<3rd_GRADE 第3章:June(1)> Mio's EYE 『Last Danceをあなたと』

  学園生活の中でもっとも憂鬱な行事。もちろん私の中で、ですけど・・・それ
  がこの『体育祭』です。参加してもほとんど出番もなく、さびしく1日体育着
  で過ごさなくてはならない退屈な行事。

  あ、そうでした。何事も自分から参加しなくてはいけませんよね。体育祭なん
  ですから私も参加しないと。体が弱いことをウリにばかりしててはいけません
  よね。運動が出来なくても応援とかいろいろと出来ることもありますよね。

  もともと病弱な私の参加できる種目といえば・・・といっても種目ではないの
  ですが、全員で踊るフォークダンスくらいしかありません。・・・とはいえ、
  この歳になってフォークダンスというのもやはり恥ずかしいですよね。

  みんな恥ずかしそうに踊っていますが・・・結構女の子たちには人気があるん
  ですよ。その秘密は・・・

  フォークダンスで好きな人と踊ったら、その人と幸せになれる、ということで
  す。高校3年間の生活で3年とも踊ると確率があがるんだとか。なので体育祭
  前になると踊る順番をめぐって打ち合わせが行われます。AさんはBさんのこ
  とが好きだから、この位置から・・・とか。

  私もそういうオカルト系の迷信(そこまで言っては失礼でしょうか?)は嫌い
  ではないのですが、それだけのために打ち合わせまでして順番を決めるという
  のには賛同できませんね。運で好きな男の人と踊ってこそ始めてそういった伝
  説ができるのであって、作為的に作られて順番で行われてもなんら意味がない
  と思うのですが・・・

  「どう思いますか?藤崎さんは」

  体育祭のお昼休み。食事も終わってゆっくりしているところで藤崎さんと会い
  ました。

  「え?確かに未緒ちゃんが言うことが正しいと思うよ。でも、それだけ好きな
  男の子と結ばれたいってことじゃないかしら」

  藤崎さんの言うことは正しいですね。でも、そこまでして伝説にあやかりたい
  と思う人の気持ちが分かりません。

  「そう?じゃぁ未緒ちゃんだったら、真っ直ぐに男の子に『好きです』って言
  える?」
  「え?そ、それは・・・言えません」
  「でしょう?他の女の子もそういう気持ちなんだと思うよ。言いたくても恥ず
  かしくて言えなかったり、断られたらどうしようって思ってたり・・・そんな
  女の子たちを後押ししてくれるのがこういった伝説なんだと思うの」

  私にはあまり関係のないことですね。私のことを好きになってくれるような男
  の人なんかいないでしょうし・・・

  「未緒ちゃんは好きな男の子とかいないの?」

  突然、藤崎さんに問われました。

  「え?好きな人ですか?いない気もしますけど・・・気になる人ならいますけ
  ど、顔も分かりませんし・・・」

  私は藤崎さんに入学試験の日の出来事を話そうかと思いましたが、すんでのと
  ころで思いとどまりました。話したくなかったわけではないのですが、なぜか
  話さない方がいい、といった直感でしょうか・・・が走りましたので。なんだ
  か隠し事しているみたいで気が引けますが・・・

  「未緒ちゃんも素敵な男の人が見つかるといいね。そろそろ行かなきゃ」

  そういうと藤崎さんは去っていきました。未緒ちゃん『も』と言っていました
  ね。やはり藤崎さんは高城さんと・・・

  私にも素敵な男の人が・・・見つかるのでしょうか・・・?

             ☆              ☆              ☆              ☆

  体育祭もそろそろ大詰め。話題のフォークダンスの時間になりました。どきど
  きしている女の子たちが印象深いですね。3年生になると最後のチャンスです
  から・・・さぁ、私は誰と踊ることになるのでしょうか。

  全校生徒が校庭に集合し、学年単位で輪を作ります。そして・・・お決まりの
  「オクラホマミキサー」がかかります。この1曲の中に女の子たちのいろいろ
  な思いが込められるのですね。予定通りに踊れて喜ぶ子、一つ足りなくてがっ
  かりする子、はなから興味のない子・・・そんないろいろな思いが交錯する中。

  ひとり目ふたり目、と知らない人と踊りました。まぁ私は他のクラスの人なん
  か分からないので、知らない人の方が多いんですけど・・・。

  3人目。

  「あ、如月さんじゃないか」
  「あ、高城さん・・・」

  なんと、高城さんではないですか。なんだか見知っている人と踊るのはすこし
  恥ずかしいですね。でも・・・なんだか楽しいです。1年生のときの演劇部で
  の公演を思い出します。

  4人目も意外な人でした。

  「やぁ、これは演劇部の影の主役、如月さんだね」
  「えっ?」

  なんときらめき高校の理事長のお孫さんだという伊集院さんではないですか。
  伊集院さんもちゃんと踊ってるんですね。庶民の踊りなど踊れるか、とか言っ
  て踊らないのかと思ってましたけど・・・

  「去年の公演は良かったよ。君はセンスがあるねぇ。頑張ってくれたまえ」
  「は、はぁ・・・」

  踊っている最中に誉められても返答のしようがありません。あれよあれよと言
  う間に次の人へ・・・

  なんだか不思議なフォークダンスですよね。ダンス中に会話するなんて・・・
  幼稚園のころなんかのおゆうぎではおゆうぎ中におしゃべりしたりすると先生
  に怒られたりしてましたけど・・・

             ☆              ☆              ☆              ☆

  体育祭も終わり、うちに帰ってきてさっそくお風呂。疲れた体にはお風呂が一
  番ですね。血行も良くなりますし。ゆっくり湯船につかって考え事。憩いの時
  間です。

  今年の体育祭は倒れることもなく、無事に終わることが出来ました。なるべく
  早くこの病弱な体を捨てて健康にならないといけませんね。みんなと遊んだり、
  走り回ったりしたいですから・・・いつの日かそんな日がくればいいですね。

  ・・・と考えてきましたが、毎回同じようなことを考えている自分に気づいて
  しまいました。いつまでたっても願望のままで終わってしまうのでしょうか・
  ・・。そのためには自分から行動を起こさなければいけませんね。何事も他人
  任せにならないようにしないと。

  あ、あまり湯船につかっているとのぼせてしまいますね。そろそろあがりまし
  ょうか。