<3rd_GRADE 第5章:August(2)> Mio's EYE 『嵐の前』 藤崎さんからの電話。演劇部の合宿に出ない?というお誘いでした。よく分か りませんが、下級生からのたっての要望と言うことみたいです。半年後には受 験が控えているのですが、藤崎さんも高城さんも行くみたいですし、息抜きに ということで、私も参加させてもらうことにしました。 でも、私なんかが合宿に参加しても仕方ない気もするのですが・・・だって、 役者じゃないんですもの。役者さんだったら演技指導とかすればいいのかもし れませんけど私・・・何も教えてあげられることなんかないですよ。 「そんなことないよ。誤字とか脱字とかそういうのを見てあげるのも先輩の仕 事じゃない。一緒に行こうよ」 って藤崎さんは行ってくれましたけど・・・ちょっぴり不安です。私なんかで 役に立つのかどうか・・・ そんなことを考えているうちに合宿の日になってしまいました。考えている場 合じゃないですね。行かなくては。 ☆ ☆ ☆ ☆ 「あ、如月先輩。これ読んでみてください。結構自信作なんです」 「あ、ずるーい。私のも読んでくださいね」 「僕のもお願いします・・・」 脚本セクションの部屋に行くなり、下級生たちが寄って来て分厚い原稿用紙を 私に手渡します。え?これじゃぁ私、先生みたいじゃないですか。そんなに偉 いわけでもないのに・・・ 「あ、あの・・・私が読んだってそんなたいした評論は出来ませんよ?」 正直に釘を刺しておきました。下級生のひとりがこんなことを言っていました。 確かにその通りかもしれません。 「でも、如月先輩の『ジュリアス・シーサー』はとっても良かったです!少な くとも私たちなんかよりはよっぽど才能があるんですから、先輩の目でここが いいとか、悪いとか教えてください」 そうですね・・・それも先輩の仕事ですものね。2泊3日しかないのですから 頑張りましょうか。 下級生たちが、今年の学園祭の出し物のコンセプトを話し合っている間、私は 先ほどもらった原稿用紙たちに目を通します。赤鉛筆を持って。ボールペンは うっかり書いたところを手で触ると伸びてしまって見えにくくなってしまうの でだめです。鉛筆が一番ですね。 誤字や脱字をチェックしながらゆっくり読んでいきます。時折、話し合い中の 下級生が意見を求めてきたりすることもありましたが、概ね好調に進んでいる 様子です。去年は私ひとりでほとんどをやってしまっていたので、辛いといえ ば辛いですが、同意を求める必要がなかったので楽と言えば楽でしたね、今年 に比べれば。 脚本家は字が綺麗じゃなければいけません。いえ、綺麗じゃなくてもいいので すが、少なくとも丁寧に書かなくてはダメですね。大抵は脚本家の書いたシナ リオをコピーして役者さんなどに手渡すわけですから汚い・雑な字で渡された ら、役者さんはたまったものではありません。台本はそれ以降の役者さんのや る気に響いてくる大切なものですから丁寧に書くこと。 まとめてしまえば、『読む人の気持ちを考えた文章作り』をする必要がある、 ということですね。誤字・脱字なんてもっての外です。とはいえ、人間ですか らある程度の間違いは仕方ないのですけどね・・・ そんなことを頭に思い浮かべながら下級生たちの書いた脚本を読んでいきます。 偉そうに言えた立場ではないのですが、どれもこれもすごく面白いですね。お 世辞抜きでみんないい出来です。私なんかが評論する余裕もなく、誤字・脱字 をチェックするくらいしかやることがありません。 1日目が終わりました。1日目はお昼からの参加でしたが、ぐったりです。た だ脚本を読みつづけてただけなのですが・・・なんだか『先輩』という名のプ レッシャーが私を押しつぶしているようです。 ☆ ☆ ☆ ☆ 夕ごはん。藤崎さんと高城さんと合流。ふたりともぐったりしていました。私 だけじゃなかったんですね。とりわけ、高城さんははりきってしまったのか、 疲れきってしまっているようです。 3人でさっと夕ごはんを済ませて各自の部屋へ。なんと、3年生は個室なので す。1・2年生は5人から10人の部屋なのに・・・いいのでしょうか。でも、 部屋に戻った矢先そんなことを言っているまもなくぐったりしてしまいました。 ・・・。 目が覚めたら21時。眠ってしまったみたいですね。まだお風呂場は開いてい るみたいですから、さっとお風呂に入って寝ましょうか。 お風呂場には先客がいるようです。誰でしょうか。眼鏡は外してしまっている ので分かりません。 「あ、未緒ちゃん。未緒ちゃんも今来たんだ」 「あ、藤崎さんですか。遠くからだと何にも見えなくて・・・」 近づいてみてやっと先客が藤崎さんだということが分かりました。藤崎さんも 部屋に戻ってすぐにうとうとしてしまって気が付いたらこんな時間だったよう です。この分だと、高城さんも・・・ 「今日はお疲れ様でした」 「う、うん。お疲れ様。なんか普段のクラブ活動より疲れちゃったね」 「そうですね。夕ごはんのときの高城さんなんか顔色もあまりよくありません でしたし・・・あんまり頑張りすぎないようにしないと倒れてしまいますね」 「そうね。わたしたちも気をつけないとね」 「ええ・・・」 ところで、藤崎さんの胸、形が良くてきれいです。私なんか小さくて・・・恥 ずかしいです。きれいな胸を持ってる人ってうらやましいですね。 「やだ、未緒ちゃんったらどこ見てるの?」 「え?あ、すみません。きれいな胸ですね、藤崎さん」 「あ、ありがとう。でも未緒ちゃんの胸もかわいくていいよ」 とっさに自分の胸を隠します。小さくて恥ずかしいですから。 「小さくて、最近気になってるんです・・・」 「そうなんだ・・・でも、小さくてもかわいくていいと思うけどな」 「そんなものでしょうか」 「そうよ。大きければいいってものでもないじゃない?」 そう言われてみるとそうかもしれませんね。小さいからって恥ずかしがってい ても始まりませんね。 「でも、大きい胸にはあこがれちゃいますね・・・」 ふたりの口からため息が出ていました。