<3rd_GRADE 第1章:April(1)> Mio's EYE 『悪夢ふたたび』 そして、3年生。今日は始業式です。最高学年。受験・・・卒業・・・泣いて も笑ってもあと1年間で高校生活が終わってしまいます。悔いのないようにし ないといけませんね。 去年はかなり早めに学校にいったのですが、今年はゆっくり。クラスがえがあ りませんので、自分の教室も分かりますしね。それでも、5分は早く着かない と・・・気分的に落ち着きません。何事にも余裕を持って、です。 仕度も終わり、家をでます。4月だけど、まだ肌寒い日が続きます。今日もそ んな日。風が冷たいですね。春なのに。 学校にはちょうど10分前くらいに到着。クラスは変わらないので、3年C組 です。私が一番乗りかと思っていたら・・・あら?他にも一人、女の子が。あ、 鏡さんです。今日はひとりなんですね。というより、今日は登校が早いですね。 普段ならチャイムが鳴るギリギリまで来ないのに。挨拶することにしました。当 然ですよね。クラスメイトですもの。でも、実は鏡さんと話をしたことはないん です。だって、私とは世界が違った人みたいだから・・・ 「おはようございます、鏡さん」 返事がありません。鏡さんは下を向いてなにか作業をしているようです。 「鏡・・・さん?」 「きゃっ!」 鏡さんはうしろから近づく私を見て驚いたようです。よく見てみると・・・あ、 お裁縫ですか? 「な、何か御用かしら?あいにくと私はちょっと忙しいのだけれども」 「い、いえ・・・今日は早いんですね、鏡さん。お裁縫ですか?」 「え、ええ。悪い?あたしが裁縫してちゃ」 「え?そ、そんなことないですよ。鏡さんってお裁縫、上手なんですね。遠く から見てて、器用なんだなって思いました」 「ま、まぁね。女として当然でしょ?」 鏡さんの手元を見ると、どうやら男の子用の半ズボンの繕いをしていたみたい です。私が見ているのを知るや否や、隠してしまいましたが・・・ 「弟さんがいるんですか?」 「ま、まぁ」 「面倒見がいいんですね、鏡さんって」 鏡さんは怒った顔をしました。なにか悪いこといったのでしょうか。 「どうして、そんなことがあなたに分かるのよ」 「え?それはそうですよ。朝、学校で自分のものでもない服の繕いをするなん て、面倒見のいい人じゃないと出来ませんから・・・」 「・・・」 「鏡さんって、やさしいんですね」 「・・・」 いきなり立ち上がったかと思うと、荷物を抱えて走っていってしまいました。 私は本当のことを言っただけなのですが・・・ 「なんだか悪いこと言ってしまったのでしょうか・・・」 独り言を言いつつ、席に座って始業式を待ちます。 鏡さんってわからない人ですね。男の子達を連れて女王様みたいにしていると 思えば、弟の服を繕ったりする面もあって・・・きっと後者が鏡さんの本当の 姿なのでしょうね。きっと、自分のうちにいるときはあのようにいろいろと家 のことをこなしたりするのでしょう。 学校ではあのように強気で勝ち気な感じがしますけど。実は家庭的な人。私だ けがきっと知っているのでしょう。 始業式。風が肌寒い校庭で行われます。こんなに寒いんだから体育館かなにか でやればいいのに。 お決まりの校長先生の話。毎回長いのでつらいです。立ちっぱなしだとかなり 疲れがきます。夏の日などはどうしても貧血になってしまうのですが・・・ 「あっ・・・」 ☆ ☆ ☆ ☆ 気が付くとベッドの上。見慣れた風景。ほのかな薬品のにおい。私は保健室で 寝かされていました。 「ああ、気が付いたのね」 とは、保健の先生。毎度のことなので返答もいつも通りです。 「は、はい。大丈夫です」 はぁ、とため息をつく先生。 「入学して以来、あんまり変わらないわねぇ、未緒ちゃんも」 「は、はい・・・これでも努力はしてるのですが・・・」 「『病は気から』っていうでしょう?気持ちが弱いと体も弱くなることが往々 にしてあるものよ。気持ち次第で体調って結構変わるんだから。だるいだるい って思ってると本当にだるくなるのと一緒」 先生は私のそばへ来て、 「だから、負けちゃだめ。自分の体とうまく付き合っていくには自分自身を知 ることからはじまるのよ。貧血気味であることをウリにしちゃだめ。貧血なん かクソくらえ、ってくらいの気持ちでいなきゃ」 「・・・」 確かに言われた通りかも知れません。私は貧血気味であることをあきらめてい るのかもしれませんね。そんなことじゃダメなことは分かっているのですが・ ・・。 「あ、そうそう。ここまで連れてきてくれた子が、伝言を残してったわよ」 「誰ですか?連れてきてくれた人って」 「さぁ・・・忘れちゃったけど。女の子。あ、そうそう。『朝の件は絶対他の 人には内緒にしておいてちょうだい』って言ってたわよ」 「『朝の件』・・・ですか」 そう言えば、出席番号順に並んでいたので、私の前にいたのは・・・鏡さん? 鏡さんがここまで連れてきてくれたのでしょうか。伝言といい、そうとしか言 いようがありません。あの鏡さんが・・・やっぱり鏡さんっていい人なんです ね、きっと。くすっ。 「なぁに、未緒ちゃん。一人で笑ったりして。落ち着いたのなら早く教室に戻 りなさい。早くしないとホームルーム、終わっちゃうわよ」 「え、あ、すみません。ちょっと連れてきてくれた人が意外だったものですか ら」 「あ、そう言えばそうかもしれないわね。なんか大人っぽい雰囲気の子だった わね。おおよそ保健室とは程遠いような」 「ええ。でもその人って思った以上に優しい人なんです。私も見た目だけで判 断してしまっていましたけど・・・」 「へぇ。じゃぁきちんとお礼なさい」 はい。どうもありがとうございました、と保健室を後にします。鏡さんにお礼 いわないといけませんね。でも、鏡さんのことですから多分『なんのことかし ら?』とか言ってとぼけるんでしょうけど。 とにかく鏡さんのところにいかないと。