<2nd_GRADE 第4章:July(4)> Takeo's EYE 『ドザ右ェ衛門の歌』 ふぅ・・・疲れた。 なんだか、疲れるなぁ。それほど泳いでないはずなのに、体がぐったりとして いる。どうもペースが合わない。まぁ最初に会ったときからわかっていたこと だけど。今日と言う日がすごく長く感じる・・・ 優美ちゃんは一人で遊んでいるようだ。水遊びから遠泳からいろいろとやらさ れた。もちろん、運動も嫌いなわけじゃないのだが、どうも自分のペースでや れないと非常に辛い。まぁもう少しの辛抱か。 ちょっと俺も散歩がてら歩いてみるか。 砂浜に寝そべっていた体を起こして岩場の方へ向かう。俺がいなくなったら優 美ちゃん怒るかなぁ。まぁいっか。そんなこと気にしていられるか。 岩場の方はさすがに誰もいない。波しぶきの音だけが聞こえてくる。人の声も 聞こえない。なんだかいい場所だなぁ。絵になる。あたり一面の海と岩。静と 動。コントラストがたまらなくいい・・・なんて言ったら俺も画家っぽく見え るかな。両手の親指と人差し指で四角形を作り構図を模索してみる。それこそ 画家っぽく見えるかもしれない。けど、おかしいかな、水着姿では滑稽以外の 何のもでもないだろうな。残念ながら。 その時だった。ホントに静かなスポットだと思っていたのだが・・・ 「キャッ!」 女の娘の悲鳴だった。声のするほうに駆け寄ると、女の娘が岩の間に足を挟ま れているようでバタバタしている。どうやら上の岩から滑ってきて挟まってし まったようだ。服を着ているところを見ると海水浴客ではないらしい。 「だ、大丈夫?」 「It's NOT OK. 大丈夫じゃないわ」 「そ、そりゃぁそうだよな。ちょっと待ってな。そっちいくから」 「Be Careful. 気をつけてね。あなたも私と同じようにならないように」 「・・・そんなドジに見えるか?」 「・・・失礼ねぇ」 そんな会話を交わしながら彼女の方へ近づく。確かに危なっかしい場所だ。な んでこんなところに? 「ほら、足はずせる?」 「OK. 大丈夫そうよ」 ・・・岩と数分間格闘したのち、彼女は救出された。というか救出したのは俺 なんだが。 「Thanks a lot! 本当にありがとう。おかげであそこで餓死せずに済んだわ」 「・・・」 正直な感想、面白い娘だ、と思った。 「で?君はなぜこんなところへ?」 「あれよ」 彼女の指差した先には・・・キャンバス。筆、パレット・・・絵を描いていた のか。 「そう。わたし、きらめき高校2年D組片桐彩子よろしくね」 「あ、俺、高城武雄。実は俺2−Cなんだよ」 あっ!と声を出す片桐さん。どうしたんだ? 「そう言えば、見たことあるわ。きらめき高校の有名人よね、あなた」 「え?なんで?」 「たしか去年の学園祭の時の演劇で・・・そうGreatだったわ」 あ・・・見られてたんだ。そんなに有名人なのか?俺は。 「絵はよく描くの?」 「もちろんよ。美術部ですもの」 「そっか。今回のテーマは『海』なんだね」 「そう!HugeOcean.広い海。それを表現するのが私の使命なの」 と言うことを話しつつ時間はすぎていった・・・すっかりアノコトも忘れて・ ・・。思い出させたのはこの一言だった。 「ところで高城君は誰かと来てるんじゃないの?まさか一人で黙々とTraning ってわけじゃないわよね?」 ・・・あっ!俺は一瞬血の気が引いた。随分こうしている気がする。怒ってる だろうなぁ。早く戻らないとなに言われるかわからない。 「ごめん。戻らないと。また学校が始まったら会おう!」 そういうと駆けるように砂浜の方へ戻っていった。 幸い、優美ちゃんはまだ戻ってきていなかった。ずっといたフリして俺は砂浜 に寝そべると目を閉じた。その時。 「おわっ!」 頬に冷たいものが。ビックリして飛び起きると目の前には優美ちゃんが頬を膨 らませて立っていた・・・やっぱり戻ってたのか。まずいなぁ。 「せーんーぱーいー?どーこーいってたんですかぁー」 「いや、悪い悪い。ちょっと岩場の方へ行ったら長居しちゃって。本当にごめ ん」 手を合わせて謝る。 「優美の知らないうちに帰っちゃったのかと思って心配したんですからっ。今 度からはちゃんとどこへ行くか言ってからにしてくださいね」 ・・・って今度があるのか?今度が。・・・気が滅入る。 「ほら、先輩。第2弾ですよっ。遊ぶんだからっ」 ☆ ☆ ☆ ☆ 結局開放されてうちに帰ってきたのは夕方をすぎたころ。もう体がくたくたに なっていたのは言うまでもない。遊びに行った、というか、デートしたと言う か・・・お守をしに行ったというのが正しいところのような気がしてきた。 しかし気になるのは「また遊びましょう」って言われなかったことだ。今度は どんな手で来るのか、気になるところだ。というか、どんな手でこられても、 もう断るぞ。ダメだ。付き合ってたら体が持たん。好雄のヤツ、毎日あんな感 じで付き合わされているのだろうか・・・だとしたらヤツはものすごい忍耐力 の持ち主なのかもしれない。今度ばかりはお前に同情するよ、好雄。 そんなことを考えながらも、体は正直らしくすぐに眠りに落ちてしまっていた。