でした。や
  はりいろいろな人たちで練り上げた脚本の方が、ひとりで組み上げた脚本より
  おもしろいのでしょうか。とにかく今年も盛況だったようでとてもよかった。

  ストーリーはこんな感じでしょうか。

  300年近くも抗争を続けるA帝国とB国。腐敗しきったA帝国を「封建体制
  の腐敗だ」と嘲笑うB国。しかしB国はA帝国から独立した際の建国理念をす
  っかり忘れこちらも腐敗しきった政治。そんな2国が当初の戦争理念も忘れた
  だ漫然と戦いつづけている様を面白おかしく描いた作品です。

  もちろん、原作はそんな戦争を批判しつつ歴史の尊さについて語っているので
  すが、こちらは演劇ですから、そこにスパイスを加えています。

  「お笑い」

  最初見た時驚いてしまいました。ああ、こういうのもアリなんですね・・・と
  いった感じで唖然としてしまいました。演劇というものはシリアスなものはシ
  リアスなまま続けなくてはならないと思っていましたが、突然お笑いを混ぜる
  というのもなかなか面白いものですね。一歩間違うとしらけてしまうという危
  険性もありましたが、今回はすべていい方向に向かっていたみたいです。

  「すごく面白かったです」

  舞台の裏手に行き脚本・演出担当の2年生を捕まえて感想を述べました。

  「え?ほ、ホントですか?如月先輩!お、おい卯月!如月先輩が面白いって言
  ってくれたぞ」
  「ほ、ホント?」

  遠くから女の子が走ってきます。卯月さんですね。

  「はぁはぁ、せ、先輩!ホント、面白かったですか?」
  「えぇ。すごく面白かったです。私なんかには作れない脚本ですね」
  「きゃぁ、どうしよ。如月先輩に誉めてもらっちゃったぁ」

  脚本担当の後輩たちは大喜びです。そんなに私に誉められたのが嬉しいのでし
  ょうか・・・というより、去年の脚本、そんなにすごかったのでしょうか?私
  には何とも言えませんけど・・・

  「とにかく、皆さんの脚本、すごくよかったですよ。私も見習わなくては行け
  ませんね」

  あまり長居をすると後片付けなどもありますので邪魔になりますから早々にお
  邪魔することにしました。

  後輩たちのすばらしい演劇を見て、3年目の文化祭も充実したまま幕を閉じる
  ことになりました。3年間ともすばらしい思い出になりました。1年目は役者
  として。2年目は脚本家として。3年目は観客として・・・

             ☆              ☆              ☆              ☆

  「あ、未緒ちゃん」
  「あ、沙希ちゃん」

  ちょうど舞台の裏手から出てくる時に沙希ちゃんに会いました。沙希ちゃんも
  演劇部の公演を見ていてくれたみたいです。

  「なんか難しい話かとおもったけど、すごくわかりやすく説明してくれて楽し
  かったよ」

  沙希ちゃんも好意的。よかったです。

  「沙希ちゃん、時間があればちょっと覗いていきませんか?他の展示」
  「え?うん、時間あるし、いいよ。行こう行こう。わたしねぇ、科学部の実験
  が見てみたいんだけど・・・」
  「科学部ですか?えっと、『世紀の転送実験?』なんだかすごそうなタイトル
  ですね。行ってみましょう」

  科学部の公開実験はちょうどいいタイミングで始まったようです。あたりは人
  ごみでいっぱい。みんなタイトルに引かれてやってきたのでしょうか。

  「よくもまぁこんなに集まったものね。まぁ私の技術力を見ておけば征服され
  た時に混乱せずにすむでしょうね。さて、今回の実験だけど、物質転送をやっ
  てみせるわ」

  あたりがしんとなります。

  「ある物質を原子レベルにまで分解しそれをそのまま別な場所に移動させて、
  組み直す。たったこれだけのことよ。他愛もないことだわ」

  他愛もないこと・・・なのでしょうか?でもウワサによるとこの科学部の女
  の子は最年少ノーベル賞確実だという話ですから・・・何があってもおかし
  くないのかもしれませんね。

  「さて、今回の実験だけど、高城君、実験台になってちょうだい」

  見ると客席の最前列に高城さんと藤崎さんがいます。高城さんが実験台に?人
  間を実験台に使うのでしょうか・・・不安がよぎります。