<2nd_GRADE 第1章:April(1)> Takeo's EYE 『It's New Life』 朝。今日から新学年。いつもより早めに支度を終わらせた。別に意味なんかな いけど。なんだか楽しい。1年生はなにかと面倒なことが多いからな。2年に なったら楽になる。部活にせよ、勉強にせよ。慣れて来るのもあるしな。 そんなこんなでうきうきしているのかもしれない。 ・・・あれからというもの、毎日詩織と朝はいっしょに学校へ行っている。別 に怪しまれることもない。だって、もともと幼なじみだし家もそばにある。一 緒に行かない方がおかしい環境だ。・・・とはいえ、いつも俺が寝坊して詩織 が毎朝起こしに来る・・・そんな関係が続いていた。 しかし!今日は違うぞ。俺様が詩織のところへ迎えに行ってやるんだ。ふふっ、 詩織、驚くぞ。起こしに来る時間の5分前くらいに行けば詩織も用意ができて るだろうからな。それくらいに行くか。 よし、準備万端。いざ。 俺は詩織のうちに向かって歩き始めるべくドアを開ける・・・と。 「きゃっ」 ドアの向こうで女の娘の小さな悲鳴が聞こえた。ドア越しに見てみると・・・ 「なんだ、詩織かぁ」 「びっくりした。いきなりドアが開くんだもの」 「おう、悪い悪い・・・ってそれより詩織、なんで今日は早いんだ?」 「え?聞いてなかったの?武雄君。今日は全体朝礼があるから5分早く開始だ って言ってたじゃない」 「え?」 「・・・聞いてなかったんだ。もう、しょうがないなぁ」 「そうだったのか・・・」 なんだか年度始めからガッカリだ。気勢をそがれるってのはこういうのをいう んだろうな。 「それはそうと武雄君、今日はどうしてこんなに早いの?5分早いことを知ら なかったのに」 ・・・恥ずかしくて言えない。 「ま、まぁな。いろいろとあってだな・・・」 「ふふっ、変な武雄君・・・あらかた、早めにわたしを迎えに来て驚かせよう って魂胆だったんでしょ?」 ギクッ。 「・・・」 「今度は平日にでも挑戦してみてね、た・け・お君」 ・・・全部お見通しか。さすが伊達に10年来の付き合いじゃないよな。俺は 観念して白状する。めちゃめちゃ恥ずかしいじゃないか。 「あ、急がないと。こんなところで立ち話してる場合じゃないよ」 「おう、そ、そうだな。行くか」 ・・・といいながらも普段と同じペースで登校するところがミソだな。まぁそ れでも十分間に合うくらいの時間に家を出てるからな。つわものになると週3、 4日遅刻なんて奴もいるらしいからな。すごいよな。しかも、そいつ曰く 「月1回とかのペースで怒られるだけで毎日遅刻できるんだから安いもんじゃ ん」 とのたまわれたそうな。末恐ろしい逸材だな。 2年生になるといってもいつもと同じ。通学経路が変わるわけでもなく。いつ ものように歩いていくだけ。今までと違うことは詩織が隣にいるということだ。 でも、実は今まで通りなのだ。俺と詩織はずっと同じ学校に通っていたし、昔 はいつも一緒に登校していたし帰宅していたのだから。中学2年のころからだ ろうか、詩織がうちに迎えにくることが減ってきた。3年にあがる頃には全く 別々に登校するようになっていた。でも、やっぱり不思議だ。それをなんとも 思わなかった。 「武雄君?」 不意に詩織が声をかける。詩織の方を見るとなんだか心配そうな顔をしている。 どうしたんだろう。 「どうしたの?なんかあったの?」 「え?」 「ううん、なんか考え事してる感じがしたから・・・」 やはり詩織は詩織だった。俺の考えてることを逐一見ぬいてる。まぁ、考え事 してるくらいならすぐにバレるか。 「いや・・・なんでもない」 「・・・」 「・・・」 詩織は黙ってこっちを見ている。しょうがないなぁ。 「悪かったよ。話すよ・・・」 素直に今の自分の考えていることを詩織に話した。突然一緒に登校しなくなっ たことから、なんだかんだで自分の考えていることを見ぬいてしまう詩織のこ とまで。すると詩織がふと微笑んだ。詩織の笑った顔は好きだ。こう、さわや かな笑顔。なんかクサいなぁ。でもそうなんだ。その笑顔があるから今こうし て詩織と一緒に歩いているんだ。そう思う。 「武雄君の考えてることなんか、お見通しよ」 「・・・ホントに?」 詩織はちょっと考えた(ように見えた)が、 「・・・うそ。わたし、武雄君のこと全部知っているようで多分ほとんど知ら ないかもしれない・・・」 「え?どういうこと?」 素直に疑問に思った。 「10年以上武雄君のそばにいるけど、武雄君のこと全部知っているわけじゃ ない。ただ、他の人よりちょっと武雄君に詳しいだけ。他の女の娘だってちょ っと努力すればすぐに追いついちゃうもの・・・」 そうか・・・そう言われてみればそうなのかもしれない。が、俺のこと考える ような酔狂なやつもいないだろう。 「そんなことわからない!」 詩織は強く訴えた。めったに声を強くしない分、詩織が感情を表すときはかな り本気な時なのだ。 「その酔狂な人がいつ現れるか分からないもん。だから・・・いつまでもそん な人現れないで欲しいし・・・ずっとわたしのことを見ていて欲しいし・・・」 そりゃそうだよな。俺は思う。でも、詩織のことをずっと見ている・・・そう 確約するにはあまりにも若すぎたかもしれない・・・そう思ったのは随分とあ とのことだが・・・ 「詩織のことをずっと見ているよ。ずっと・・・」 「うん。ずっとわたしのことを見ていてね。おねがい」 そして久しぶりに見る風景・・・きらめき高校、母校の正門が見えてきた。