<3rd_GRADE 第10章:January(4)> Saki's EYE 『がんばれ未緒ちゃん』 「ふぅん・・・なるほどね・・・未緒ちゃんを助けてくれたのが、高城君だっ た、ってわけなのね」 「そうなんです」 受験も間近に控えた日曜日。・・・といってもそれはわたしのことじゃなくて 未緒ちゃんのことなんだけど。未緒ちゃんから電話が来て、ちょっと話がある、 って。未緒ちゃんから電話がくるってことは並大抵のことじゃないから・・・。 そして近くの喫茶店でお茶でも飲みながら話を聞いてみたの。そうしたら、未 緒ちゃんに好きな人が出来たって。・・・未緒ちゃんにも好きな人が出来たん だ・・・なんか未緒ちゃんって奥手っぽいから・・・。それで相談をわたしに もちかけてきたってところ。 「未緒ちゃん」 「は、はい」 「頑張るしかないよ、やっぱり」 「・・・」 「だって、未緒ちゃん、結局高城君のこと好きになっちゃったんでしょう?だ ったら迷うことないよ。失敗してもともと。あたって砕けるしかないよ」 「そ、そうでしょうか・・・」 「そうだよ。だって、もしかしてもしかしたら、高城君だって未緒ちゃんのこ と、その受験の日から気になってるかもしれないじゃない?」 「!?」 未緒ちゃんは奥手だから、その気にさせてあげるのにすごく時間がかかるのよ ね。自分でも積極的になりたい、って思っているみたいなんだけど・・・なか なか実行に移せないみたいで。 好きな人が出来たんだもん。諦めちゃうなんてダメだよ。失敗したって仕方な いじゃない。頑張るしかないと思うの。未緒ちゃんをその気にさせるのはかな り大変だと思うけど・・・未緒ちゃんには頑張ってもらいたいから・・・。 もちろん、高城君が未緒ちゃんに気を寄せているかどうかはわからないけど・ ・・未緒ちゃん。頑張れ。 「でも、高城さんには既にお付き合いしている人もいますし・・・」 「うーん、確かにそれが問題よね」 あ、未緒ちゃん、黙っちゃった。んもう、すぐに元気なくなっちゃうんだから。 「未緒ちゃんの話によると、高城君って藤崎さんとずっと幼なじみだったんで しょう?ってことは、高城君の方もとりあえず、って感じで付き合ってるのか もしれないよ」 「え?」 「高城君としたら、ずっと自分のことを見ていてくれたわけだし、その気持ち を裏切るわけにはいかないじゃない。そんな気持ちから付き合ってるのかもし れないってこと。だとしたら高城君が本当に好きな人は別にいるかもしれない ってことよ」 「そんなことってあるんでしょうか・・・」 「自分を好きになってくれる人を放っておくことってなかなか出来ないことだ と思うよ」 な、なんか強引な応援方法だな・・・ 「それにさ、未緒ちゃん、高城君と同じ大学受けるんだよね。受かったらずっ と一緒にいられるじゃない。チャンスよ、チャンス」 「・・・」 そんなに悩んだって何もはじまらないのよ。一人で悩んだって自分が辛くなる だけなんだから。人生、まだ長いんだし。失敗を恐れてちゃ何も出来ないぞ。 そんな感じのことを未緒ちゃんにお説教。お説教できるほどわたしだって経験 積んでるわけじゃないけど・・・ 未緒ちゃん、ものすごくさびしそうな顔をしてる。やっぱり藤崎さんのことが 気にかかってるんだろうな・・・。 ☆ ☆ ☆ ☆ 喫茶店を後にして駅の前で最後のお別れ。お別れって言うとなんか違うかしら。 「沙希ちゃん、今日はいろいろとありがとうございました。おかげでちょっと すっきりした気がします」 「え?それならいいんだけど・・・あんまり気にしすぎちゃだめだよ。未緒ち ゃん、気にし始めるときりがないんだから」 「ふふっ、受験も近いですしね・・・あまり気負わないでいこうと思います」 「受験が終わってからゆっくり考えるのがいいと思うよ。今は受験のことに集 中しなきゃ・・・ね」 「はい。沙希ちゃんはどうするんですか?就職するんですか?」 「うん・・・あんまり考えてないけど、お料理とか好きだし、そういう会社か お料理の専門学校とかに行ければいいな、って思ってる」 「そうですか・・・頑張ってくださいね」 ☆ ☆ ☆ ☆ うちに戻って来て一息。未緒ちゃん、相当悩んでるみたいな感じがしたんだけ ど、大丈夫かなぁ。やっぱりちょっと心配だな・・・人のこと心配してる場合 じゃないんだけど・・・未緒ちゃんとは長い付き合いだし、どうしても気にな っちゃうわけ。いつもは冷静な未緒ちゃんが喫茶店での話もかなり支離滅裂だ ったし・・・ 未緒ちゃん、頑張ってね。受験もだけど、もう一つの方も・・・