<第9-5章:December(5)> Mio's EYE 「はぁ、はぁ」 半ば引っ張られるようにして、伊集院家の庭園に連れて行かれました。やはり 暑かったのでしょうか、外はひんやりとして気持ちがいいですね。でももう冬。 あんまりいると風邪を引いてしまいそう。 早歩きで連れてこられたので、結構息が切れてしまいました。これくらいで息 が切れるようじゃだめですよね。もっと体を丈夫にしないと。 連れられている時はまわりのことなんて気にもしませんでしたが、やっと落ち 着いてまわりを見ると・・・そこは大きな池の真ん中。池に橋が架かっていて その一番真ん中で高城君は止まったようです。 「はぁはぁ・・・」 「だ、大丈夫、如月さん。もしかしてちょっと速く歩きすぎた?」 「い、いえ、大丈夫です。これくらいでだめな体じゃ、これから大変ですから」 ふぅ、と大きく深呼吸。冷たい風が肺に入りこんできます。なんかまわりを見 渡しても何もいない。遠くの方に建物が。パーティー会場ですね。こう見ると 随分と歩いてきたみたいです。 「えっと、どういう話でしたっけ?」 私は、あまりに急激に運動したので度忘れしてしまいました。 「え?どうして俺がこのパーティー会場に入りこめたかってことさ」 手をぽんと叩いて 「あ、そうでしたね。すっかり歩くことに集中してしまっていて忘れていまし た」 ふぅ・・・落ち着きました、息を整えて・・・ 「で、どうしてなんですか?」 「それがさ、呼ばれてもいないけど、伊集院の家でパーティするのは知ってた しさ、アイツ、自分の好みの奴しか呼ばなさそうだから鼻をあかしてやろうと 思ったのさ。ちょっと早めでまだ誰も来てないような時間に伊集院の家の門を 超えてやろうと思ったら、あの外井とか言う奴がいてさ、門番してるのさ」 「それでは、はいって来れないじゃないですか」 「それがさ・・・」 ・ ・ ・ 「ぷっ」 「おいおい、『ぷっ』はないだろう?」 「え、ええ、確かにそうですね、失礼しました・・・でも・・・ぷぷっ」 高城さんはどうやらその外井さんという方に気に入られてしまったようです。 話を要約すると、なんでも高城さんのパーソナルデータを教えてくれたら特 別に通してもいいという話だそうで、高城さんもそれに応じてしまったんで すね。 「冗談じゃないんだよ、これがさぁ。どうも気にいったってのが尋常じゃない ような目つきでさ。食われるのかと思ったよ、ホント」 「ふふっ。そんなにまずそうだったら入ってこないで逃げてしまえばよかった じゃないですか」 高城さんは、ふっ、といった感じで 「まさか。こいつの家に入りこむのが使命なのに途中で逃げ出せるかい」 「あはは、高城さんって頑固なんですね」 「え?まぁね」 高城さんがニコッとします。 「如月さんの笑った顔、とっても素敵だよ」 「え?」 「普段、本とか読んでるじゃない。どうしても目が真剣で笑うなんて到底ない でしょ?でも、今日は如月さんが笑っているって、思ったら・・・結構嬉しく てさ」 「そ、そうですか?」 「そうさ」 2人とも沈黙。高城さんはうつむいたまま何も話さなくなってしまいました。 私は・・・大きな池を眺めます。なんか照れてしまったみたいです。 「自分の笑った顔って、好きじゃないです」 「ど、どうして?」 「だって・・・醜いんですもの」 「絶対そんなことない!!」 ビクッ。突然の大声にビックリ。 「え?」 「い、いや・・・ごめん。如月さんの笑った顔、かわいいよ。うん」 「・・・」 「俺なんかが言っても真実味がないよな・・・やっぱり」 え?え?私、の笑った顔がかわいい?そんなことってあるのでしょうか。なん だか間抜けた顔なのに・・・ 「そ、そんなことはないですよ。高城さんがそう思ってくれるのはとても嬉し いです」 「そ、そう?それならよかった・・・」 「かわいい、なんて言われたことがなかったものですからつい過敏に反応して しまったのかもしれませんね、こちらこそごめんなさい」 「い、いや、そんなことないさ。俺が分け分からないこと言わなければよかっ たんだから。でも如月さんだって笑った顔の方が普段よりずっとかわいいから ・・・さ」 な、なんだかやっぱり照れてしまいます。どうしても誉められることには慣れ てないんですね。 「なんか変な話になっちゃったね。俺がどうやってここに入りこんだかって話 だったのにね」 「そうですね。でもなんか楽しい話でしたよ」 「人の不幸を楽しむとはなんて失礼なんだ、如月さんは」 「えっ?」 「なんて、冗談だよ。でも笑ってもらえてよかったよ。笑ってもらえなかった ら・・・結構恐いよな」 「ふふっ、そうですね」 「それじゃぁ・・・そろそろ戻ろうか。冷え込んできたようだし」 「はい。もどりましょう」 私と高城さんは建物の中に戻りました。高城さんは人気者みたいですね。友達 でしょうか、どこかに引っ張られていってしまいました。 私は窓の側で考え事。 「かわいい・・・か・・・」 そんなこと考えたこともありませんでした。自分がかわいいだなんて。そう言 われれば、私も来年で16歳なんだし、年頃の女の子なんですよね。ちょっと は気にしたほうが・・・いいのでしょうか?