<2nd_GRADE 第8章:November(2)> Takeo's EYE 『驚き』 普段通りに学校に行き、普段の生活。何も変わらない。側には詩織がいる。し かし・・・平穏な生活はいつか崩されるものだ。この生活を崩すのは一体誰だ ろう。 「高城先輩っ!」 うっ、どこからか俺を呼ぶ声がする。しかも聞きなれた声だ。それに、後輩で 俺が知ってるのは、演劇部の後輩と・・・ 「先輩、帰っちゃだめですよ。ちゃんと読んでくださいねっ!」 はぁ・・・やっぱりか。後輩で知ってるのは、演劇部と、早乙女優美ちゃんし か知らない。当然、声の主は後者だった。 下校時、校門で詩織を待たせているので急ぎ足で昇降口へ行ったのだが、下駄 箱の中に一通の手紙が入っていた・・・差出人は・・・早乙女優美・・・。 野生のカンとでもいうのだろうか。ここは見て見ぬふりして逃げるのが一番だ と思った。詩織に先に相談しよう、と思ったのもある。俺は手紙を鞄に入れ昇 降口を出ようとしたところ・・・彼女は俺の行動の一部始終を見ていたのだ。 俺が手紙を読まずにそのまま鞄に入れたことも・・・はぁ。なんて娘だ。 「ちゃんと読んでください!」 まさか、『いやです』とはいえず、しぶしぶ手紙を開ける。詩織、待ってるだ ろうなぁ・・・ 手紙の内容は要約するとこうだった。 「これを読んだら伝説の樹の下まで来てください 早乙女優美」 もう、優美ちゃんはこっちを見ていないだろうか?いや見てないはずはないだ ろうな。このまま帰ってしまう訳にはいかなくなってしまった。でも、校門で 待つ詩織のところまで行くわけにもいかない。柱の影から覗いていそうだから。 詩織に事情を説明している暇は・・・ない。 ということはあきらめて樹の下へへあがるしかないようだ。また詩織になんて 言えばいいんだろう・・・こないだも怒らせたばっかりなのに・・・ 俺はそんなことを考えながら校庭へ向かった。、どこで見ているとも知れぬ後 輩の女生徒の姿を気にしながら。 しかし、見ていたのは優美ちゃんの他にもいたのを知ったのは、ずいぶんとあ との話だ。 ☆ ☆ ☆ ☆ 伝説の樹の下には目的の人物はすぐそばで待っていた。 「先輩っ。来てくれたんですね」 「で?どうしたの?(あれだけこれ見よがしに言われちゃ、行かないわけには いかんだろ)」 「え?そ、それは・・・」 もじもじしている優美ちゃん。 「あ、あの・・・優美、おっちょこちょいだし、頭悪いけど、頑張りますっ!」 ・・・え? 「だ、だから、優美を高城先輩の彼女にしてくださいっ!」 ・・・ええっ?思いもよらない攻撃に俺は結構なダメージを受けた感じがした。 優美ちゃん、そんな攻撃で来るとは思わなかった。こんなところ詩織に見られ ていたら、と思うと背筋がぞっとする。 それより何より今は目先の問題・・・か。優美ちゃんをどう説得するか。俺、 今彼女いるんだ、とはっきり言うか。好みじゃない(『嫌い』とかとは全然別 問題だ)とはっきり言うか。それとも、返事を少し待ってもらって・・・自然 消滅を狙うか・・・どれを選んだとしても、優美ちゃんを説得させるのは難し いだろうな。いっそのこと適当に付き合っちゃった方が楽かもしれない。・・ ・いや、何を考えてるんだ、俺は。そんなことできるわけないじゃないか。毎 日好雄の二の舞になるのはゴメンだ。じゃぁ、やっぱり断るしかないんだろう な。 「ごめん。それは無理な相談だよ、優美ちゃん」 目を閉じてずっと俺の反応を待っていたみたいだ。体をこわばらせて・・・。 出来ることならこんな事は言いたくなかったけど・・・でも、俺には詩織がい る。詩織を裏切ることは出来ない。俺は今、詩織のことが好きだし、詩織のこ とで精一杯だ。とても他の娘のことにまで頭は回らない。 「ごめん。今は無理だよ」 「・・・彼女、いるんですか?」 「えっ?」 「もう、彼女作っちゃったんですね。・・・そ、そうですよね。1年もすれば 先輩みたいにカッコいいひとなら彼女のひとりやふたり、できますよね。そう だよ。優美の思い通りになんかなるはずないのにね。あははっ」 誰がどう見ても強がりをいっているとしか思えない表情。悲しげな・・・でも 俺にはどうすることも出来ない。 「ごめん。優美ちゃん。今は俺には謝ることしか出来ないよ」 優美ちゃんはぬれている目元を手でふきながら 「いいんです。高城先輩が謝らなくても。優美が勝手に好きになって勝手に彼 女にしてほしい、ってお願いしてるんだもん。断られても当然だもん・・・」 優美ちゃんが近づいてくる。 「でも、でもですよ。優美、あきらめませんから。もし、高城先輩、彼女と別 れたりしたら、すぐに次は優美の番ですからね。忘れないでくださいね」 ・・・。こう言うときなんていえばいいんだろうなぁ。 「先輩?」 「あ、ああ」 「優美のあたま、なでてください。だめですか?」 「え?あたま?い、いいけど・・・」 言われるがまま優美ちゃんのあたまをなでてあげる。あまり言いたくないが、 俺に出来るのはこの程度かもしれない。 どれくらい時が経ったのだろうか。 ☆ ☆ ☆ ☆ 「優美、あきらめませんからね。それじゃぁ、先輩」 そういうと樹の下から去っていった。 「・・・俺もそろそろ帰るか。詩織、待っていてくれているかなぁ」 ぐったりした足取りで校門へ向かった。が、校門に詩織はいなかった。そりゃ そうだよな。あれだけ待たせておけば、帰るのも当然か。 その夜、俺は詩織のうちに電話をかけた・・・が詩織はいない。どこに行った のかもわからないという。一度帰ってきたと詩織のお母さんは言っていたので、 多分すぐに帰ってくるだろう、とのことだったが・・・俺は戻ってきたら連絡 ください、とことづてを頼んで、電話を切った。