<3rd_GRADE 第2章:May(2)> Shiori's EYE 『奇妙なウワサ』 武雄君は伊集院君とこないだ行ったアミューズメントセンターに行ったんです ってね。その日の夜に電話したら『俺を見捨てたな、詩織』って。そういわれ てもどうしようもないし・・・ 「冗談だよ」 「・・・武雄君の意地悪」 「あはは、悪い悪い」 でも伊集院君、武雄君のことをやっぱり友達だと思ってるのかしらね? ☆ ☆ ☆ ☆ 翌日。お昼休みのこと。 「おい、武雄。すっげーウワサ手に入れたんだ。大スクープだぜ。きっと朝日 奈ですら手に入れてないはずだ。あ、詩織ちゃん。詩織ちゃんもいっしょに聞 く?」 廊下で武雄君と話していたわたしたちのところへ早乙女君が息を切らしながら 来たの。よほどの大スクープなんでしょうね。『情報は女の情報なら早乙女、 それ以外なら朝日奈』と言われているくらい情報通だから。 「まぁ落ち着いて息を整えろよ。そうじゃないと何言ってるのか聞こえやしな い」 はぁはぁと息を切らしている早乙女君に武雄君が。内容は厳しいけど、武雄君 も興味津々な様子。 「はぁはぁ。全力疾走したから息が切れちまった」 「で?大スクープってのは?」 「ああ、それなんだけどよ・・・かなりのスクープだぜ。心して聞いてくれよ」 「前振りはいいからさっさと話せよ。気になるじゃないか」 武雄君もわたしも固唾を飲んで見守る。早乙女君は大きく息を吸ってわたした ちに『おいでおいで』とアクションする。耳打ちするってことね。 3人でひそひそ話をするような格好。早乙女君はさらに息を吸って・・・ 「スクープってのは他でもない伊集院のことなんだ・・・あいつおぼっちゃん なカッコしてるけど、実は・・・」 「実は?」 「実は?」 武雄君もわたしもつづきを息を潜めて待ってるみたい。 「実は・・・うっ!あ、頭が・・・!割れそうだ!」 え?早乙女君、その場にうずくまってしまいました。頭が割れそうに痛くなっ たみたいです。ど、どうしたのかしら?大丈夫なの? 「よ、好雄!大丈夫か?」 頭が痛いので介抱しようにも介抱できない武雄君を横目に、わたしも何にもし てあげられない・・・というより、どうしちゃったのかしら?本当に大丈夫? なんか悪い病気じゃなければいいけど・・・ただの頭痛? 「おい、早乙女君、しっかりしたまえ!」 廊下を通がかったのは伊集院君。好雄君を抱え起こすと、携帯電話みたいなも ので連絡を取っているみたい。学校に携帯電話ってもってきて良かったのかし ら?いいえ、それどころじゃないわよね。早乙女君はまだ頭を抱えてうずくま っています。本当に痛々しくて・・・どうにもしてあげられない。 数分の後、白衣を着たお医者様みたいな集団が来ました。きっと、さっきの電 話で伊集院君が呼び出したのはこの人たちだったのでしょう。伊集院君はテキ パキと指示するとその集団は早乙女君に薬を飲ませ、注射を打っています。大 丈夫なのかしら、こんなところで治療しちゃって・・・ちゃんとした設備のあ る病院とかでやらなくてもいいのかしら? 作業が終わると、白衣の集団はそそくさと帰っていってしまいました。なんだ か気味悪いな。このためだけに呼ばれた人たちみたい。 「これで大丈夫だろう。伊集院家の従医団は有能だからね。どこでも診察・治 療できるようになっているのだよ。加えて私が倒れたときに即座に駆けつけら れるように5分以内の場所に必ず待機している。下手な救急車より安心だから ねぇ・・・おっと、早乙女君の容体だったね。問題ないそうだ。ただの偏頭痛 のようだ。鎮静剤を飲ませて注射したから10分くらいは目を覚まさないかも しれないが目が覚めるころには痛みもなくなっていることだろう」 「ええ、ありがとう、伊集院君」 「いやいや、理事長の孫たるものこれくらいはしないとねぇ。学園のため尽力 することこそ僕の望みだから。それじゃぁ失礼するよ」 言葉もそこそこに去っていってしまったわ。とにかく早乙女君が落ち着いたみ たいでよかった。10分くらい目を覚まさないって言ってたわね・・・お昼休 み、終わっちゃうね。 武雄君に手伝ってもらってわたしのクラス(というか早乙女君のクラスと一緒) に連れていってもらって、放課後にでも聞くことにしようってことで一段落。 早乙女君は気持ち良く眠っているみたいです・・・ ☆ ☆ ☆ ☆ 結局、早乙女君はお昼休み後の授業中も全然起きる気配もなく寝つづけていま したが、授業終了のチャイムが鳴ると同時に目が覚めたみたいです。さぁ、さ っきの続きを聞かないと。気になって仕方ないわ。 武雄君も授業が終わったら飛んできたみたいです。二人で早乙女君の席に向か います。 「お、どした二人揃って。結婚の仲人でも頼みに来たのか?」 「・・・」 「・・・」 突然の早乙女君のセリフに二人呆然としちゃった。 「なんだ、違うのか。武雄と詩織ちゃんならお似合いのカップルだと思うんだ がなぁ」 「冗談はそこまでにして、大スクープってのを教えてくれよ」 我慢できなくなったのか、武雄君が切り出しました。 「は?なんのこと?」 「『は?』じゃない。お前、大スクープとか言って俺と詩織の前に来ただろう。 そしたら急にお前が頭痛くなって・・・」 「大スクープ?そんなのあったら俺が知りたいくらいだ」 「・・・」 早乙女君の反応に武雄君も呆然。 「でも、そう言われてみるとなんか武雄に言おうかと思ってたことがあった気 がしたんだがなぁ・・・忘れちまった。きっとたいしたことじゃないんだろう」 どうやらあの頭痛の影響か、大スクープのことは一切忘れてしまったみたいで す。ま、仕方ないよね。早乙女君の頭痛がおさまっただけでもよしとしないと ね。 でも気になるよなぁ・・・とは武雄君の弁。わたしも気になるなぁ・・・