<3rd_GRADE 第6章:September(2)> Takeo's EYE 『眠れぬわけ』 今日から2学期だ。夏休みボケが残っていなかったわけではないが、俺はちょ っと寝不足みたいだ。証拠に朝、鏡を見たら目にくまができてる。普段めった に出来ない俺だけにかなりショッキングだった。そんなに寝不足だったんだろ うか、俺。時間を忘れるくらい考えたからかな。 ほとんど寝ていない。というよりは眠れなかったので、朝も早く目が覚めてし まった。まだ外も暗い。早めに仕度をして詩織でも迎えに行くとするか。こな いだ早目に迎えに行こうとして失敗したからな。本当はそんな気分じゃないん だが・・・それは考えないようにしよう。 ピンポーン。 「どちらさまですか?」 「あ、俺。武雄だけど」 「え?武雄君?ま、待ってて」 あわただしい音が聞こえて、詩織が出てくる。突然の俺の訪問にびっくりした みたいだ。これでこないだの借りは返したな。 案の定、詩織は俺の姿を見て心配しているみたいだ。寝不足なのはじじつなの で、寝不足と答えておく。別に嘘は付いていないし、詩織に心配かけたくない のも事実だ。不審そうなまなざしを俺にしつつも納得してくれたみたいだ。 始業式。ロクに覚えていないぼーっと突っ立ってるだけ。あれほど考えた結果 なのに、まだ考えるか、武雄。いいかげんしっかりしろ! そんなこんなで、ぼーっとしているうちに始業式も終わり、ホームルームも終 わり、気が付けばほとんどの生徒は帰っていってしまっていた。 「そろそろ俺も帰るか・・・」 仕度を始めたとたんに詩織が迎えに来た。ナイスタイミングというのか、バッ ドタイミングというのか。 『ときめ後』にてお茶。詩織に本当に問題ないから心配しないでくれと念を押 す。詩織は心配し始めるとどうしようもないくらい心配してしまうからな。安 心させてやらないと・・・ 詩織は安心してくれたみたいだ。とりあえずはほっとする。 ☆ ☆ ☆ ☆ 夜。とりあえず布団に潜る。夜更かしする気力もないのでまだ21時くらいだ。 そのまま寝付ければいいのだが・・・そういうわけにも行かないか。 やはり昨日の続きになってしまうのだろうか。 ついにというかやはりというか、1年半たって始めて気づいてしまった事実。 いや、気づかないフリをしていただけなのかもしれないという事実。俺はどう すればいいのだろうという不安。 『俺は詩織のことを好きなのだろうか』 もちろん、好きだ。嫌いなはずはない。嫌いだったら10年来も付き合ってき たり一緒にショッピングしたりお茶したりするはずがない。俺が言いたいのは そういうことではないんだ。俺が好きなのは、本当に詩織なのだろうか、とい うことなんだ・・・ 1年生のときの伊集院家でのクリスマスパーティがなければ俺と詩織はいまま で通り、平行線のままやってきたはずだ。俺も詩織もどちらからとも言い出せ ないまま3年間を過ごし卒業したことだろう。いや、もしかしたらどちらかか ら言い出したかもしれないが・・・ 話を元に戻そう。俺は詩織のことを大切に思っている。が、俺の一目惚れ・・ ・。その気持ちはどうすればいいんだろう。 高校受験の日の出会い。あれは忘れたくても忘れられない。しかし、詩織の気 持ちを無下に扱うわけにも行かないのが現実だ。詩織の気持ちは10年、とは いかないまでも数年間にわたって俺のことを見続けて来てくれている。それに くらべて俺の一目惚れはたかだか数分。そのあとの高校生活の1年半でしかな い。詩織の気持ちを汲めは俺が妥協するのが当然だろう・・・ 今年のクラブ合宿さえなければ詩織とうまくやっていけただろう。しかし、ク ラブ合宿での事件・・・あの事件が俺の気持ちを揺るがす大事件となってしま ったのだ。かつての俺の気持ちを呼び戻す事件となってしまった・・・ 俺は詩織の気持ちだけに忠実に答えていけばいいのだろうか。それが当然なん だろうなぁ、普通なら。 そんなこんなでクラブ合宿が終わってから悩みに悩んでいる。大抵は悩んでい るうちに眠ってしまうのだが、昨日はほとんど眠れなかった。きっと始業式だ ったからだろうけど・・・ 結論は決まっている、詩織を大切にしなければ・・・そう。俺がどう思おうと、 詩織は俺のことをずっと思って来てくれたし、俺も詩織のことを少なからず好 きでいたはずだ。それをたった一度の一目惚れで覆すようなことは出来ない。 詩織の気持ちに反するようなことが出来るはずがない。 いつ考えても出る結論はこれだ。結論が分かっているのに考えるのはおかしい よなぁ。なるべく考えないようにしないと俺自身壊れてしまいそうだし、詩織 にも迷惑かかりそうだしな・・・ 俺の一目惚れは一目惚れとして心の奥にしまっておかなくちゃ・・・。なんだ かこれで割り切れそうだ。今日は眠れそうだな・・・