<2nd_GRADE 第9章:December(4)> Shiori's EYE 『Love Forever』 伊集院君のところで行われたクリスマスパーティーも終わり・・・ 「詩織、そろそろ帰るか」 「え?う、うん」 帰り道・・・ 「パーティー、楽しかったね」 「そうだな・・・思いっきり楽しめたしな」 「ふふっ。そうよ。あんなに思いっきり叩くんですもの・・・」 パーティー途中の催し物で「ボカボカジャンケン」が行われたの。ルールはい たって簡単で、ジャンケンをして勝ったほうは相手を叩く、負けたほうは洗面 器を頭にのせて叩かれるのを防ぐっていう、アレ。 なんで、伊集院さんのところでそんなイベントが行われるのかは分からないけ ど・・・不思議よね、やっぱり。 対戦形式で行われるんだけど、参加者は16人。武雄君も参加してたの。あ、 早乙女君も参加してたっけ。もちろん、伊集院君も参加してたわ。 順当に勝ちあがった武雄君(こういうゲームってすごく強いのよね、武雄君) の決勝戦の相手は伊集院君。 ☆ ☆ ☆ ☆ 「なんだ、相手は君か。優勝は僕がもらったも同然だな」 「なんとでもいえ。やってみなきゃわからんだろうに」 「はーっはっはっはっ。庶民にこの僕が負けるわけないじゃないか」 「・・・」 そして試合開始。実力は伯仲。2対2であと1発キメれば優勝ってところ。そ こで・・・ ジャンケンホン。 「あっ!」 と正面にいる伊集院君の背後を指差します。 「えっ?」 と伊集院君とっさに後ろを向いてしまいます。そして・・・ 「ゴイーーーーーーン」 武雄君は手に持っているハリセン(そう叩くのはハリセンなの)で、叩くので はなくなんと洗面器で伊集院君を叩いたのです。 「うっ」とも、「あっ」ともつかないうめきをあげて伊集院君は気を失ってし まいました。 でも、ジャンケンは正当に行われていたし・・・勝ちは勝ちです・・・ ☆ ☆ ☆ ☆ 「スカッとしたよな・・・くっくっく」 「でも、ちょっとやりすぎたんじゃないの、伊集院君、大丈夫かしら」 「おいおい、俺の心配もしてくれたっていいじゃないか。もしかしたら伊集院 だって俺と同じこと考えてたかもしれないぞ」 「(それは絶対にないと思うけど・・・)そ、そうね」 と歩いていく武雄君とわたし。 「でもなぁ・・・優勝賞品が・・・」 「ふふっ・・・」 「笑うなよ!まさか目の前で捨てるわけにもいかないしなぁ・・・ホント、ど うしようかなぁ」 そう。ボカボカジャンケンの優勝賞品は・・・伊集院君のサインいり色紙と特 製純金メッキされたブロマイド。武雄君がもらってもどうしようもないよね。 賞品を渡された武雄君の顔ったら・・・それは見物だったんだから。まるで苦 手なものを食べた子供のような顔をしてたわ。苦笑と言うには程遠いような。 しかも、すごくいやそうな顔をして・・・でも、その素直なところが武雄君っ ぽいと言えば武雄君っぽいんだけどね。 伊集院君のお宅からうちまではそれほど距離はありません。すぐに着いてしま います。 「ちょっと・・・寄り道しようか」 そう言うが早いか、うちへ向かう曲がり角を反対側へ曲がっていきます。 「えっ?あ、た、武雄くん、待ってぇ」 スタスタと小走りで武雄くんに追いつきます。寄り道しようなんて武雄くんの 口から出るとは思わなかったから、体が勝手に角を曲がってたわ。慌てて武雄 くんのほうに戻ったけど。 「たまには寄り道するのも悪くないだろう?どうせ詩織のお母さんは俺が一緒 にいるの知ってるんだろうし」 「え?そ、そうだけど・・・」 図星。お母さんには武雄くんがいるんだったらちょっとくらい遅くなっても構 わないわよ、って言われてきてるの・・・どうして分かっちゃったのかしら? 「別に」 ・・・だって。やっぱり幼なじみってそんなものなのかしらね。 「で、どこに向かってるの?」 「え?とりあえず近所の公園にでも・・・」 と言うが早いか到着。近所の公園自体うちから歩いても5分とかからないし・ ・・。 「そう言えば、思い出すなぁ」 「え?何を?」 「去年の今日」 「・・・」 「・・・」 二人とも黙っちゃった。たどり着いたのは・・・大きな樹の前。武雄くんとわ たしが背比べをした、あの樹。そう言えば去年も・・・ 「去年、わたしここでぼぉっとしてたんだっけ」 「・・・そうだな」 「それで、恐いお兄さんに驚かされて」 「・・・え?」 なんだ?という顔をする武雄くん。わたしは舌をペロッとだして、 「うそうそ。素敵なお兄さんが現れて、『危ないから早く帰れ』って言ったの よね」 「・・・まぁ、当たらずとも遠からずだな」 「ふふっ。でもあのとき、武雄くんが来るなんて全然思ってなかったからすご く驚いたし・・・恐かったんだから」 「でも、そう言われても俺だって、こんな時間にここに詩織がいるだなんて思 っても見なかったからなぁ。あれでもなるべく驚かないように近寄ったつもり なんだぜ。突然声かけるのも驚くだろうし、それでいて黙ったまま近づくのも なんだし・・・」 「そ、そうよね。武雄くんのほうが気にしてくれてたんだよね。ありがとう」 「そう言われると・・・困るけど・・・」 また黙ってしまう二人。どうしても昔話になってしまいます。昔話と言うほど 昔の話じゃないけど・・・ 「でも、あれがなかったら今ごろわたし達は・・・どうなってたんだろうね。 武雄くん?」 「さぁ・・・どうなってたかなぁ。今まで通りだったんじゃないのか?」 「今まで通り?そう、そうよね・・・」 わたしはそうは思わなかった。武雄君がわたしのことを気にする以上に気にす る娘と・・・いえ、これ以上は言わない。だって・・・悔しいから。 いえ、もしかしたら今からだって遅くないかもしれない。武雄くんの気持ちが 変わってしまったら・・・わたしは・・・ 「どうした?詩織。顔色が良くないみたいだけど」 「う、ううん。なんでもないの。ちょっと考え事しちゃった」 「なんだよ。俺が側にいるのに一人の世界に入ってたって言うのか?で、何を 考えていたんだ?」 「ん?・・・な・い・しょ」 「ずるいぞ!教えろよ。隠し事はいけないんだぞ」 武雄くんがわたしの肩をつかんで揺らします。 「だ・め。ないしょなの」 「なんでだよぉ」 ・・・はっ。いつの間にか、武雄くんの顔がわたしの前に来ていました。そん な顔で見ないで、武雄くん。わたし・・・まだ嫉妬してるのかな。武雄くんが こんなに側にいるのに・・・ 「詩織・・・」 「武雄くん・・・」 沈黙の時間。でもそれは心の繋がり。お互いの気持ちを再確認する儀式・・・ ☆ ☆ ☆ ☆ 「あ、雪が降ってきた」 「そういや、去年は雪、降ってたっけ?」 「ううん、多分降ってなかったと思う」 そういうと、わたしは武雄くんの腕につかまります。ちょっと歩くと高台があ るの。そこから眺める景色は結構綺麗なの。 「ホワイトクリスマスだね」 「そうだな。なんか綺麗だな。いつも見てる街なのに」 「そうね。いつもとは違って見えるね」 廻りが変わっても、わたしと武雄くんだけは変わらない。そう信じていました。