<2nd_GRADE 第7章:October(1)> Mio's EYE 『Jurius Cerser』

  修学旅行も無事に終り・・・学園祭の季節がまたやってきました。われわれの
  演劇部も他のクラブ同様最後の追いこみに入っています。今回の出し物は・・
  ・『ジュリアス・シーサー』です。え?なんか違う?そうなんです。今年の脚
  本はシェークスピアをお手本にちょっとひねったオリジナル作品なのです。

  時はローマ、カルタゴとの抗争の中でジュリアス・シーサーがローマのトップ
  にのし上がり、段々と恐怖政治に陥っていく・・・史実では暗殺されますが、
  そんなことは一切起きず、ローマはシーサーの独裁を受け入れます。しかし、
  皮肉なことに、段々とローマは繁栄していき、地中海〜ヨーロッパを手中に収
  めようとした時に・・・なんと、階段から転がり落ちて死んでしまいます。ロ
  ーマは独裁者、つまり唯一の国を率いることが出来る人材を失い、急速に衰退
  していきます。その様を皮肉たっぷりに描く・・・といった感じでしょうか。

  そ、その主役たる「シーサー役」に高城さんが選ばれたのです。去年のことを
  考えれば当然といえば当然のことなのですが、2年生が主役を張るということ
  はめったにないだけにこのキャスティングは賛否両論となっていました。そし
  て、シーサーを暗殺せんとたくらむアントヌニスの同盟者「クレオパトリ役」
  には藤崎さん!なんとすばらしいことなのでしょう。私の知っている2人が主
  役を任されたのですから・・・

  私ですか?私は、今回は出演しません。変わりにもともと文章を書くことが好
  きだったことが幸いして、「脚本・演出リーダー」のお仕事をいただきました。
  要するに、自分の書いた脚本が演劇になるのです。勿論、脚本を書くというこ
  とはその人の頭がその話の中での創造主ですから、逐一助言が必要になります。
  だから演出まで・・・

  私もすごいお仕事をもらってしまって・・・嬉しいやら困ったやらです。どう
  すればいいのでしょう。とにかく書いて書いて書きまくるしかないですね。自
  分の得意分野ですから。頑張らないと。

  実際脚本の仕事は夏合宿(8月に1週間ほど行われたんです)で簡単な世界観
  の打ち合わせと話の流れの打ち合わせを行い、9月中で脚本を書き上げる。1
  ヶ月で練習して本番・・・です。今日がその〆切です。

  ここ数日間、ほとんど寝ていません。とにかくいいものを書きたい作りたい。
  その気持ちだけで頑張ってきた気がします。だから、9月中、授業を聞かない
  で・・・気がつくとウトウトしてしまっていたことも多々ありました・・・お
  恥ずかしい限りなのですけど・・・

  放課後。分厚い原稿用紙の束をもって、部室へ行きます。3年生の部長に手渡
  しました。あとで見ておくから、と。合格点がもらえるでしょうか・・・私の
  文章力、がどこまでのものなのか・・・それがこれで判明すると思うとドキド
  キしてしまいます。

  普通に練習に参加して・・・帰りがけに部長に呼ばれて部室に行きます。ああ、
  きっと全部読んでもらえたんですね。

  「如月さんの、脚本、全部読ませてもらったわ」
  「は、はい・・・で・・・」
  「うん、いいんじゃないかしら。ちょっとまわりくどい言い回しとかを削って
  いかないと到底時間内に収まらないからその辺を手直ししてもらえれば。あさ
  ってまでに出来るかしら?」

  断る理由もありません。

  「はいっ、やります!」

  自分の声かと聞き違えるほど元気な声を出していました。これが本当の自分・
  ・・なのでしょうか?元気な自分を見るのは久しぶりかも知れません。

             ☆              ☆              ☆              ☆

  うちに帰っても机に向かいっぱなしです。いつもなら1日の復習をするのです
  が、そんなものはほったらかし。今は『ジュリアス・シーサー』に夢中です。

  「未緒〜?みお〜?・・・」

             ☆              ☆              ☆              ☆

  「未緒?いるなら返事をなさい」
  「えっ、あ、ごめんなさい・・・ちょっと夢中だったから・・・」
  「あんまり夢中になるのもいいけど、ちゃんと休む時に休まないとまた体壊し
  てしまうわよ。程ほどにね」
  「ええ、お母さん」

  私の部屋に来たのはお母さんでした。最近夜も寝ないで机に向かっているので
  さすがに心配したのでしょう。でも・・・たまにはなにかに打ち込んでみると
  いうのもいいことじゃないか、と思うんです。いままで何事も無難に無難に進
  めていましたが、勝負する時は勝負しなきゃ、と思うのでした。

             ☆              ☆              ☆              ☆

  「はい、OKよ。じゃぁこれで台本作ってちょうだい」
  「はいっ」

  翌日。2日という話でしたが、なんとか終らせて部長のところに持っていきま
  す。すんなりとOKが出ました。昨日頑張った甲斐がありますね。

  「でも如月さん・・・あんまり頑張らないでちょうだいね。無理は禁物よ。気
  持ちはわかるけど・・・」
  「え?・・・」
  「あなたが頑張ってくれるのは嬉しいけど、演劇っていうのは・・・もちろん
  演劇に限ったことではないけど、みんなで作るものなの。誰一人として欠けち
  ゃダメなのよ。時には無理することもあるかもしれないけど、休める時に休ん
  でみんなで成功させるようにするのも部員の務めよ。2日でやって、って言っ
  たわよね?もちろん1日であげれば部としてはスケジュールも進むかもしれな
  い。でも、もしあなたがそれによって倒れちゃったりしたらどうなると思う?」
  「そ、それは・・・」
  「1日スケジュールを早く終わらせたせいで、1日以上スケジュールが遅れる
  ことだってありうるの。だから、程々に、ね」

  そうですね・・・お母さんの言っていたとおりだったかもしれません。

  「わかりました。気をつけます」
  「ええ、じゃぁ頑張りましょう。もう1ヶ月しかないわ」
  「はいっ」

  こうして台本は完成し、本番に向け練習が始まったのです。