<3rd_GRADE 第11章:February(2)> Mio's EYE 『思い出の日(2)』

  明日は受験日。私の人生を運命付けるイベントといっても過言ではないでしょ
  う。大学に合格したら、自分の生活は大きく変わるはずです。

  もう勉強することもありません。あとは、運を天に任せて待つのみ。リラック
  スして受験すればきっと結果もついてくるはずです。

  だから、今日は早めに寝ないと・・・

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  翌日。受験日。リラックスといってもやはり緊張しますね。高校受験は遠足な
  どのイベントの延長のような雰囲気があったのですが、大学受験ともなるとや
  はりシリアスな雰囲気が漂います。TVとかでニュースになるからかもしれま
  せんね。

  ちょっと(かなり?)早目に家を出ます。何かあったら大変ですからね。まし
  てや高校受験の日のような・・・

  鉛筆よし、消しゴムよし。受験票よし。さて、出かけましょうか。

  「それじゃぁお母さん、行ってきます」
  「また倒れたりしないように気をつけるのよ」
  「・・・はーい。大丈夫だって」

  お母さんのお見送りを受けて出発です。

  受験会場までは電車で1時間ほどです。大学自体は地方にあるのですが、最近
  では「地方受験」といって各都市に受験会場を設けてそこで受験が出来るよう
  になっています。わざわざその大学まで高い交通費を出して受験しに行く必要
  がなくなったのは大きいですね。

  高城さんもそろそろ出発したころでしょうか。・・・いえ、そんなことを考え
  ている場合じゃないですね。受験のことを考えないと。

  電車は受験生とサラリーマンでごった返していました。いつもは逆方面の電車
  にのって高校に通っていたので気がつきませんでしたが、通勤ラッシュという
  ものに遭遇してしまったわけですね。まさにすしずめ状態。足の踏み場もない
  ほどです。ちょっと足を動かしたら他の人の足を踏んでしまうような・・・と
  にかく混んでいます。窓が空いていないので暖房がこもって蒸し暑いです。冬
  なのにむしむしするのは気持ち悪いですね・・・

  そう考え始めると気分が悪くなって来てしまいました。気が遠くなりそうにな
  ります。だめ、ここで倒れたら。倒れないように努力しなきゃ・・・

  めまいがしてくると、必死で頭を振って気を元に戻します。受験どころではな
  いですね。こんなことでは一人暮らしなんか出来るはずもありません。頑張ら
  なきゃ。

  終点に着いた時点で、私は既にクタクタになっていました。やっと開放される、
  そう思ってドアを出た瞬間・・・

  私の意識は水面下に潜ってしまったのでした。

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  「・・・ううん・・・」

  気がつくと・・・駅の医務室でした。高校受験に続いて大学受験でも倒れてし
  まったわけですね・・・自己嫌悪です。しかし、通勤ラッシュと呼ばれている
  ものを初めて経験したので、仕方がないと言えば仕方がないのですが・・・

  時計を見ると・・・え?急がないと遅刻してしまいます。かなり早目に出たは
  ずなのに、今から急いで受験会場に行っても遅刻は免れられません。

  「ああ、気がついたね。大丈夫かい?」

  駅員さんが心配そうにこちらを見ています。大丈夫です。ご迷惑をおかけしま
  した、と伝えて急いで会場に向かうことにしました。

  「受験?そうか・・・大変だね。頑張って」
  「は、はい、ありがとうございます。頑張ります」

  駅員さんは私のカバンをとって手渡してくれました。そのカバンには・・・

  「あっ!」
  「ん?どうしたの?」
  「あ、い、いえ・・・なんでもないです。お世話になりました。失礼します」

  ・・・もう体の調子は元どおりになっていました。いえ、正確にはまだ完調で
  はないですが、ある一つのことが、私を元気にさせたのです。

  何だか分かりますか?

  駅員さんにカバンをとってもらったとき、私のカバンには、見覚えのあるマフ
  ラーがついていたのです。そのマフラーは・・・藤崎さんが編んだマフラー。
  高城さんにクリスマスプレゼントとしてあげたマフラー。私が編み方をおしえ
  てあげたマフラーがついていたのです。高城さん・・・高校受験に続いて大学
  受験でも高城さんに助けられた・・・

  とにかく受験会場に急がないと。遅刻は30分までしか許されません。いまは
  受験のことだけを考えなければ。高城さんのことについては後でゆっくりと考
  えることにします。

  この1件が私にある決断をさせることになりました。それはもう少し先の話で
  すが・・・