<2nd_GRADE 第2章:May(5)> Mio's EYE 『電撃』 ゴールデンウイークも終り、当分祭日もない生活が始まりました。そろそろ体 育祭の季節ですね。今年も疲れてしまうのでしょうか・・・ 昼休み。みんな思い思いに過ごしています。お喋りをする人達。廊下で走りま わっている人達(本当はいけないんですよ、そういうことは)、机に伏せって 寝ている人達・・・そして本を読んでいる人達。 私は、最後の部類に入ります。今日もお気に入りのゲーテの詩集。何度読んで も飽きないものは飽きませんね。名作とはそういうものなのでしょうか。 「ふぅ・・・」 背伸びをしながら息を吐きます。読み終わった時に背伸びをするとすべてが終 って、その本の作者の言いたいことが体の中に染み入るような感覚になります。 その瞬間が私の一番のお気に入り。その作者と、少しでも立場や気持ちを共有 できるって、すばらしいことだと思いませんか? ゴールデンウィークはずっとうちでおとなしくしていました。気温も高かった し特に用事もなかったので、図書館と自宅の往復です。いっぱい本を借りてき てしまったので読むのに大変でした。夜も寝ないで読んだ時もあったりして、 おかげで今日はちょっと眠いです。幸いちょっと予鈴までは時間がありますの で私も少しお昼寝しましょうか。 「・・・さん」 「・・・ぎさん」 「・・・?」 「・さらぎさん?」 ん、んん。誰かが私を呼んでいる? 「如月さん?、如月さんってば!」 まだちょっと頭がぼうっとしています。声を掛けてきた人を見ると・・・あ、 あなたは・・・ 「えっと、朝日奈さん、でしたっけ?こんにちは」 「あ、うん。ってそんなこと言ってる場合じゃないよ!ビッグニュースなんだ から」 「ビッグニュースですか?」 確かに朝日奈さん、ちょっと慌て気味です。まぁいつものようだと言えばいつ ものようなのですけれども。 「そうよ。超ビッグニュース。まだ誰にも話していないんだ」 朝日奈さん、嬉しそうです。 「で、どんなニュースなんですか?」 朝日奈さんはチッチッチッと指を横に振ると、 「こんなところじゃ話せないわよ。『壁に目あり障子にも目あり』ってね」 「・・・」 訂正しようかと思いましたが、それどころではなさそうですので辞めておきま した。 「放課後、『ときめ後』で話そうよ。ね?時間はある?」 「え、ええ、大丈夫ですけど」 「『ときめ後』の場所も知ってるよね?じゃぁ現地集合ってことで、それじゃ ね!」 言うが早いか、ピュー、と言うことばが似合うスピードで去っていきました。 放課後、ときめ後、ビッグニュース・・・気になります。それほど人に話せな いようなニュースなのでしょうか。それをなぜ私に?謎は深まります。 放課後。掃除当番だったので急いで掃除をして、ときめきの午後へ向かいます。 朝日奈さん、まだいるでしょうか。授業が終ってから30分強経ってしまいま した。 カラン、コロン、カラン、コロン ドアを開けると、一面に見知った制服。きらめき高校の制服の子、しかも女の 子しかいません。うわさには聞いていましたがこんなに賑わってるとは思いも しませんでした。もちろん、私はここにくるのは始めてです。いえ、来たこと はありますけど放課後に寄り道したことはありません。いや、あったかもしれ ませんけど・・・1回あるかないかですね。 カウンターそばの2人席からしきりに手を振っている朝日奈さんを見つけまし た。よかった。待っていてくれたんですね。 席に小走りに掛けよって、 「すみません、掃除当番だったので」 「え?気にしない気にしない、あたしなんか毎日遅刻よ」 「・・・」 返すことばが見つかりません。朝日奈さんと話すとペースが崩れてしまいます。 イヤじゃないのですが・・・ 「まぁ堅い事はぬきにして、座って座って。ほらほら。なにボケっとつったっ てんの?」 「え、あ、ああ・・・はい・・・」 いわれるがままに座る私。なんだかやっぱりペースが狂ってしまいますね。 「あ、キリマンジャロください」 ちょうど通りかかった男性の店員、恐らくはここのマスターでしょうか、に注 文を済ませると、朝日奈さんは我慢できないかのように話し始めました。 「で、今日呼んだのは他でもないのよ。こないだから調査を依頼していた件。 覚えてるわよね?」 「え!?調査?あ、ああ・・・あのことですか」 思い出すのに時間がかかってしまいました。もちろん忘れるはずはないのです が、なんだか変な力が私にかかっているかのように思考能力が鈍っています。 「そう、詩織のことよ。詩織ったらあたしよりも先にカレシ作っちゃったじゃ ない。それの調査よ」 「で、なにか進展があったってことですね?」 机をトントンと叩きながらこちらに顔を乗り出してくる朝日奈さん、びっくり しました。 「そう。進展があったのよ。というか調査は終了ね、もう」 「え?どういうことですか?」 「もう調査の必要もないってことよ」 調査の必要がない・・・ 「鈍いわねぇ。もう相手もわかったから調べる必要がなくなったってこと!」 え?藤崎さんのお付き合いしている相手がわかったってことですか?私は呆然 としていた・・・ようです。 「そうなの。これは絶対に内緒よ。詩織に『絶対に内緒ね』っていわれてるん だから。心して聞いてよね」 「は、はい・・・」 ゴックン。藤崎さんとお付き合いしている人・・・気になりますね。やはり。 注文してすぐに来たキリマンジャロを飲みながら朝日奈さんの次のことばを待 ちます。 「それが・・・『高城君』なのよ!まぁ私としては予想通りだけどね!」 「・・・・・・」 「偶然、水族館の優待ショーで詩織と高城君がデートしているところを見つけ ちゃったのよね。問い詰めて見たら・・・案の定だったわ。んもう。あたしに 内緒でカレシ作るなんてぇ〜」 「・・・・・・」 「き、きさら・・・ぎさん?」 はっ、私、ちょっとボーっとしていましたか。あまりに唐突だったので、声も 出ませんでした。 「あ、は、はい。だ、大丈夫です」 「んもう、一番いいところを聞いてなかったのぉ?」 「い、いえ、聞いていましたよ。藤崎さんと高城さんがお付き合いしているっ てことですよね?」 朝日奈さんはあっけらかんとした顔でこちらを見ています。やがて気を持ち直 したようでいつもの顔に戻っていました。 「え?そ、そうなんだけど・・・どう?このビッグニュースは」 「ええ、ビッグニュースなんですね。でも・・・」 「で?でも?」 不思議そうに私のことを見ています。でも、藤崎さんと高城さんがお付き合い するのは至極当然のことのように思えるのですが・・・幼なじみでもあるわけ ですし。私の考え方、間違っているのでしょうか。 「いや、間違ってはいないと思うけどぉ〜、ほら、あたしたち、まだ1年生だ し、付き合ったりする人っていないじゃない・・・」 確かにそういわれてみればそうですね。そういう意味ではビッグニュースかも しれませんね。 「へ?(調子狂っちゃうなぁ・・・ブツブツ)」 「なにかいいました?」 「う、ううん、なんでもない。こっちの話」 「お話はこれでおしまいでしょうか?」 「そ、そうだけど・・・」 「では、そろそろおいとましますね。ビッグニュース、ありがとうございまし た。これで、例の調査の報告もおしまいですね?」 「そ、そうね。でも、これは内緒よ!」 「もちろん、口外なんかしません。それでは失礼しますね」 コーヒー代を置いて早々に立ち去りました。ちょっと失礼すぎたでしょうか? 最後まで付き合わずに私だけすぐに出てきてしまったことは。 「ただいま」 自宅に帰り、自分の部屋へ。もう夕方。制服のままベッドへ倒れこみます。い つもなら着替えて、スウエットで寝転ぶのですが・・・今日はなんか気疲れし てしまいました。 夜。ベッド。睡眠前。 今日一日のことを思い出します。朝日奈さんからのビッグニュース。藤崎さん と高城さんがお付き合いしているという情報・・・情報自体は特に驚くような ことでもないと思っているのは、私だけなのでしょうか?これが高校中に知れ 渡ったらやはりビッグニュースになるのでしょうか?きっと、そうなのでしょ う。だからこそ朝日奈さんが私にビッグニュースだと言って教えてくれたので しょうから。 私の感覚、やはり少しおかしいのでしょうか・・・普通の女の子ならビッグニ ュースだと思ってドキドキしたりするものなのでしょうか・・・私にはわかり ません。ただいえることは、藤崎さんと高城さんに幸せになって欲しい、そう 思うだけです。