<2nd_GRADE 第8章:November(1)> Shiori's EYE 『驚き』 夜。静かに支度を済ませ、出かける準備。両親にも行き先を告げずに、出かけ てきてしまった・・・ ☆ ☆ ☆ ☆ 誰もいない『ときめ後』。いえ、いるのはマスターと私だけ。 夜。閉店した後、わたしが無理を言ってマスターと話す機会を作ってもらった の。どうしても聞いてほしい話があったから・・・ マスターは快く引き受けてくれた。『閉店まで待ってくれ』といわれたけど、 それは当然よね。マスターだって仕事があるんですもの。 お願いしたのが夕方でちょっと時間があったから、自宅に帰ってシャワーを浴 びてもう一度閉店後に『ときめ後』へ。 夜のときめ後は、昔、台風で停電しちゃった日以来かもしれない。あの時より わたし、大人になったのかしら。とにかく誰かに聞いてほしかった。 マスターはやさしくわたしを迎え入れてくれた。あの時のように。そして、な れた手つきでコーヒーをいれる。いい香りが店中に広がっていく。お店の中で 電気が点いているのはカウンター付近だけ。電気代もバカにならないんだ、と マスターの弁。薄暗い店内が妙に大人な雰囲気。なんだかどきどきしちゃう。 ううん、今日はそんなこといってる場合じゃないんだから。ちゃんとマスター に聞いてもらわないと。 目の前にコーヒーが出される。前に出してもらったのと同じ香り。 「さて、いつでもどうぞ。どうしたんだい?深刻そうな話なんだろうね」 「あ、は、はい・・・」 「まぁ、深刻そうになるのもいいけど、ゆっくりコーヒーでもすすりながら悠 長に話すのもオツなもんだよ」 「え、あ、はぁ・・・」 「あんまり、肩肘はらずに話してごらん。いまの詩織ちゃんの感情からじゃな にも生み出されないよ。いつもの詩織ちゃんのように冷静に話してごらん。そ のためにも・・・コーヒーでもすすって、ね」 そんなにわたしの顔、こわばってるのかしら。そこまで見通されてるのかしら。 なんだか、すごい。そう思うと自然と体の緊張がほどけてきます。不思議。 「そうそう。そうやっていつもの顔つきで。さぁ、話してごらん。ちゃんと一 字一句まで、聞いてあげるから」 わたしのこの気持ちを聞いてくれる人は、マスターくらいしかいなかったので す。武雄君?武雄君は・・・ダメ。だって、武雄君自身の話ですもの。それで も、武雄君に真っ先に相談しなきゃ行けなかったのかしら。 ・・・ダメ。武雄君に相談できないから、ううん、相談できないって思ったか ら今こうしてここにいるわけで。だれか、全然関係ない人に聞いてもらいたい から・・・ メグに相談しようと思って電話したんだけど、いなくて。どうしても今日中に心 の整理を付けておきたかったから。そうしないとわたし、おかしくなっちゃいそ う。その時ふと思い付いたのが、『ときめ後』のマスターでした。武雄君の叔父 様に当たる人だけど、それは関係無いものね。大人の人だし、聞いてもらえれば わたしも少しは落ち着くかもしれないし。 「実は・・・」