<第9-9章:December(9)> Shiori's EYE 誰もいない公園で1人物思いにふけろうかと思ったのに・・・先客がいるみた い。・・・ブランコを静かに動かしている・・・暗くてよく見えないけど、男 の人みたい。 どうしようかな?このままここにいるのもなんだか恐い気もするな・・・ でも、これだけは確かめておきたいの。うん。ちゃんと見てから帰ることにし よう。 わたしは、公園の隅にある樹の側によります。こんな夜に一人で公園の樹を見 に来る人なんて、他にいないよね。え?なぜ見に来たのかって?・・・それは ね・・・ ・・・いつの頃だったかしらね。わたしと武雄君が毎日のように遊んでいた時 の話。だから、幼稚園か小学校くらいの話かしら。5/5の端午の節句の日に この樹に傷をつけたの。といっても、別に悪気があったわけじゃないのよ。わ たしと武雄君の成長の記録。それを残しておきたかったの。その頃は武雄君と わたしはあんまり変わらない身長だったのに・・・いつの頃からか抜かされて、 随分と背が高くなっちゃったんだよね・・・ それ以前に、いつからここに来なくなったんだろう?いつから武雄君とここに 遊びに来なくなったんだろう。小さい時は毎日来て、砂遊びやすべり台で遊ん だのに・・・ わたしと武雄君の思い出の樹。わたしの身長も結構伸びたんだけど、武雄君に は程遠いわ。でも、この時は・・・ 膝をかがめて樹の下の方を見ると・・・あった。大きい幹に横に入ったちょっ とした傷。忘れもしないわ。だって、「たけお」「しおり」ってひらがなで書 いてあるんですもの。この頃は2,3cmしか違わなかったのね。 「!?」 だれか、いる。・・・わたしの後ろに・・・いや、もしかして・・・う、うそ? 恐い・・・ わたしは声を出そうとしたんだけど、喉が震えて声が出ないの。わたし・・・ どうすればいいの?恐いよ、武雄君・・・武雄君! わたしはありったけの声を出してみました 「たけおっ・・・」 そういった瞬間、わたしは口を抑えられてしまった!えっ?えっ!? 「おいおい、俺だよ。あんまり大きい声出すなよ。近所に響くじゃないか」 え?その声は・・・抑えられた手が離され・・・恐る恐る後ろを向くと・・・ 「た、武雄君!?」 「たけおくん!?じゃないぜ。どうして、こんな夜更けに公園なんかにいるの さ。世の中物騒なんだぞ」 「え?え?・・・」 安堵感からなのか、よく分からないの。わたし、声を失ってしまったかのよう にその場にへたり込んでしまったわ。 「・・・びっくりしたんだもん」 そう答えるのが精一杯。 「そうか・・・で、なんでこんな時間に詩織は公園なんかにいるのさ」 「え・・・た、武雄君だっていたじゃないの」 「俺がいるのと詩織がいるのとでは全然違うだろう?女の子がこんな時間に公 園でぶらぶらしてるなんて、おかしいぞ。どうかしたのか?」 ・・・そうよね。こんな時間に公園に来る女の子なんていないよね。でも、わ たしは武雄君のことを考えるためにここにきたのよ。分かってくれないのかな ぁ。 「うん・・・ちょっと考え事したかったから・・・」 だいぶ落ち着いてきたみたい。心臓がドキドキいってたのに、いまではそんな でもないみたいね。やっと、頭が働き始めたって感じかしら。 「考え事なら家ですればいいじゃないか」 「それはそうだけど・・・でもね、公園にきたかったの」 「この樹を見に・・・か?」 「え、う、うん・・・」 しばしの沈黙。 「そういや、いつ頃の話だったかな。これ」 そういうと武雄君も膝をかがめてまだわたしたちが小さかった頃の思い出に触 れました。「たけお」「しおり」・・・ 「いつからだろうな、この公園で遊ばなくなったのは。それまでは毎日のよう に遊びに来てたのにな・・・いつからだろう」 武雄君は感慨深げに空を見上げます。空は待ってましたといわんばかりの満天 の星空をわたしたちにプレゼントしてくれました。 「きれい・・・」 「この街でこんなに奇麗な星空を見られるとは思わなかったな」 「でだ。何を考えに来たんだ?」 ふと、話を戻す武雄君。もう、せっかく良いムードだったのに。本当のこと・ ・・話しちゃうぞ。 「な・い・しょ」 「おいおい、今まで引っ張っといてそれはないだろう?」 「じゃぁ、武雄君はどうしてここにいるの?何をしにきたの?」 一瞬、武雄君がひるんだのをわたしは見逃さなかったわ。 「・・・考え事だよ」 「何の?」 「いろいろと・・・さ」 「いろいろって何?」 「いろいろったらいろいろだ」 「それじゃぁ、あたしも教えられないな」 ウソ。本当は自分の気持ち、言いたくてたまらないくせに。 またしばしの沈黙。ふうっとため息をついた武雄君が一言こう言ったの。 「詩織は好きな人、いるか?」 「え・・・え・・・?」 「この人と一緒にいたいとか、守ってあげたい・・・とか、そう言う人はいる かい?」 え?な、なに?いきなりそんな話をされても・・・わたし、どう答えたらいい の? ・・・メグが言ってくれたっけ。時には積極的にならないとダメだって。 「いる・・・よ」 「そうか・・・その人は自分が好きだってことを知ってる?」 「・・・ううん」 「そう・・・じゃぁどうしたら相手が自分に振り向いてくれるか考えたこと、 ある?」 「・・・ないかもしれないね。だってその相手は好きな人がいるもの」 「そうなのか・・・・」 「それに、その相手の好きな人は、わたしの友達なの」 どこまで言えば分かってくれるのよ・・・ 「友達関係を取るか、自分の幸せを取るかなんだな」 「その友達もわたしの好きな人に好かれてるってこと気づいてないみたい。う うん気づいてるのかもしれないけど・・・」 「詩織は告白しないの?その好きな人に」 「え?だって・・・ちょっと恥かしいし。それに、悲しい返事が返ってきたら と思ったら・・・」 武雄君はわたしの気持ち、分かっているのかしら。 ・・・そう思っていると、突然こんなことを言いました。 「告白すればいいじゃん」 「え?」 「だって詩織は好きなんだろ?黙ってたってそいつは詩織がそいつのこと好き だってことが分からないんだから。だめでもともとじゃないか。いっそのこと 言ってしまえばいいんだよ。なに、悲しい返事が返ってきたからってくじける ことなんてないさ、詩織はこれでも結構人気あるんだぜ?ちょっと探せばすぐ にお気に入りのボーイフレンドが見つかるさ」 ・・・!どうして?どうしてそんなことが言えるの? わたしのこと分かってないじゃない。わたしはあなたのことが好きなのよ。ち ょっとくらいは分かってくれてもいいのに・・・ 「それに・・・」 「?」 「詩織のお願いを断るような奴は俺が許さないよ。もっとも、断る奴なんてい ないだろうけどね」 「そうかなぁ」 「そうだよ。詩織はなんてったって学園のアイドルなんだからさ」 「そんなことないよ」 「そんなことあるさ・・・ホントに詩織って奴は分からないよな。」 「どうして?」 「いつもはどっちかって言うと気が強そうな面の方が強いのにいざとなると結 構弱い面もあったりするからな」 そ、そういわれてみるとそうかもしれないわね。わたしって結構はっきりして る性格のつもりなんだけど・・・いざという時には出来ないの。本番に弱い、 とか言うわけでもないんだけど・・・そうね、弱気な面を持っているって言え ば良いのかしら。でも、でも・・・ 「そう言われてみるとそうなのかもしれないね」 わたし、どうしたらいいの?