<2nd_GRADE 第3章:June(1)> Takeo's EYE 『体育祭』 6月。祭日もなく、学校に行きっぱなしみたいだ。どうも体がだるくなってく る。そんな生徒達に渇をいれるのが、「体育祭」だ。 体育祭は全学年で紅白に分かれ各競技を点数制で争い、勝敗を決める。勝った からといって、なにがあるわけでもない。しかし、これが燃える。不思議と熱 くなってくるのだ。 小さいころ、鬼ごっことかで、最初は軽い気持ちでやっているのに最後の方に なると本気になってくることが多い。それに似た感覚。人間の闘争本能とでも いうのだろうか、そんなものが湧き上がってくるのだ。 なんて、哲学的なことは置いておいてだ。要するに、友達どうしで勝負するの で盛り上がる、ってことなんだろうな。賭けをするわけでもないが、ゲーム感 覚ってのがポイントなんだろう、きっと。 そして体育祭のもうひとつのメインイベント、それが「フォークダンス」だ。 小学校のころとか、恥ずかしがりながら踊った記憶しかないが、この高校では ものすごく重要な意味を持っている・・・らしい。 男にはわからない。しかし、ウワサで聞いたところによると、「フォークダン スで好きな男と一緒に踊れると結ばれる可能性が高い」ということらしい。さ らにいうと毎年踊れるとそれだけ確率が上がるとかあがらないとか。男にはま るで興味ないようなことだが、結構女子連中は本気になっているようだ。体育 祭前にもなると順番決めなどわけのわからんことを始める。踊るための輪の順 番は全く決まっていないので、ある程度までは作為的に順番を決めることが可 能なのだ。よって、女子連中は意中の男のいそうなところを陣取って・・・な どと談合しているようだ。 好雄や俺にいわせれば・・・、というか言うことばもない。まぁその段取りを 見ているのが面白いという話もあるので、そのままやらせておこう。 去年は・・・確か詩織と、全然知らない子2人、3人と踊った気がする。今年 はどうなることやら。 今日はその体育祭の当日。 順番にそつなくメニューがこなされていく。俺の出番は・・・棒倒し。といっ ても、もう終ってしまったし、一応勝ったからいいものの・・・って、どうで もいいか。つかれたよ。 そうだ、棒倒しに、好雄も出てたんだよな。それで、攻めに行くついでに殴っ てやった。といったって不可抗力だから仕方ないんだけどな。たまたま手を出 したらあいつの顔があったってだけで。でも、その場にうずくまってたな。大 丈夫だったんだろうか。 「ひ、ひでえよ、武雄」 あ、その声は・・・ 振り向くとほおをパンパンに張らせた好雄の姿があった。その姿を見てひとし きり笑ってしまった。 「あっはっはっはっは、わ、悪い悪い。悪気はなかったんだって」 「そりゃ、そうかもしんないけど・・・親友の顔を殴るなんて・・・いったた た。ホント、きつかったんだからな」 「悪かったよ。運が悪かったと思ってくれ」 「・・・」 好雄も当然そんなことはわかってるので、文句も言わずに座る。 「のどかだな・・・」 好雄がポツリと。 「そうだな・・・」 俺もポツリと。 あ、もうすぐフォークダンスの時間だ。お約束の「オクラホマミキサー」がか かる。まぁ早く終わって帰りたいところだ。 「あっ!」 ふと顔をあわせると・・・詩織だった。ふぅん。こんな偶然もあるもんだな。 いや、偶然ではなくて必然なのかもしれないけど。俺の前で踊っている好雄が ニコニコ顔でこちらを見る 「(やった、藤崎さんとおどれるぜ!)」 そんな顔つきだ。詩織と踊れるのは嬉しいが、好雄と躍らせるのはイヤだなぁ。 そんなこと言っても仕方がないか。 「う、うれしいな」 小声で、俺にしか聞こえないようにささやく。そうだね、去年も踊ったしね、 とささやき返す。詩織はご機嫌だ。どうやら作為的なものではなく、偶然だっ たみたいだ。 次は・・・げ、朝日奈。 「はぁい。相変わらずいちゃいちゃしてるのねぇ」 「うるさいぞ。黙ってろって言っただろ!」 「もちろん、黙ってるわよ」 ほとんど信じていないけど、一応信じることにした。 次の娘は知らない娘だった。それより面白かったのが、好雄と朝日奈のケンカ だ。あいつら情報通だからいつも情報のやり取りをしてるんだけど、その際に よくケンカしてる。端で見てるとすごく面白いんだが、今やられるともっと面 白い。周りで踊っている全員の注目の的だ。 まぁ、アレでいて結構仲がいいんだからな。同業者だからかな。 そんなこんなで今年の体育祭も無事に終った。本当に無事だったのだろうか。 もちろん、帰りがけに、好雄にお詫びにおごってやったのは言うまでもない。 そばにいた詩織も満足げだし、とりあえずはよかった、といっていいだろう。 来年はどうなることやら・・・