<2nd_GRADE 第12章:March(3)> Takeo's EYE 『1年の終わりに』 明日から4月。3年生になる。寝る前にちょっと考えてみるか・・・ 3学期の進路相談もなんとか「大学にいくつもりです」と切り抜け一安心だ。 そして、もう3月。来年の今ごろには、大学生になっているのだろうか。少な くともこの高校を卒業していることだけは疑いようがない。2/3が過ぎてい ってしまったのか・・・高校生活の。 俺は高校生活に何を求めていたのだろう。というか、高校って何のためにある のだろうか。義務教育と最高学府の間にある中途半端な教育機関。みんな何の ために高校に通うのだろうか。 前にどこかのテレビで見たことがある。大学進学希望の高校生に「あなたはな ぜ高校に通うのですか?」という質問をしているのを。大抵の学生は「大学へ のステップ」と答えた。現状ではこう答えざるを得ないんだろう。俺でもきっ とそう答えるだろうから。 高校で学べることは他にもあるんだろう。クラブ活動などの楽しさは中学とは 比べ物にならないほどだし、友達付き合いも学区域が広いこともあっていろい ろためになる情報も得られる。 そう考えていくと高校って中学などよりよほど楽しいところなんじゃないか、 いろいろなことを学べる場所なんじゃないかという気がしてならない。 それはそうと。俺もあと1年で卒業してしまう。大学進学を決意したからには それなりの勉強もしなくてはいけないだろうし、大変だ。 2年生っていう学年は高校生活の中でも一番楽しい学年だと思う。1年生ほど 気持ちを張り詰めたりする必要もなく、3年生ほど受験に追われる必要もない。 そんな楽しい1年間になったであろうか?自問してみる。 楽しかったに決まってる。詩織と仲良くできているのがその証拠だろう・・・ それにしても朝日奈、まさかきらめき水族館(しかもオープン前だぞ)で顔を 合わせるとは思っても見なかったことだろう。よりによってあの朝日奈じゃな くてもいいじゃないか、と思ったが・・・ 奴は思った以上に口の堅い女みたいだ。いままで俺と詩織の仲がバレたりして いる雰囲気はない。人はみかけによらないなぁ、と思ってしまうが、本人に言 おうものなら、台風のように荒れ狂ってバラされるのがオチだろうから言わな いが。 トゥルルルルル・・・あ、電話だ。 「はい、高城ですが」 「あ、高城君?あたしよ、あ・た・し」 「『あたし』さんですか?失礼ながらそのような方は存じませんが・・・」 「んもう!アンタあたしのウワサしてたでしょう!」 お?そういえばこの声は・・・ 「あ、朝日奈か?」 「あたししかいないでしょう!こんなキレイな声してるのはっ」 ・・・しかし、なんでコイツうちの電話番号知ってるんだ? 「というか、だ。なんで俺が朝日奈のウワサしてるって分かったんだ?」 「え?ホントにウワサしてたの?しっつれいねー」 「・・・」 声も出ない。どうやら当てずっぽうで適当に言っただけらしいな。なんなんだ、 訳が分からん。 「で?わざわざかけてくるからには何か用なんだろ?」 「あ、そうそう。そうなのよ〜。明日から新学年じゃない?でもって、待ち構 えてるのが・・・」 「進路相談か」 「そうそう。んもう、あったまにくるわよね〜」 何が頭にくるんだろうなぁ。なんか勝手に電話かけてきてキレられても俺とし ては非常に困るぞ。 「で、どうするんだ?朝日奈は卒業してから」 「決めてない」 「えっ?」 「明日決める。なんかわかんないんだもん。大学とかいけば4年間遊べるかも しれないけど、ほら、あたしって頭悪いから大学受験しても受からないかもし れないから受けるだけ無駄、って気もするのよね」 「ほうほう」 そうだそうだ。毎日遅刻してりゃと内心思いつつ相槌を打つ。 「んで?なんで俺なわけ?」 「えっ?そりゃぁそうでしょう。アンタは私に重大な秘密を握られてるんだも のねぇ」 ギクッ!こ、コイツ俺が考えてたこと逐一お見通しなんじゃないかって気がし てきた。 「だから、俺にどうしろって言うんだよ。勉強ならお断りだぜ。俺だって厳し いんだから」 「いやぁねぇ。アンタに勉強なんか教えてもらったらそれこそバカになっちゃ うわ」 「・・・」 つくづくいやな女だなぁ。だから、どうすればいいんだよ、俺は。 「いやぁねぇ、エイプリルフールって奴よ」 「はぁ?」 「ちょっとからかってみただけ。それじゃぁね」 電話は切れた。朝日奈・・・許さん。結局何が言いたいのかさっぱり分からな いまま1日は過ぎていった。とにもかくにも明日から最後の1年。楽しい1年 間でありますように・・・