<第8-1章:November(1)> Shiori's EYE 文化祭も終わり、部活の方は一休み。 なんて言っているうちに中間試験。そして来月はクリスマス。そしてその次の 月は来年なのね。 廊下を歩いていると、うちのクラスの前で女の子たちが集まっています。どう したのかしら?あ、ちょうどよかった、朝日奈さんがいるわ。ちょっと聞いて みようかしら。 「朝日奈さん」 「あ、詩織ぃ〜」 彼女はいつでも元気いっぱいな女の子です。それが幸いしてか(災いなのかし ら?)きらめき高校一の情報通として知られています。学校内の情報から学校 外のデートスポット、芸能情報などいろいろと集めているらしいの。分からな いことがいったら彼女に聞けって言うくらいよ。 「あのね、どうしたの?この騒ぎは」 「え〜、知らないのぉ?ここのクラスの高城君って今、時の人なのよ」 「え?」 意味が分からず、朝日奈さんに聞き返してしまったわ。 「こないだの文化祭の演劇部の公演で準主役みたいな感じだったじゃん、それ で一躍人気者になっちゃったのよぉ〜」 え?え?いつの間にそんなことになったの?わたしは驚きを隠せない様子だっ たようです。 「どうしたの?詩織?」 「ん?ううん、何でもないわ。ありがとうね」 「こんなことくらい知っておかなきゃだめだよ。学園のアイドルとしては」 「どういうこと?」 更に衝撃が襲ってきました。 「詩織だって男子からモテモテになってるのよ。知らなかったの?自分のこと なのにさぁ」 ・・・まさか。 その後も朝日奈さんから情報を仕入れたわ。 演劇部の公演自体はそれほど好評というわけではなかったが、準主役の3人は かなり印象に残ったらしくて学校中の噂になっているとか。その3人とは武雄 君と未緒ちゃんと・・・わたし。 どうしてそういう事になったのかは分からないけど、とにかくそういうことだ から覚悟しておかないとだめよ、と朝日奈さん。 (情報のお礼に今度どこかいい情報を教えてっていわれたけど、朝日奈さんに かなう情報なんてないわ) 困っちゃったな。そう言えば、学園祭が終わってから男の子がよく声を掛けて くるようになったけど、まさかそういう事だったとは。 クラスのドアから自分の教室を覗く。 女の子に囲まれている武雄君がいた。 顔はにこやか・・・だけど・・・どこを見ているのかしら?女の子たちのこと なんてあんまり気にしてないみたい。 その視線の先は・・・一人で物静かに本を読んでいる少女。 ま、まさか・・・わたしは自分にそう言い聞かせていました。 まさか武雄君の視線の先が未緒ちゃんにいっているなどとは・・・ 不意にわたしのこころのなかに今までに起きたいろいろな出来事がよみがえっ てきました。 運動会の時の貧血の時。 早乙女君と未緒ちゃん、武雄君、わたしのダブルデート。 演劇部の合宿の時。 そんなことはないよね。だって、いつも小さい時には側にいたじゃない。いつ も一緒に遊んでたじゃない。わたしの気持ちに気づいてくれなかったの? 「ね、詩織ちゃん?・・・詩織ちゃんってばぁ・・・」 誰かの呼ぶ声にはっとなります。声の主は隣のクラスの美樹原愛ちゃん。わた しとは中学生からの付き合いで、「メグ」って呼んでるの。動物好きのちょっ と恥ずかしがり屋さん。 「だ、だいじょうぶ?顔色悪いよぉ・・・」 メグが心配そうに声を掛けてくれました。 「うん、大丈夫よ。何とか大丈夫」 そう、というとメグはとなりの教室に入っていこうとしました。 「ねぇ、メグ?今日の帰り暇?」 「・・・うん、大丈夫だよ。どうしたの?」 「・・・うん・・・ちょっと話したいことがあるの」 メグは心配そうにわたしの様子をうかがいます。わたしから相談を持ち掛ける のは初めてのことです。だから、メグはいっそう心配しているみたい。 「たいした話じゃないのよ。じゃぁ・・・授業が終わったら昇降口で待ち合わ せでいい?」 OKという返事を、メグからもらってわたしは元気のないまま残りの授業を受 けました。もう、いてもたってもいられない状態です。わたし、どうしたらい いんだろう。 ・・・こんなにあいつのこと想っていたなんて! 切ないやら、悔しいやら。 放課後までの時間ずっとそんなことを考えていました。 考えても考えても、結論なんて出ません。