<第9-4章:December(4)> Shiori's EYE 「ほら、メグ、こっちこっち。早くしないと送れちゃうよ」 「え、う、うん・・・ちょっとまってよぉ、詩織ちゃん・・・」 伊集院君の家のパーティーまであと10分。急がないと間に合わないわ。折角 のパーティーに遅刻していったら失礼だもの。 わたしは、赤いドレス。ちょっと派手かなとも思うけど、みんなそんな格好し てくるんだから、そんなに目立たないよね。メグは薄い茶色。クリーム色とい った方がいいかしらね。2人とも大人しめだと思うんだけど、目立っちゃった ら恥かしいな。 ちょっと早足で歩いて、なんとか時間前に伊集院君のうちに到着。でも、ちょ っと絶句。 「え〜?家の中まであんなに遠いの?これじゃぁ遅刻じゃないのよぉ。ま、い っか、いつものことだしね」 と、大声で自分の非を正当化しているのは・・・やっぱり朝日奈さんだ。 「朝日奈さぁん」 「あ、詩織ぃ、なんだ、あたしより遅いなんて珍しいこともあるもんだね」 「まあね。ちょっと支度にてまどっちゃって」 「隣にいるのは美樹原さんね」 「あ、あの、あの・・・」 「いいわよ、あたしにはかたくるしいことは抜きにしても。朝日奈夕子。朝日 奈って言っても『比べる』っていう字を使う朝比奈じゃないから気を付けてね」 「は、はい・・・」 「それから、詩織もだけど今時名字で呼び合う友達なんていないわよ『ヒナ』 って呼んでよね。これから」 この娘はちょっと強引なのがたまに傷なんだけど、それが持ち味でもあるから ね。かわいいし。学校では結構もててるみたいだけど。 「正直、1人だったからちょっと戸惑ってたのよね。さ、入りましょうよ」 ザワザワザワ・・・ 「すごぉい。お金ってのはあるところにはあるのねぇ」 朝日奈さん、あっヒナだったっけ、が感心しています。 「ほらほら詩織、見てみなよ、有名人のサイン色紙がいっぱいだよ。GREY、 ミスツル、ZERD・・・あら?この『関本 諭』って誰?」 「わ、わたしに聞かれても知らないよ。何かの有名人なんじゃないのやっぱり」 「ま、そうだよね。一般人の色紙なんて置いておいても意味ないもんね」 それにしてもこんなにいっぱい人がいるとは思わなかったわ。だって100人 か200人くらいはいるもの。うちの学校に通っている人で知っている人も見 掛けたけど、知らない人もずいぶん多いわね。 「詩織ぃ〜、こっち来てみなよ。すごいシャンデリアがあるよぉ」 ヒナは見るもの見るものが珍しいらしくいろいろと見て廻ります。くすっ、な んかおのぼりさんみたいね。 なんて思っていたのも束の間。ヒナのいうシャンデリアを見たわたしとメグは あまりのすごさに絶句してしまいました。 「え・・・すごい・・・ね・・・」 「でしょでしょぉ〜、だからすごいって言ったじゃん。もしかして詩織信じて なかったの?まさかあたしが『おのぼりさんみたい〜』なんて思ってたわけじ ゃないでしょうねぇ」 「え?(ず、図星・・・)そ、そんなことないよぉ〜」 それにしても大きいシャンデリアだよね。なんだか落ちてきたら恐いよね。 わたしったらなんて不吉なこと考えてるのかしら。せっかくのパーティーだっ ていうのに。 あら、壇上に伊集院君が。そろそろ始まるのかしら? 「みなさん、本日は我が伊集院家のパーティーにようこそ。思う存分楽しんで いってください」 「詩織ぃ〜、あたし友達見つけたから行くね」 「うん、また始業式まで会えないわね」 「そうね。それじゃ2人ともバイバイ〜」 しかしいつものことだけど朝日奈さんってすっごくパワフルよね。突然現れた かと思うといつの間にかいなくなっていたりして。あれでも結構学校の人気者 なのよね。男の子たちは「朝日奈さんといると飽きない」みたいに言っている みたいだけど。女のわたしでもそう思うもの。 「さて・・・これからどうしようか、メグ?」 「う、うん・・・あ、あのね・・・」 「どうしたの?」 「さっき玄関のところにかわいい子犬がいたの」 「・・・わかったわ。行きましょう」 メグは大の動物好き。動物を見るとすぐに撫でてしまうほどです。噛まれたら どうするの?って思うんだけど、不思議と仲良しになっちゃうみたい。今さっ きまで吠えていた犬もメグに掛かるとおとなしい犬に早変わり。メグには動物 と友達になれる不思議な力でもあるのかなぁ。 玄関の広間で1匹おとなしく遊んでいる子犬。メグの目が輝いています。 「うん、うん、よしよし・・・」 どうやら、もうお友達になったみたい。メグとじゃれあっています。 「やぁ、藤崎さんじゃないか」 「あ、伊集院君、こんばんは。今日は招待してくれてありがとう」 「いやぁ、こんなこと我が伊集院家にとっては朝飯前のようなものさ。どうだ い?楽しんでいただけてるかな?」 「ええ、もちろん。あ、こっちにいるのは・・・」 「こ、こんばんは。み、美樹原 愛といいます・・・」 「ああ。君が美樹原さんか。ようこそ、伊集院家へ」 「ところで伊集院君?」 「なんでしょう」 「この子犬ちゃん、いっつも玄関にいるの?」 「あはははは、そういう訳ではないんだがね、今日はパーティーだし広間に放 し飼いにしてもいいだろうと、父上がおっしゃったのでね。いつもは2階のペ ットルームで生活しているんだよ。美樹原さんはお気に召されたようだね」 「は、はい!とってもかわいくて・・・」 「この犬はねぇ・・・」 ・ ・ ・ 「そうなんですか・・・」 2人ともため息。わたしたちの想像を超えた価値を持った犬らしいです。 「今日のパーティーには食事も飲み物のふんだんに用意してあるので遠慮なく 召し上がってくれたまえ。犬とばかり戯れでもつまらんだろう」 「え、そ、そうね。そうさせてもらうね」 伊集院君・・・つまりホストが折角提案しているのだから断るのはちょっと礼 儀知らずよね。わたしはメグを連れてパーティー会場へ戻りました。メグはち ょっと残念そうだったけど、また戻ってくるんだからそれまでお預けよ。 ホールに戻ったわたしたち。さて・・・と、どうしようかしら。 「どうする?メグ、なんか食べようか」 「う、うん・・・」 立食形式のパーティーなんて始めてだからどうすればいいのか分からないけど、 みんなと同じようにすればいいのよね。 お皿をとって、わたしはサラダ。キャビアがのってる。キャビアって食べたこ とないんだけど、おいしいのかしら。メグはフルーツを取ってきたみたい。オ レンジの甘酸っぱい匂いが漂ってきます。 「ねぇ、詩織ちゃん?」 メグが話し掛けてきました。 「ん?どうしたの?」 「あそこにいるの・・・き、如月さんと、高城さんじゃないの?」 「え?」 あれは、武雄君。そばには未緒ちゃんが。武雄君が未緒ちゃんを引っ張るよう に外に連れ出していきます。わたしは、わたしは・・・ 「し、詩織ちゃん!」 メグの声でハッとなります。 「え?」 「『え?』じゃないよぅ。ぼっとしちゃったりして。やっぱり気になる・・・ よね?」 ちょっと呆然としちゃったみたいね。別に武雄君と未緒ちゃんが外に話に行っ ただけじゃないの。しっかりしないさいよ、詩織。あいつに馬鹿にされるわよ。 あいつ?あいつって? 「ち、ちょっと様子を見てくる!」 わたしは頭の中が真っ白になったまま伊集院家の庭園に向かって歩いていきま した。