<第9-7章:December(7)> View パーティー会場。 騒がしい声もだんだんと収まってくる。もうすぐおしまいらしい。 レイの先導でプレゼント交換が行われている。みんなで順番にクジを引いて他 の人の持ってきたプレゼントを持ち帰るのである。 無事に終わると解散。 パーティーに集まった人々はぞろぞろと帰宅の途に就く。友達どうしで、ある いは恋人どうしで。未緒は・・・? 未緒は一人だった。行きも一人だったのだから当然といえば当然だろう。 (ふう。ちょっと疲れましたね) と思いながらため息。伊集院家の建物を出たとたん、夜風が肌に染みる。 「寒い。なんだか、雪が降りそうな、そんな夜ですね・・・星が奇麗・・・」 と感慨にふけっていたのも束の間、腕時計を見てハッとなる。 「あっ!もうこんな時間!早く帰らないとお母さんに叱られてしまう」 走るのはちょっと体に辛いので気持ちはやあしで帰宅の途に就いた未緒だった。 さて、詩織の方はどうなったのだろう? 「じゃぁ、帰ろうか、メグ」 「う、うん・・・」 「どうしたの?」 「あ、あのね詩織ちゃん・・・玄関でちょっと寄ってもいい?」 「いいけど・・・あぁっそういうことねぇ」 「えっ、わかっちゃったの?」 「分かるわよ。メグと何年付き合ってるの?」 「そう言われてみれば・・・そうだよね」 「じゃぁ、行きましょう。ワンちゃんがまってるよ」 愛は嬉しそうな顔をして、うなづいた。 玄関。 先ほどいた血統書付きのとんでもなく高い犬は、しっぽを振って愛たちを迎え た。犬は自分に優しくしてくれる人のことは結構覚えているものである。勿論、 これは犬だけに限らないが、猫などはそうはいくまい。 「よしよし、いいこね」 愛がやさしく犬の頭をなでてやると、伊集院家の犬はクゥンと泣く。どうやら 自分の方も友好を深めたいらしい。 「あはっ、くすぐったいよ、ワンちゃん」 思う存分友好を深めている愛のかたわらで詩織は物思いにふけっている。 (武雄君・・・帰っちゃったのかな?) (一緒に帰りたかったな・・・) (・・・どうして、どうしてあたしのこと・・・) 「詩織・・・ちゃん?」 催眠術からはっと目覚めさせられたように詩織はビクッとなる。 「あ、ううん、何でもないよ、メグ。それよりワンちゃんの方は良いの?」 「え?うん・・・だって、あんまり長くいると別れるのがつらくなっちゃうし」 「わたしだったら別に構わないよ」 「うん、ありがとう。でももういいの。ね、ワンちゃん?」 呼びかけられた当人はお名残惜しいです、とでも言わんばかりにクゥン、クゥ ンと泣いている。 「ごめんね、ワンちゃん。もうあたしたち帰らなきゃいけないの。お家の人が 心配しちゃうもの。ワンちゃんだって、いつまで経ってもお家の人が帰ってこ なかったら心配になるでしょう?だから、また今度ね」 そういうと愛はやさしく頭をなでてやる。 「ワンワン!」 「うんうん、またね、ワンちゃん」 そういうと詩織と愛は伊集院家を後にした。 帰り道・・・ 「メグ、今日はどうだった?楽しめた?」 何気なく詩織は愛に尋ねてみる。 「え?う、うん・・・楽しかったよ・・・詩織ちゃんは?」 「わ、わたし?・・・わたしは・・・」 その質問が返ってくることは予想していたはずなのに、返答に窮してしまう。 理由なんてとうに分かっているはず。短い時間の中で詩織はただ一言だけ、 「楽しかったよ」 と、言った。愛の方も事情が飲み込めたのか定かではないが、それ以上話を 続けるのはやめにしてしまった。 人気のない十字路。 「それじゃぁね、メグ。また来年・・・かしら?」 「う、うん・・・多分」 「なにかあったら電話するね」 「それじゃぁ、詩織ちゃん、バイバイ」 「うん、バイバイ、メグ」 ここから詩織の家まではそう遠くはないが、なんだかちょっと寄り道してみた い気分になった詩織は、近所の公園まで行ってみることにした。自分でどうし て近所の公園?とは思ったが、考えた結果が近所の公園なのだから、自分なり に理由があるのだろうと、あっさり割り切ったらしい。商店街でウインドウシ ョッピングなどという手もあったはずなのに。 なぜだろう。詩織はなにか感じたのか、小走りに公園まで走っていく・・・ 近所の公園。 すべり台、砂場、ブランコの3台遊技しかないこじんまりとした公園である。 休みの日には子どもを連れた親たちが子どもと遊んでいる。が、今は21時を 廻っている。でも、何故か公園に行きたくなった。 (わたしってば感傷主義にでもなっているのかしら、なんだか昔の思い出を見 に行きたくなっちゃったみたいね) 誰もいない公園、人っ子一人いない公園・・・のはずだった。