<2nd_GRADE 第5章:August(1)> Shiori's EYE 『縁日』

  夏休みも中盤に差し掛かって暑い日々が続きます。あれから朝日奈さんも黙っ
  ててくれているみたいで一応学校の人達に私たちの関係はバレていないみたい
  ね。

  学校の宿題は早々に終らせてしまって、ゆっくり。武雄君と手分けしてやった
  のが勝因かもしれないわね。といっても武雄君、あんまりやってくれなかった
  けど。ふふっ。でもいいの。武雄君と一緒に勉強も出来たし。

  8月1週目の日曜日。毎年恒例の縁日があるの。一応毎月あることになってる
  んだけど、8月の縁日が一番大きいの。夜店が30〜50くらいあって、ちょ
  っとしたお祭り状態。毎月のやつは10〜20だから、その辺からも8月の縁
  日がどれだけ大きいかわかるわよね。

  今年は武雄君と一緒に行こう。

  Trrrrr・・・・

  「ハイ、高城です」
  「あっ、武雄君。詩織です」
  「おう、詩織か。どうした?」
  「え?う、うん・・・今度の日曜日空いてる?」
  「ああ、別にやることもないんだけど・・・どうしたんだ?ああ、そうか」
  「え?」

  なにが、『ああ、そうか』なのかしら。

  「『縁日』だろ?」
  「・・・」
  「8月の日曜日っていったらそれしかないだろう」
  「・・・」
  「あ、ごめん。話の腰を折ったな。ああ、もちろんいいぜ。行こう」
  「ホント?よかった・・・」

  じゃぁ、神社の前で夜6時に待ち合わせね。ということで待ち合わせ完了。久
  しぶりのデートね。ふふっ。頑張っちゃうぞ。

             ☆              ☆              ☆              ☆

  「武雄君、早いのね」

  TシャツとGパン姿で武雄君。後ろからでもすぐにわかる。やっぱり10年以
  上もいっしょにいるとどこからでも相手が見えるようになるものなのかしらね。

  「あ、詩織・・・」

  ・・・ドキドキ。武雄君、黙ってる。

  「い、いや・・・かわいいよ。浴衣姿。ビックリした」
  「ほ、本当?」
  「嘘ついてどうする?かわいいよ。いや浴衣だと思ってなかったから余計驚い
  たしかわいく見える」
  「・・・恥ずかしいな、そんなに『かわいい』って言われたら」

  でもすごく嬉しい。世界中の誰よりも武雄君に『かわいい』って言われるのが
  嬉しいな。

  「なんか俺、Tシャツなんかで来ちゃって釣り合いが取れないな。ごめん」

  そんなことないもん。わたしが好きで浴衣着てきただけだから。関係ないよ。
  それに、ほら。といって周りを指差して見ると、まわりには結構女の娘が浴衣
  を着て男の子はラフな格好をしているカップルが多い。というか男の子はあん
  まりこう言う時におしゃれしたりしないものね。

  「だから気にしなくてもいいよ。ね?」
  「あ、ああ、そうだな」

  なにしようか、武雄君。いろんなお店があるね。毎年思うんだけど、すごくい
  っぱいありすぎて困っちゃうの。とりあえず適当に見て回ろうと言うことで、
  入り口付近からゆっくりと歩くことにしたの。ふふっ。いっしょにこんなとこ
  ろを歩いているなんて・・・嬉しいかも。でも・・・誰かに見つからないかし
  ら。こないだも朝日奈さんに見つかっちゃったしなぁ・・・

  「あ、詩織、金魚すくいだ」
  「ホント。懐かしいね」
  「やるか?」
  「え?いいよ・・・武雄君がやって。わたし、うしろで応援してるから」

  そっか、と言いながら武雄君は店のおじさんに100円を手渡すと、あの、薄
  い網をもらって、いざ。

  「頑張ってね、武雄君」

  金魚すくいに『頑張ってね』って言うのもおかしい気もしたけど、いいよね。
  気持ちだし。おう、と答える武雄君。

  「金魚すくいは子どものころ死ぬほど練習したしな。周りからは『金魚すくい
  の神様』って呼ばれてたくらいだし」
  「ほ、ホント?」
  「いや、ウソ」

  ・・・プッ。笑っちゃった。わたしの負けなのかしら?こういう時って。

  「それ、1匹目」

  すっと水の中に網を入れ金魚を救い出すまでに1秒とかからない動作。素早い。
  あながち『神様』ってのもウソじゃないのかもしれない。その証拠に、3匹の
  金魚がものの1分と立たない間に水槽からおわんの中へ。わたしには出来ない
  な。わたし、1匹も取れたことない。へたっぴだったし。

  「すごい、武雄君。もう3匹だよ」

  そうだろ?そうだろ?と言ったような顔を見せる武雄君。でもホントにすごい。
  今度はカメに挑戦するみたい。小さいミドリガメなんだけど・・・あんなもの
  取れるのかしら?慎重にタイミングを狙っているみたい・・・あっ!

  「ヤバ。失敗しちゃった。カッコ悪いなぁ」

  と言って頭をかく武雄君。

  「え?そんなことないよすごい。3匹も取れたんだもん。わたしだったら1匹
  も取れなかったよ、きっと」
  「へへっ、そうかな。ってことで。この金魚は詩織にプレゼントだ」
  「え?」
  「いや、男が金魚飼ってても仕方ないしな。俺だと思って大切に飼ってくれよ」

  武雄君から奇妙なプレゼント。金魚。大切に育てなきゃ。

  「うん。大切に育てるね」

  それからも結構長い時間いっしょに夜店を回っていたけど、さすがに夜も遅く
  なってきて、早く帰らないと怒られちゃう。

  「そろそろ帰るか?遅くなっちゃったけど」
  「う、うん・・・」

  本当は帰りたくないんだけど。もっと武雄君と一緒に遊んでいたいんだけど。
  でも、また次回もあるから・・・帰ろう。

  「帰りましょう、武雄君」

  帰り道、今日の縁日についてずっと語りながら帰ってきたの。あれはどうだっ
  た、これはどうだった、って。すごく楽しかった縁日になったわ。来年もまた、
  一緒に行けるといいな。日記にもそう書くことにしようっと。