<第9-8章:December(8)> Mio's EYE

  ふぅっ。やっと帰ってきました。

  小走りで帰ってきたにもかかわらず、体は結構冷え切ってますね。すぐにお風
  呂に入って暖まらないと風邪を引いてしまいそうです。

  家のお風呂は24時間沸きっぱなしのお風呂。太陽発電で供給しているので電
  気代の心肺はないらしいです。

  自分の部屋に帰る間もなく、お風呂に直行します。
  「未緒〜、帰ってきたら『ただいま』くらいいいなさいっ」
  お母さんですね。小さい頃からしつけが厳しくてちょっとしたことでも怒られ
  てしまいます。でも、それは他でもない自分のためなんですよね。お母さんが
  怒るのは、別にお母さんのためではなく、わたし自身の身を案じて怒ってくれ
  るのですから。文句を言う筋合いなどはまったくないのです。

  「ごめんなさい。急いでたから・・・『ただいまぁ』」
  「それでいいのよ。急いでるからって挨拶をかかしちゃだめ。家庭内でしっか
  りしておかなくては、実際に社会に出た時に困るのはあなた自身なんだから」

  セリフまでいつもと同じ。でも、別に冷たさは感じないです。逆に一本調子で
  もそれだけ私のことを考えていてくれるお母さんには感謝していますしね。

  「お風呂、はいります」
  「そうね。風邪ひかないように、温かくして入りなさいよ」
  「はい」
  「そうそう、上がったら居間の方に来て。今日の報告を聞かせてね」

  お母さんは私とは違っていろいろな話を聞きたがるタイプなのです。私が伊集
  院さんのパーティーに行くと言った時にも
  「いいけど、あとで、どんなことしたか教えなさいね」って。

  なんだか、そういうところは子どもといっしょなんです。
  なんて、自分もまだ子どもなのにおかしいですね。

  冷え切った体を暖めてくれる熱いお湯。私は湯船に入ってまた考え事。どうし
  てもお風呂に入ると考え事をしてしまうようですね。それだけゆっくりできる
  空間だと言うことなのでしょうか。

  (きょうはいろいろなことがありましたね)

  誰に語り掛けるでもなし、そう、自分に語り掛けるのが好き。自分を問い詰め
  たり、励ましたり、慰めたり、時には戒めたり。自分で考え事をしている時に
  は常に自問自答しています。

  (しかし、疲れました・・・パーティーと言うからそんなに大人数だとは思っ
  ていなかったのですが・・・)

  (やぱり伊集院さんの家は大きいのですね)

  (そういえば、玄関にいた犬、かわいかったですね)

  (あっ、高城君・・・ふふっ)

  高城君のことを考えたところで思考停止。だって、おかしいんですもの。伊集
  院さんのパーティーにそんなに出たかったのかしら?まぁ、おいしいものも出
  るし、確かに楽しかったですけどね。やっぱり、誰か話し相手がいないとだめ
  ですね。高城君は途中ちょっとだけ話してくれたけど、やっぱり一人では寂し
  いです。来年も誘ってもらえるのでしょうか。

  そんなことを考えているあいだに冷えた体も温まってきます。
  あ、今日のことをお母さんに報告するんでしたね。早く上がらないと。お母さ
  ん、結構楽しみにしていますからね。


  案の定、お母さんはこたつに入ってTVを見ていました。私が居間に入ったと
  たんに、「ほら、早く報告なさい」
  やっぱり楽しみにしてますね、お母さん。あんまり話せることはないんですけ
  ど・・・

  「面白いのね、その高城君って子」
  「うん、結構クラスでも評判がいいの」
  「ふうん。あら、そういえば未緒と同じクラブじゃなかったの?」
  「えっ、う、うん。そうだけど」
  「ふぅ・・・ん」
  「なに?そんな顔して」
  「いいえ、何でもないわよ」

  報告した後のお母さんはなんかよく分かりません。ニヤニヤしてこちらを見て
  いるけど。

  今年も残すところあと数日です。