<3rd_GRADE 第10章:January(1)> Mio's EYE 『湧きおこる想い』 お正月。はぁ・・・受験生はお正月も返上で勉強です。一応志望校も決めまし た。地方の大学なのですが、ゲーテやシェイクスピアについて学べるところが あるようですので、そこを受験することにしました。合格したら・・・一人暮 らしをすることになるのでしょう。 とにかく今は合格することだけを念頭においてひたすら勉強です。とりあえず は合格圏内にいるみたいですけど、安心できませんから。 あと1ヶ月ですからね。がんばらないと。 「みお〜」 下から声がします。お母さんが呼んでるみたいですね。なんでしょうか。 「なに?お母さん」 「あなた、勉強しすぎよ。お正月だって言うのに。お正月くらいゆっくりしな さい。ほら、神社にでも行ってお参りでもしてきたらどう?気分もリフレッシ ュできてお参りもできて一石二鳥じゃない」 「そうね・・・初詣くらい行っておかないとね」 お母さんに言われて、手短に仕度を済ませ神社へ向かいます。うちから神社ま ではそれほどの距離はありません。でも、外は寒いでしょうから防寒対策はき っちりと。この時期に風邪をひいたらどうしようもないですからね。 お正月なので、神社もかなり混んでいます。ほとんど流れ作業のように人の波 が境内に向かって連なっています。そう言えば、去年は沙希ちゃんと来たんで したっけ。そうして藤崎さんを見つけて驚かしちゃったんですよね。今年も沙 希ちゃんも誘えば良かった。なんか一人でお参りするのってさびしいですね。 やっと社まできました。ここまで来るのに既に20分くらいかかっている気が します。ここ一体の神社の中では最大なので仕方ないですよね。お賽銭をだし てお参りして帰りましょう。奮発しちゃいましょうか。500円玉を取り出し てお賽銭箱に入れようとした時、 「きゃっ!」 誰かが私の肩をたたきました。突然だったので、思わず声を出してしまいまし た。誰でしょうか・・・ 「た、高城さん」 「あけましておめでとう。如月さん」 「あ、あけましておめでとうございます。びっくりさせないで下さい」 あはは、ごめんごめん、と頭をかく高城さん。悪気はないみたいですしね。 「ところで、如月さん独りで来たの?」 「ええ。なんかさっと行ってさっと帰るつもりでしたので」 「受験勉強に忙しいもんね」 「そういう高城さんだって一人じゃないですか。勉強はいいんですか?」 「勉強?あんなものいつだって出来るじゃない。でも初詣は正月しかできない からね」 なるほど一理あるかもしれませんね。それが高城さんの勉強をサボるためのヘ リクツだとわかったのは、もっと後のことでしたが。どうやら『ときめきの午 後』のマスターの影響をかなり受けているみたいですね。 「しかし、こんなに人がいるのに会ったのも何かの縁だし。ちょっと話しでも する?」 「え?ええ。高城さんの勉強時間を減らしてもよければ」 「あはは、如月さんも言うようになったなぁ」 話でも、といってもお正月なので、ほとんどのお店が開いていません。神社の 側にある公園で腰を下ろして話します。子供たちは元気よく走り回っています ね。こんなに寒いのに・・・ 「あい、お待たせ」 缶コーヒーを買って来てくれました。わたしはカフェオレ。苦いコーヒーは苦 手なんです。高城さんは逆みたいで、ブラックです。 他愛もない話から入りました。最近勉強頑張ってる?とか。大学はどうする? とか。なんと、偶然か、高城さんと私の志望大学が同じことが判明しました。 「本当ですか?偶然ですね!」 私はことのほか喜んでしまいました。自分でもどうしてだか分からないですけ ど・・・ 「でも、俺は合格すれすれラインだからなぁ。如月さんみたいに寝てても受か るって訳じゃないからな。ま、だからこうして必死で勉強してるわけだけど」 「頑張ればきっと合格できますよ」 「高校の時も必死でやったしなぁ。俺。俺、こう見えても中学の進路相談では どうでもいいから2ランク下の高校を受けろとまでいわれてたんだぜ」 「へぇ・・・そうなんですか。とてもそうは見えませんけど・・・」 「努力とか、苦手だからなぁ。まぁそんなこんなでもきらめき高校に合格でき たんだから、努力が実ったのかもしれないな・・・あ、その時もこの神社に初 詣に来たんだっけか」 「じゃぁ、今年も合格できますよ。頑張りましょうね」 「おう」 高校受験・・・と聞いてふと思い出してしまいました。高校受験の日のあの思 い出。正確に言えば思い出、とは言えないですよね。貧血で倒れていたのです から。でも、私にとっては大切な思い出です。 「どうしたの?考え事?」 「え、ええ・・・ちょっと高校受験の日のことを思い出してしまって・・・」 「・・・なにかあったの?」 「え、ええ・・・ちょっと・・・恥ずかしい話ですけど・・・」 教えてよ、という高城さんの要望で話すことになってしまいました。ちょっと 恥ずかしい、高校受験の日の思い出・・・ 「・・・という訳なんです」 包み隠さず話してしまいました。話してしまって良かったのでしょうか・・・ 「別に恥ずかしい話じゃないじゃない。如月さんらしいといえば如月さんらし いね。受験の日に駅で倒れちゃうなんて」 「・・・」 「でもこうして合格して3年間きらめき高校の生徒としていられたんだからよ かったんじゃないの?」 「それはそうですけど・・・その助けてくれた人もきらめき高校を受験するっ て言うふうに駅の人は言ってたので、すごく気になるんです。その人が合格し てたら私の顔見て、受験の日のことを思い出してくれるのでしょうか・・・」 「・・・思い出してくれると思うよ、きっと」 「そうでしょうか・・・」 「そうさ。だって、考えてみなよ、如月さんを助けてくれた奴が如月さんの顔 を見て、思い出したとして、『私があなたを助けたんですよ』なんて言えると 思う?」 「えっ?あっ、それもそうですよね」 「だろう?だからそいつも合格してるとしたらきっと如月さんのことを見てる と思うんだよな」 「そんなものでしょうか・・・」 「そんなものだよ。当人が言うんだから間違いない」 「・・・えっ?」