<2nd_GRADE 第4章:July(1)> Yumi's EYE 『でえとっ』

  そわそわ。そわそわ。どうしよ、どうしよ。やっぱりやめよっかな。そんな勇
  気ないよ。でも、ここで勇気を出さなくてどうする、優美。そうだ。えいっ、
  って電話しちゃえばいいんだ。そうだ。簡単じゃない。優美の辞書に不可能は
  なーい。

  ○△×−△△△−×○×・・・っと。あってるよね。お兄ちゃんの手帳無断借
  用しちゃった。お兄ちゃんの手帳、情報だらけだから重宝するんだよね。文句
  言われたら、プロレス技で応酬するんだー。

  「はい、高城です」
  「あ、あ、あの・・・こちら、き、きらめき高校の・・・」
  「ただいま留守にしています。発信音の後にお名前とご用件を・・・」

  ガチャン!

  んもう!だれが留守電と会話したいなんて言ったのよー。挨拶しちゃうところ
  だったじゃないの。

  はあ・・・

  ベッドに横になっちゃえ。・・・がっかり。せっかく先輩のところに電話した
  のにでやしないし、留守電と間違えて会話しちゃうし。最低ー。

  ピロピロピロ・・・ピロピロピロ

  あ、電話なってる。お兄ちゃん、めったに出てくれないからあたしがでないと。
  ・・・と思ったら、お兄ちゃん珍しく出てるじゃない。出るなら出るって言っ
  てよね。

  「あ?おう、武雄か。どうしたんだ?」

  え?高城先輩?

  「ん?いや。俺は掛けてないぜ。うん、5分前くらいだろ?ああ、掛けてない。
  誰なんだろうな」

  えっ、もしかしてあたしじゃない。

  バタバタバタ・・・ちょっと貸してっ!

  「も、もしもし」
  「は?」
  「あ、あの・・・優美です」
  「あ、ああ、好雄の妹さんか」
  「は、はいっ。さっき電話したの、私なんです。済みません」
  「え?優美ちゃんなのか。電話してくれたのって」
  「そ、そうなんです・・・ごめんなさい。勝手に掛けたりして・・・でも、ど
  うしてうちから電話したって気がついたんですか?」
  「ああ、うちは『ナンバーディスプレイ』だからね。かかってきた相手の電話
  番号が出るんだよ」
  「宝くじかなにかですか?」
  「おいおい、それは『ナンバーズ』だろ?」
  「えっ、あ、そ、そうですね。ふぅん。優美が電話したことバレてたんですね」
  「そういうこと。てっきり好雄かと思って掛けてみたんだけど、まさか優美ち
  ゃんだとは思わなかったよ。で?なにか俺に用事なの?」
  「え?う、うん。そうなんだけど・・・ちょっと待っててくださいね」

  んもう!お兄ちゃん!どっか行っててよっ!思いっ切り聞き耳を立てているお
  兄ちゃんのすねを蹴ってあげる。うめきながらお兄ちゃん、部屋に閉じこもっ
  ちゃった。これで邪魔ものはなし・・・っと。

  「あ、ごめんなさい。待たせちゃった」
  「い、いや、いいんだけど。好雄、なんかうめいてた感じだったけど・・・」
  「あ、気にしないでください。いつものことですから」
  「・・・」

  し、深呼吸深呼吸。頑張らなきゃ。優美。さ、はっきり言わなきゃ。

  「あ、あの・・・高城先輩?」
  「ん?」
  「こ、こんど・・・」
  「今度?」
  「あたしとデートしてくださいっ!」
  「え?」
  「いえ、別になんでもいいんです。そ、そうだ、う、海。海行きましょう。海
  はきれいだし。泳げますよ。ね?ね?」
  「い、いや・・・だって期末テストの前だぞ。優美ちゃんだってテスト勉強あ
  るだろう?」
  「あ、あ・・・そ、そうだった。じゃぁ期末テストが終った次の日曜日、海行
  きましょう。ね?優美、待ってますから!こなかったら針千本ですからね!そ
  れじゃぁ!」

  チン。

  ・・・ふぅ。ついに言っちゃった。高城先輩をでえとにさそっちゃった。ふん
  ふん。楽しみだなぁ。あと2週間後くらいだなぁ。どんな水着来て行こうかな
  ぁ。

  「で?武雄になんの用があったんだよ」

  お兄ちゃんだ、うるさいなぁ。優美のことは気にしなくていいの。しらないっ。
  無視しちゃえ。

  「優美ー。教えろ。なんでお前が武雄んところに電話する必要があるんだよ」
  「もう、うるさい。お兄ちゃんには関係ないでしょっ。優美のことに口出さな
  いで!」

  バタン。
  もうドア閉めちゃった。自分の部屋に閉じこもるしかないもんね。お兄ちゃん、
  さすがにここまでは入ってこないから。

  はぁ〜。高城先輩・・・楽しみだなぁ。・・・って思ったけど、とりあえずテ
  ストがあるんだっけ。先輩の言うとおり勉強しなきゃ。楽しみはそれからそれ
  から。