<2nd_GRADE 第7章:October(3)> Takeo's EYE 『言い訳の訳』 あっちゃー。 なんというか、いろんな人が同時に攻めてきたような感じだな。もう対処でき ない。 片桐さんが来た時点でも『ヤバい』とは思っていたが、言い訳する自信はあっ た。・・・が、優美ちゃんが来たのは大幅に予想外だった。 いや、そんなこと考えてる場合じゃないぞ。詩織はどう見ても俺のこと疑って る。ただ謝るだけじゃどうしうようもなさそうだ。 昔から、詩織は一度へそを曲げると直るのに時間がかかるからなぁ。その分、 めったにへそを曲げることもないんだが。・・・と言っても元々はといえば俺 の責任・・・なのだろうか。なんか違うような気もするのだが・・・ 「ごめん、訳は後で話すよ。帰りに昇降口で待ち合わせでいい?」 「え?あ、うん・・・」 なんか、その場はそれで収まったって感じ。根本は何も解決していない。さて、 どうしたものだろう。正直に話すか・・・それが一番だろうな。 部室に無言でたたずむ、俺と詩織。もちろん、他の部員もいるが、今の俺には 詩織の無言で下を向いている姿しか見えない。理由はどうあれ、俺が詩織を傷 つけたんだろうな。強引に誘われたとはいえ、きちんと断るって選択だってあ ったはずだ。それをしなかった自分にも原因はあるだろう。バレなければいい と思った?わからないなぁ。とにかく事の起こりから全てを詩織に話して謝ろ う。あさはかだったのは確かだしな。そして納得してもらえるようにしよう。 それしかない。 スタッフたちの片づけも終わり、部員全員で集まる。今日は学園祭の日なので あまり遅くまでやらずに、すぐに解散になる。打ち上げは後日行われることに なるだろう。といっても、みんなで食事しに行くくらいであるが。 「解散!お疲れさま!」 部長の一言で解散となった。みんな思い思いに帰る支度をしている。部員同士 でごく内輪の打ち上げをやるグループもある。 その中でも特に親しくしてる友達から声がかかった。 「おう、武雄。おまえも打ち上げいかない?どうせかえるだけだろ?」 「あ、ああ、そうだけど」 「じゃぁ、行こうぜ。主役がいないと始まんないしな」 既に詩織の姿はない。先に行ったのだろうか。心が苦しい。胸を締め付けるよ うな苦しさ。後悔ってやつかな。友人たちはしきりに袖を引っ張って連れて行 こうとする。その手を振り解いた。 「ご、ごめん。今日はちょっとだめなんだ」 「そっか・・・残念だな」 「ごめん。今度は必ず」 こういう時、聞き分けのいい友人を持つとありがたい。これが好雄だったら、 到底許してはくれないだろうな・・・と思いつつ、そそくさと帰り支度を整え る。詩織はもう昇降口で待っているはずだ。 走れ。・・・と言っても廊下を走るわけにも行かず、早足になりながら昇降口 へ。靴を履き替えて・・・ドアの側に立っている影。詩織だった。 「ごめん。待った?」 「う、ううん。それほどでも・・・」 「どうした?」 うつむいている詩織にそう声をかける俺。考えてもみろ、その原因を作ってい るのは他でもない俺自身なのに、『どうした?』はないだろう。自分で言って てイヤになる。 「平気。武雄君が来てくれてよかった。打ち上げに行っちゃうかと思った」 詩織がこんな状況なのに、行けるはずもない・・・ −−そうか? なぜ?自問自答する。だれと? −−詩織がこれほどまでに落ち込んでたり、怒っていなければおまえは詩織を おいて行ってしまったということじゃないのか? そんなことはない。詩織が待ってる、って言ってるのに、無視するはずがない。 −−ほう?本当におまえは詩織のことが好きなのか? 当たり前だ! ☆ ☆ ☆ ☆ 「・・・君、た・・・お君?」 誰かが必死で肩をゆすっている。ああ、詩織か。 「イヤ!武雄君。どうしちゃったの?大丈夫?なんか取り付かれてたみたいに ぼーっとしてたけど」 「あ、ごめん。平気平気。やっぱり体力と精神力を使い果たしちゃったから、 疲れちゃったのかもしれないな」 俺は、わざとらしく両手を頭の後ろで組んで伸びをする。 「さて、ちゃんと説明するよ。叔父さんのところにでも行くか」 「・・・うん」 さっきの声・・・なんだったのだろう。薄気味悪い。それとも・・・ ☆ ☆ ☆ ☆ カラン、コロン、カラン、コロン。 「おう、武雄か。いらっしゃい。詩織ちゃん・・・ん?」 カウンターから出てきたマスター。が、押し黙っている俺と詩織を見たマスタ ーはいぶかしげに俺を見る。なんで俺を先に見るんだ。 「ふふん、そういうことか。ま、がんばるんだな」 ・・・。肩をポンとたたかれ、マスターはカウンターへ戻っていった。これだ けで大体の事情は分かってしまったのだろうか。そんなに顔に出てるかなぁ。 今日は学園祭なのであまり客は来ないようだ。ぽつりぽつりと客(きらめき高 校の生徒でもない)がいるくらい。俺らはマスターから遠いところを選び、座 った。一通り話してから注文しよう。 「あのな、詩織・・・ん?」 ふと横を見るとなぜかマスターが立っている。まったく、邪魔すんなよ。 「あのねぇ、マスター。邪魔しないでくれる?」 全然悪びれた様子もない。 「あ、ああ、コーヒー持ってきたんだ。サービスだよ」 「あ、そう。ありがとう」 「いえいえ、どういたしまして」 ・・・。人の話を聞いていないらしい。 「あ、あの・・・」 「ん?」 「いや、なんでそこにいるの?カウンターに戻っていいってば」 「そうか?仕方ないなぁ」 さびしそうにカウンターへ戻っていくマスター。っていうか、当たり前じゃな いか。邪魔するなよ、全く。 「ふふっ」 詩織がたまらず吹き出したようだ。もしかして、マスターこれを狙ってたんだ ろうか。俺らを敢えてなごませるために・・・そっか。いいとこあるじゃん。 俺自身にも勇気が出てきたのも確かだし。ちらっとカウンターを見ると、マス ターはこちらを見ていた。マスターの顔。まさに『しっかりやれよ』って顔つ きだった。やっぱり当分あの人には勝てないな、と思わされたのも事実だった。 さて、正直に話すか。 ☆ ☆ ☆ ☆ 「ふぅん・・・なんとなく事情はわかったわ」 詩織がため息をつきながら言った。まだ警戒心は解かれていない。ってことは まだ怒っているということだ。 「なんで・・・どうしてわたしに相談してくれないの?」 「え・・・?」 「わたしのことを気にして相談してくれなかったってこと?わたしに隠し事、 しないで欲しい・・・わたしだって、武雄君の役に立ちたいもの」 「詩織・・・」 「だから、今度からは他の人じゃなくて、わたしに先に相談して。どんなこと でも。じゃないと、また今回みたいなことがあったら・・・悲しいから・・・」 目を閉じた詩織。なんだか凄く心配かけちゃってるみたいだな。というよりは 迷惑ってところだろうか。確かに詩織に心配かけまいとして敢えて自分だけで 片付けようとしていた・・・その方が詩織にとってもいいと思ったから。 「でも、わかってくれよ。別に後暗いところがあったから詩織になにも言わな かったわけじゃないんだぜ。それだけは信じてくれ。お願いだから」 . 「・・・う、うん・・・わかってる。わたしもちょっと言いすぎちゃったね。 なんだか武雄君を他の女の娘に取られちゃいそうな・・・そんな感じがしたか ら・・・、ごめんね」 どちらが悪い、なんてことはないんだろうな。 「俺のほうこそごめん。今度からは詩織に先に話すよ」 「うん・・・そうして」 「じゃぁ、和解したところで、シフォンでもいかがかな?」 「えっ?」 「あっ!」 ふとそばを見るとマスターが立っていた、なんだかんだでずっと聞いていたみ たいだ。恥ずかしいなぁ。 「おい、マスター。ずっとそこにいたの?」 「え?いや、さっきだけど?」 「(マスター、適当に言いやがって)」 「ほらほら、サービスしてやるから。もう水に流して、さっぱりしろって。な ぁ?詩織ちゃんもそう思うだろ?」 「え、えぇ・・・そうですね」 「じゃぁ食べた食べた」 なんか今回もうまくマスターに丸めこまれた気もするが、詩織との今のぎくし ゃくした関係を和らげてくれたのは、マスター以外に他ならない。やっぱりこ れが大人ってことなのかな。 とにかく。詩織とも無事に和解出来てよかった。和解?和解って言うのもなん かヘンだなぁ。ま、いっか。