<3rd_GRADE 第2章:May(1)> Takeo's EYE 『ぼっちゃん』 伊集院の悲劇(俺はそう名づけることにした。詩織も賛同したし)から1ヶ月 が経とうとしていた。あれから伊集院とはたいして話してもいないのだが・・ ・。今日はイヤな予感がする。 放課後。詩織と待ち合わせして帰ろうと思っていたのだが・・・ 「やぁ、一般庶民の高城君、元気かね?」 はぁ・・・また出たか。 「みりゃ分かるだろ」 「ああ、そうだねぇ。バ○は風邪ひかないというからねぇ。はーっはっはっは」 しみじみ頭にくる奴だ。んで、そのバカな俺に何の用だ? 「ちょっと遊びに行こうじゃないか。さぁ、行こうか」 はぁ?コイツ、俺の予定を考えたことはあるんだろうか。・・・と行動を起こ すまでもなく、例の屈強な男たちが俺と伊集院の周りを取り囲む。既に逃げら れるような状況ではなくなってしまった。行くしかないってことか・・・ 詩織と待ち合わせてるところじゃなくて良かったと思わないといけないかもな。 詩織に見られたらどんな顔されることやら。絶対影から見て笑ってそうな感じ だよなぁ。 あっ! 昇降口の柱の影にいたのは・・・確かに詩織。こっちを見て手を振っていたよ うに見えたけど・・・『行ってらっしゃい』ってことか。ついてないなぁ。 そして、例の伊集院家高級リムジンのお出迎え。もっとも、伊集院に言わせる と『超』高級らしいが。俺に言わせればどっちも一緒だ。所詮は一般庶民です からね。 リムジンに乗り込み(当然乗り込んだんじゃなくて乗り込まされたんだが)、 伊集院が口を開いた。 「さて、今日はどこへ遊びに連れていってくれるんだい?」 「『だい?』って別に俺は遊びに連れて行くなんていっていないが・・・」 「まぁ、細かいことは抜きだ。どこか楽しいところへ連れていってくれないだ ろうか?」 あれ?なんか今日は腰が低いな。先月の詩織との会話が思い出された。『伊集 院君は、武雄君のことを友達だって思ってるんだよ』って奴。 たまにはいいか。俺はここから車で30分弱ほどのところにある郊外型ゲーム センターを運転手に告げた。 このゲームセンターは去年の冬くらいに新しく出来たところで、最新のビデオ ゲームやメダルゲームがいち早く導入されるとのことで一気に知名度を増した。 さらに初心者にやさしいゲームセンターを目指しているとのことでメダルゲー ム一つとっても懇切丁寧にやり方を教えてくれるのだ。オープンしたてのころ、 詩織と行ったことがあるのだが、少ない資金で長い時間遊べたのでかなりの好 印象を残したのだ。もともと詩織はゲームセンターとかもあんまり好きじゃな いのだが、そこはかなり気に入ってくれたみたいだった。 あそこなら伊集院でも納得するだろう・・・かな? 程なくして到着した。 相変わらずの盛況ぶりだ。ところで、制服着たまま出入りしていいのか?入り 口に、制服着用の方お断り、って書いてあるけど・・・ 「おい、伊集院、大丈夫なのか?やっぱりまずいよ。あっ、ほら警備の人がこ っちにらんでるじゃないか」 まずいぞ。非常にまずい。こっちに来た。 「君たち、高校生だろう?だめじゃないか。ここは制服着用での出入りは禁止 されてるんだよ。悪いけど、着替えてから来てもらえるかい?」 伊集院は話も聞かずに歩いていく。俺は、置いていかれるわけにも行かず、つ いていく。『お、おいっ!』という警備員の声も無視して・・・ 最新鋭のメダルゲーム機。競馬ゲーム「ジーワン アスコットII」の前に腰 を下ろした伊集院。俺も続く。ホントに大丈夫かよ・・・ 「さぁ、始めるとしようか」 おや?あそこでゲームをやっているのはあの・・・紐緒さんだっけ?隣にいる のはだれだろ。なんか物静かそうな女の子だけど・・・見覚えはないなぁ。と いうか、彼女らも制服だぞ。いいのか?あの警備員がくるぞ・・・ほら来た。 『君たち制服着用での入店はは・・・』 『うるさいわねぇ。仕事の邪魔しないでちょうだい』 『なんだと?』 『いちいちうるさい輩ね。店長呼んでらっしゃい。あなたに話しても埒があか ないわ』 しばらくすると店長がすっ飛んできた。あ、あれ?店長、紐緒さんに頭下げっ ぱなしだ・・・なんだ?まぁ無事に終わったんだからいっか。 と思ったのもつかの間、警備員が俺らを見つけたと思うと店長を連れて怒鳴り 込んできた。さながら先生に告げ口した生徒が先生を連れてやってきたという 感じだ。 「店長の下落合ですが、申し訳ないのですが、制服着用の入店はお断りして・ ・・え?」 伊集院を見て顔色が青くなっていく。青くなったかと思うと急に腰が低くなっ た。 「ぼ、ぼっちゃん、あっ!も、申し訳ありません!誠に失礼しましたっ」 な、なに?何が起きたんだ? 「ああ、そういうわけだ。その警備員にも良く言っておいてくれ」 「は、ははぁっ。おい中延!お前も頭さげんか。ここのオーナー様だぞ」 え?ここのオーナー?伊集院が?それで伊集院は強気だったのか・・・ 「オーナーの顔くらい従業員は知っておくべきだと思うがね。まぁ、今回は突 然だったし勘弁してやろう。それより、私の楽しみの邪魔をしないでもらえな いかな?」 『はぁっ!』とも『へぇっ!』ともつかぬ返事を残して店長の下落合さんと警 備員の中延は逃げるように去っていった。 「なんだよ、ここのオーナーならそう言えば違うところを探したのに」 「いや、構わないよ。オーナーではあるが遊ぶことなんか絶対にないからねぇ。 視察代わりにもちょうど良かったのでね」 なんかがっかり。ってなんで俺ががっかりしなきゃいけないのさ。ったく。 「ところで、あそこの生徒、うちの学校だよな」 ちょっと話を振ってみた。 「ああ、紐緒君か。彼女にはこのアミューズメントセンターの警備プログラム を作ってもらったのだよ。完璧だね、彼女は」 「ふぅん・・・それで制服でもOKなのか・・・ちょっと挨拶してくる」 ☆ ☆ ☆ ☆ 「こんちは、紐緒さん」 「あら、高城君じゃない。私の野望に付き合う気になったの?」 「い、いや・・・そういうわけじゃないんだけど、たまたまここに居合わせた だけだよ。ところで隣に座ってる子は?」 「え?ああ、『古式ゆかり』よ。私の大切なパートナーよ」 「こ ん に ち は。は じ め ま し て」 み、妙におっとりとした子だな。ところで、パートナーって・・・ 「か、勘違いしないでくれる?パートナーってのはあくまでも世界征服のため のパートナーなのよ」 べ、別に勘違いしてないんだけど・・・。 「彼女の脳には未知の領域が多いのよ。それを解明することが私の野望の1ス テップとなるのよ。その証拠に、ほら」 紐緒さんは彼女の足元を指差す。数え切れないほどのメダルが払い出されてい る。これを一人で出したのだろうか・・・すごい。 「彼女の脳細胞を使えば私の長年の夢、『世界征服ロボ』が完成するかもしれ ない・・・」 なんか一人の世界に入り込んでるみたいだ・・・というか、これ以上いるとま た勧誘されそうだし、ここは逃げるに限るな。 ☆ ☆ ☆ ☆ 「今日は楽しんでもらえたんだろうか?伊集院?」 「あ、ああ。一般庶民がくだらない遊びに夢中になっていることが良く分かっ たよ」 「・・・」 やっぱり伊集院は伊集院だった・・・が、翌日、伊集院に関するウワサを持っ て来た好雄に奇妙なことが起きた。