<第8-3章:November(3)> Shiori's EYE 放課後。わたしは急いで昇降口にいったの。別に早く行ったからって事態が好 転するわけでもないんだけど、早く、早くこの気持ちをすっきりさせたかった のだと思う。 15分くらいしてメグがやっと来たわ 「おそ〜い、メグ」 メグはほんとうに済まなさそうな表情で、掃除だったから、ごめんね、ごめん ねと繰り返すばかり。なんだか今のわたしってなんか変。こんなことで怒って もどうしようもないのに。 「ごめん、メグ。なんか焦っちゃってるみたい」 「ううん・・・それより詩織ちゃん、本当にどうしちゃったの?顔色、さっき よりも悪いよ」 「うん、大丈夫よ。ちょっと喫茶店にでも行ってゆっくり話したいな」 わたしたちが良くおしゃべりに使う喫茶店は学校から歩いて・・・10分から 15分くらいのところかしら?そこは穴場中の穴場。普通の喫茶店なら帰りが けの大学生や高校生が集まるんだけど、そこは誰もいないの。物静かにクラッ シックが流れているお店。まるで時を忘れてしまいそうなお店。いつもわたし とメグはここでおしゃべりをしてるんだけど、気が付くと夕方を過ぎてるの。 ・・・でも今はそんなことを考える余裕もなかった。 ほとんどメグと口もきかずに喫茶店まできてしまったわ。 カラ〜ン、ドアに付いたベルが鳴り響く。今日もお客さんはまばら。2人はい つもの定位置にこしかける。 「ご注文は?」 わたしはモカコーヒー、メグはアイスウィンナコーヒーを頼む。先に出された 水の入ったコップで遊ぶわたし。でも無意識だったの。だって、メグに指摘さ れてはっ、となったんですもの。 「で、詩織ちゃん・・・話って・・・?」 「う、うん・・・」 やっぱり実際に口に出して話すとなるとちょっとためらいがあるのね。わたし はくちごもってしまったの。 「話づらいの?・・・」 「う、ううん。そういう訳じゃないんだけど・・・」 メグが本気で心配し始めてる。いつもはわたしがメグの相談役だったから逆の 状況になったわたしが気になるのね。分かってるの。分かってるんだけど、最 初の一言が出てこないの。 「あのね、メグ」 「うん」 「あのね・・・」 コツコツコツ・・・ 「お待たせいたしました」 お店の人が注文したものを持ってきたみたい。なんか言おう言おうと思った時 に・・・ 「それでね、メグ・・・」 店内は静まり返ってた。音といえば厨房のなかの音と、BGMのクラッシック。 あとは静かな人の話し声だけ。 わたしは思いっきって話したわ。 「あのね、わたし前から高城君のことが好きだったの」 「え?お隣の高城君が?」 「うん・・・でも・・・」 「でも?」 「高城君、他の人のことが好きみたい」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 2人はそれきり沈黙してしまったかのように見つめあってしまったの。 最初に沈黙を破ったのはわたし。だって、わたしが話さなければ進まないもの。 せっかくメグにきてもらっているのにね。 「だって、だってね・・・」 わたしはすべて話したわ。入学当初の出来事。演劇部のこと。運動会での出来 事。合宿のこと。学園祭のこと。そして・・・今日の昼休みのこと。 「そうなんだ・・・詩織ちゃん大変なのね」 「メグぅ、わたしどうしたらいいの?ねぇ、ねぇ!」 あまりの大きい声に周りのお客さんがこっちを向きます。あ、ちょっと声が大 きかったかしら。でも、気持ちを素直に口にするとそうなるんだもん。 「でも、如月さんが高城君を好きかどうかは分からないわけでしょ・・・?」 「それはそうだけど・・・」 「やっぱり詩織ちゃんも高城君とお付き合いしてみたいとか思うの?」 「良く分からないの。でもなんか・・・こう・・・悲しいというか・・・」 わたしは今にも泣いてしまいそうな表情でした。 「じゃぁ、思い切ってアタックしてみれば?」 「え?」 突然のメグの提案にわたしは驚いてしまいました。でも、考えてみれば突然で も何でもないのかもしれないわね。なんだか、これじゃぁ駄々をこねてる子供 と同じだもの、わたし。 ・・・そうよ、これからなにかリアクションをしなければいけないんだ。未緒 ちゃんが高城君のこと、好きかどうかも分からないのに、くよくよしてても始 まらないもの。 「高城君に『好き』って・・・言ってみれば、いいと思うよ」 「そ、そんなこと・・・」 「でも、今の詩織ちゃんの気持ちを満たすためには・・・そうするしかないと 思うよ。だめでもともとだし・・・」 いつもはわたしがメグを諭しているのに今日はまったくの逆ね。でも、メグっ てときどき鋭い指摘をしてくれるのよね。でも・・・いきなりアタックするな んてわたしにはできないわ。 そんな気持ちを察したのか、メグがアドバイスしてくれました 「でも、今すぐに『好き』って言わなくてもいいと思うよ。少しづつ少しづつ 詩織ちゃんの気持ちを高城君に伝えられれば、そのうち詩織ちゃんの口から自 然に『好きです』ってことば、出ると思うなぁ」 「そ、そうかなぁ・・・でもいままでずっと幼なじみでやってきたのよ」 「うん、それだからこそ、詩織ちゃんの存在をアピールしなきゃ。いつまで経 っても幼なじみのままだよ」 「そうよね。千里の道もなんとやらって言うし・・・頑張ってみようかな」 わたしたちが喫茶店を出る頃にはもう夜もふけようとしていました。もう11 月ですものね。夜が長くなっていきます。 わたしは、丁寧にメグにお礼を言って帰宅の途につきました。 うちに帰ってすぐにやることは・・・お風呂。 学校で起きたことを思い出しながら湯船につかって反省会。 今日はいつもより長くつかってないといけないかしら? 未緒ちゃん・・・本当に武雄君は未緒ちゃんのことが好きなのかなぁ。そうじ ゃないといいなぁ・・・考え始めると止まらないわ。もう深く考えるのはよし ましょう。幼なじみじゃなくて一人の女の子としてわたしのこと見て欲しい。 いつの日か、きっと・・・