<第5-2章:October(2)> Shiori's EYE

  まさか、未緒ちゃんが武雄君と一緒に練習しているなんて思いもしませんでした。
  たしかに未緒ちゃんって早起きなのねとは思っていたけど・・・

  武雄君も武雄君だわ。そんなことしたら噂になること分かりきってるのに・・・
  え?じゃぁ武雄君はわざと未緒ちゃんを練習に誘ったのかしら?もしかして、武
  雄君、未緒ちゃんのこと・・・

  そう考え始めるともう止まりません。

  合宿も終わり夏休みももうすぐ終わり。ああ、宿題やらなきゃぁ。
  と、はぐらかしてももう遅いのよね。
 
  わたしは、武雄君のこと好きなのかしら?本当に?いつから?未緒ちゃんと武雄
  君が 噂になったとき、わたしはどうおもったの?

  はぁ・・・

  わたしはため息を吐くばかり。だれが「好き」なんて感情、考えついたのかしら
  ね。

  さぁ、ちゃんと宿題、やらないと。あとちょっとだけなんだけどね、本当は。

  机に向かって、さぁというときに階下から電話の音がします。

 「あ、詩織?俺だよ」
 「え?武雄君?どうしたの、今日は?」
 「い、いや・・・ちょっと・・・ね」
 わたしはピンと来ました。
 「ふふっ、宿題ね」
 「ど、どうしてわかったんだ?」
 「だって、武雄君ったらそんなことくらいでしか電話してこないもん」
 「・・・そっか。で、見せてもらえる?」
 「どうしようかなぁ・・・」
 「そういうなよ・・・」

 あんまり意地悪するのもいけないわよね。

 「・・・わかったわ。いいよ。でも・・・」
 「でも?」
 「自力でやらなきゃだめよ。出来ないところは教えてげるから」
 「恩に着るよ!」
 
 わたしたちは30分後に図書館で待ち合わせることにして電話を切りました。
 武雄君とデート・・・ということになるのかしら?

 武雄君はわたしが図書館に着いたときにはすでにもう待っていました。ふふっ、
 よっぽど焦っているのかしら?
 「ごめん、待った?」
 「い、いや・・・俺も今来たところだから・・・」

 じゃぁ、宿題片づけちゃいましょうか。そうしないと武雄君の心配事、収まらな
 いでしょ?・・・わたしは意地の悪い笑顔を見せて図書館の中に入っていきます。
 
 「・・・で、どれから始めましょうか?」
 「とりあえずは、数学かなぁ。とにかく量が多くてやってられないよ」
 そういうと、武雄君は宿題のプリントを取り出しました。
 「だめよ、ちゃんと自力でやらないと・・・」
 わたしはそう言おうと思ったんだけど、息とともにその声を飲み込みました。
 だって、武雄君と久しぶりに2人っきりなんですもの。宿題くらいケチケチした
 って始まらないものね。

 必死でわたしのプリントを写している武雄君を横目で見ながら、わたしは束の間
 のデートを楽しんでいました。もっとも、武雄君の方はそれどころじゃなかった
 んですけどね、くすっ。

 全部の宿題を写し終わる頃には、日も傾いてきていました。よかったね、今日は
 図書館は夜遅くまでやっている日で。

 「ふぅっ」
 図書館を出て武雄君の安堵の表情と声。なんか、かわいい。
 「ありがとうな、詩織。詩織のおかげでどうにかこうにか、何とかなりそうだよ」
 「うん、よかったね。でも、来年からはちゃんとやらないとだめよ、授業につい
 ていけなくなっちゃうよ」
 「ああ、そうするよ。・・・ところで、詩織って高校出たらどうするんだ?」
 「え?わ、わたし?大学に行こうと思ってるよ」
 「そうか・・・俺は・・・考えてないなぁ」
 「ちゃんと考えないとだめよ。高校生活なんてあっという間なんだから」

 帰り道にはそのようなことを話しながら帰りました。
 うちに戻って、ベッドに腰掛け・・・横になる。手と足を伸ばして・・・ふっと
 ため息。ううん、ため息っていうのは変よね。あ、でもため息なのかしら?だっ
 て、今日のデートは終わっちゃったんですものね。

 ああ、もうすぐ2学期。そして、演劇部の活動・・・学園祭・・・キャストの発
 表はいつなのかしら?1年生が中心になって出来るって話を聞いたけど・・・武
 雄君は合宿のときの朝の自主練を買われて、役をもらえるだろうなぁ。未緒ちゃ
 んも変な噂わたったけど、もらえるんだろうな。あたしは、どうなのかしら?

 もうすぐ2学期。また、みんなに会える日がくるのね。