<2nd_GRADE 第6章:September(2)> Shiori's EYE 『歴史探訪』

  もう秋。木々の葉も赤く染まって、落ちているものもちらほらあるみたい。そ
  んな中をわたしと武雄君は歩いていきます。

  修学旅行で京都・奈良に来ています。学校の伝統として、3日目、4日目はペ
  アで個人行動をすると言うことになっているのです。わたし?もちろん・・・
  武雄君とペアです。なんだか、堂々とデートができるみたいでちょっと嬉しい
  な。幸い、まだわたしたちの間柄に気づいている人はあんまりいないみたいだ
  し・・・

  朝日奈さんは、仕方ないとして・・・他には?早乙女君もまだわかってないみ
  たいだし、安心していられそう・・・なのかしら?

  修学旅行前から、どこにいこうかと、2人で打ち合わせをしていたんだけど、
  やっぱり、2人とも京都・奈良をゆっくり廻るのははじめてと言うことで有名
  どころを廻っていこう、と言うことになったの。

  とりあえず、近鉄線西大寺から平城京跡へ。

  平城京といえば710年。でも、『跡』という言葉が示すとおり既に現存せず
  残っているのはその復元と、大きな跡地だけ。もちろん、その地には記念館・
  ・・じゃないよね、博物館が立てられています。

  なんか、すごく広い。

  「そりゃぁ、そうだろう。街なんだから。一時期であれ日本の都だったんだぞ。
  小さいわけないじゃないか」

  武雄君の言葉に妙に納得しつつ博物館へ。そうよね。大きな都なんだからいく
  らその一部といってもそれなりに広いはずよね。

  博物館へは結構な距離を歩きました。なんか、本当にこっちにあるの?ってい
  うくらい。だって、何もないんですもの。復元中、という看板が立てられた場
  所がいっぱいあったけど、まだなにもできていないみたい。広い敷地には博物
  館の建物くらいしか見当たりません。野球場が何個も入るくらいの広さ。やは
  り都ともなると栄えていたのでしょうね。現代に生きるわたしたちには想像も
  つかない気もするけど・・・強いていえば、教科書や資料集で見て想像するく
  らい。わたしたちが思っている以上に栄えていたのでしょうね。そう考えてい
  くと歴史をさかのぼって、その時代に行ってみたい、という気になります。

  「あっはっは、止めときなって。詩織じゃだめだよ」
  「なんで?そんなことないよ」
  「だって、詩織はお人よしだしな。きっと生きていけないよ」
  「・・・」

  でも案外武雄君の言ってる事も正しい気もする。戦国時代とかでわたし、生き
  ていけるとは思えないもの。それだけ、今の日本が平和だってことなのね。

  博物館も一回りして・・・側にはなにも見るものはありません。予定からする
  と奈良公園内の『奈良国立博物館』へ行く予定になっています。今から行けば
  結構ゆっくりできるはずね。

  平城京跡駅へ向かって戻ります。

  「あいたっ!」

  武雄君の声。見ると・・・  恐そうな人たちが3,4人。

  「おうおう、にーちゃんぶつかっておいて『あいたっ』はねーんじゃねーの?」
  「お、おまえらが勝手にぶつかってきたんだろうが!」

  武雄君もよせばいいのに突っかかっていきます。わたしは武雄君の服をしきり
  に引っ張って『もう行こうよ、行こうよ』と訴えますが武雄君には届かないみ
  たい。

  「で?なに?なんか文句でもあるわけ?かわいいおねーちゃん連れたぼっちゃ
  んよ」
  「たしかにかわいいねぇ、どう?俺らとドライブでもしない?いっひっひ」

  背筋が寒くなります。『いっひっひ』といった人は、どうやらシンナーでも吸
  っているようで目がすわっています。恐い。ねぇ、武雄君。逃げようよ・・・

  「あっ、番長!」

  3人目の男の後ろからリーダーらしき男の人が。

  「なぁ、兄さんや。こいつらも別にあんたらを取って食おうって言うわけやな
  い。ぶつかったことを謝ればそれでええんや。こっちも大騒ぎしとうないんや。
  わかるか?いっている意味が」

  要するに筋を通せ、と言ってるみたい。でもぶつかってきたのは向こうの方な
  のに・・・

  「でも、ぶつかってきたのはそいつらですよ。謝らなきゃいけない道理はない
  と思いますけど?」

  た、武雄君・・・た、確かにそうかも知れないけど・・・さっさと謝っちゃえ
  ばそれで済んだのに・・・わたしは武雄君の袖を握り締めておくので精一杯で
  した。

  「そうか・・・じゃぁ、しゃぁないな。ちょっとツラ、貸してもらおか」

  と、武雄君の腕を引っ張ろうとするリーダー。必死で抵抗する武雄君。こうな
  ったら武雄君に頑張ってもらうしかないのかしら・・・でも、恐い。

  「離せって。おまえの部下の教育が悪いんだろ?こっちのせいにするなよ」
  「ほう、いうてくれるやないか。その続きはウラで聞かせてもらうことにする
  わ。行くぞ」

  リーダーはあごで部下に命令するとさっきの3人組が出てきて武雄君を腕ずく
  で連れていこうとします。必死で抵抗する武雄君。

  「コラァ!こいつ、なめとんのか。ここでシメられたいらしいのう。構わん、
  やるか」
  「やりますか」
  「オイッス」
  「はい」

  3人(+リーダ)が構えた時、その後ろから声が。

  「あんたたち止めなさいよ、ったく!」

  4人組は後ろを一斉に振り向く。わたしも声のほうを見る。すると・・・そこ
  にいたのは、わたしと同じくらいの年の高校生?しかも女の子?

  「や、綾香さん・・・」
  「『や』じゃないわよ。よそから来た人たちをシメて楽しいわけ?」
  「そ、そういわれましても・・・コイツからぶつかってきたので、ちょっとヤ
  キいれてやろうかと思っていたところでして・・・」

  必死でいいわけをするリーダー。

  「ぶつかってきたのは・・・!」

  武雄君が口を開いた時、

  「どうせ、あんたたちが勝手にぶつかってインネンつけたんでしょう?あんた
  たちの行動くらいお見通しなのよ。まったく頭のレベルが低いんだから、もう」
  「い、いや・・・面目ない」

  頭を下げているリーダー。どうもこの女の子はすごい娘なのかしら。こんなゴ
  ツイ男の人を従えてるなんて・・・綾香と呼ばれた娘がわたしたちの前に来ま
  した・・・え?どうなるのかしら?

  「ごめんなさい。コイツら頭悪いくせに態度だけはデカくて」

  え?なんかこの娘、謝ってるみたい。なんか、恐いのかと思ったけど、普通の
  女の娘みたいね。

  「あ、いや、それならそれでいいんです」

  武雄君もなんだかよくわからないまま返答してるみたい。

  「見たところ、地元の人間じゃなさそうでしたのでね。わたしたちは、部外者
  には手をだしませんので。コイツらには良く言って聞かせておきますので、勘
  弁してやってください」
  「え、いえ・・・わかりました」

  そういうと、綾香と言う娘はリーダーの頭を小突いて、

  「ほら、あんたも謝りなさいよ」

  といって頭を下げさせられてる。なんか笑っちゃいけないけど、滑稽かも。

  「では、わたしたちはこれで失礼しますね」

  そういうが早いか、足早に去っていく4人の男と1人の女の娘。

  見えなくなって、ため息をついた武雄君。

  「なんか・・・凄かったな」

  わたしとおんなじ感想を持ったみたいね。それはそうよね。あんな線の細そう
  な女の娘が大の男を従えてたんだもの。

  「とにかく無事で良かった・・・行こう」

  わたしは無意識のうちに武雄君の腕をつかむと引っ張るようにして歩いていき
  ます。その場にいたらまた何が起きるかわからなかったから。

             ☆              ☆              ☆              ☆

  その日は無事に終って・・・宿の布団の中で1人反省会。
  なんだか、すごく疲れた1日だったなぁ、と。でも、なんだかんだで武雄君も
  男の子だし、いうべきところはちゃんと言っていたもの・・・やっぱりカッコ
  いいって思いなおしちゃった。ふふっ。わたしって幸せものなのかしら。