<3rd_GRADE 第5章:August(1)> Takeo's EYE 『息抜き』 3年生の夏休み。俺達受験生にとってはただただ暑いだけの季節。勉強勉強ま た勉強。やってられない。 「ふわわ。今日も暑いなぁ」 独り言を言いながら机に向かって勉強。頭がボーッとする。暑さか、勉強のし 過ぎか・・・。無論前者だろう。 トゥルルルルル・・・ 夏休みに電話してくる奴と言えば・・・ 「あ、高城さんのお宅でしょうか。わたし、藤崎といいますけど・・・」 「おう詩織。俺俺」 「あ、武雄君?おはよう。どう?調子の方は」 詩織くらいしかいない。ちょうどだるいと思ったときに電話をかけてくる。俺 の体調が目に見えているんじゃないかと言うくらいナイスタイミングで電話し てくるので、俺もかなり焦る。 「え?暑くて頭が狂いそうだよ。まったく」 「夏休みが勝負の分かれ目だものね。お互い頑張らないと、ね。あっ、そうそ う、そんな話じゃなくて、今日はちょっと息抜きの相談」 「え?」 「うんとねぇ・・・」 詩織が言うには、後輩がどうしても俺らを演劇部のクラブ合宿に出させたいら しいのだ。基本的に3年は合宿に出ない。余程余裕のある奴か、今年の受験は あきらめた、と言う奴しか行かない。しかし、詩織と、俺と、如月さんには是 非とも合宿にきて欲しいとの現演劇部部長の要望らしい。もちろん、こちらが 受験生堕と言うことは重々承知しているので無理にとは言わないんだろうが。 「で、どうする?武雄君?合宿、行く?あさってからなんだけど」 「詩織は?」 「うーん、こまっちゃうな・・・まぁ2,3日だし、息抜きにと思って行こう かなって思ってるんだけど」 「そっか、ちょうど退屈してたところだし息抜きに行くとするか」 如月さんには詩織が連絡して、みなさんがいくのなら、私も・・・ということ で参加が決定した。 そんなこんなで、突発的に俺達の3年目の合宿が行われようとしている。 ☆ ☆ ☆ ☆ 8月某日。4泊5日のクラブ合宿のうち、俺らが参加するのは3日目から5日 目だ。さすがにフル参加するのは受験生のプライドが許さない。といったとこ ろでただの気持ちの問題なんだが。合宿先は去年と同じ。都心を離れた避暑地 みたいなところで行われる。 予想通り、3年生の参加者は俺達以外は皆無。ま、特別ゲストってことで、V IP待遇かな?・・・などと考えた俺がバカだった。 いろんなセクション(合宿中はグループ単位で練習・行動している)に呼ばれ 引っ張りまわされ・・・ここ数ヶ月勉強してきた俺らには過酷な労働となった。 もちろん楽しいことは楽しいのだが、頭だけを使っている日々が続いていたの で急に体全体を使うと疲れがどっと出る。1日目からこれで、あと2日やって いけるんかいな・・・ 「ありがとうございましたぁ」 「ありがとうございます」 練習が終わり口々に後輩たちが感謝の言葉を向ける。これがあるからやめられ ないんだよな。後輩ってかわいいから、世話してやりたくなるのだ。 食事も終わり、風呂に入る。ぐったりした体には風呂が一番。ちょっとぬるめ の湯につかって体を伸ばしてみたりもんでみたり。マッサージする。するとど っと疲れが出てくるので、寝る。一晩寝ると嘘のように疲れが取れているのだ。 幸いにもVIP待遇だった。3年生は個室を与えられた。後輩といっしょだと 寝かせてもらえなさそうだもんな・・・個室で本当に良かった。 風呂をあがるとそのまま布団に倒れこむようにして眠ってしまった・・・明日 もハードな1日になりそうだな。 そう思っていた俺は翌日思いもしないことになるのだった・・・