<第3-2章:June(2)> Mio's EYE わたしが家を出るときには既に雨は上がりつかの間の晴れ間がのぞいています。約束 の時間にはちょっと余裕があるけど・・・ ショッピング街につき待ち合わせ場所についたときにはもう藤崎さんは待っていまし た。 「未緒ちゃん、突然呼び出してごめんね」 「え?いえ、そんなこと無いですよ。それにしてもずいぶんと早い時間から待ってい たのですね」 「う、うん。なんかあたしが呼び出したのに遅れていくのも悪いし・・・」 藤崎さんはどことなくわたしに似ているんですよね。几帳面のところといい、おとな しめのところといい。でも、わたしにはないものを持っているんです。 「(ああ、わたしも藤崎さんくらい積極的な人間になれたらなぁ)」 いつもそう思います。 と立ち話をしていても仕方ないので、さっそくショッピングすることにしました。 が、特にこれというわけでもなくただゆっくりとお店を廻るだけです。そうやって いるのが楽しいんです。ファンシーショップであれがいいこれがいいと話したり、 ブティックに入ってお互いに似合う服を探してみたり・・・。 そうやっているうちにすぐに時間は過ぎていくんですよね。 「これ!未緒ちゃんによく似合いそうなブローチよ」 何件目かのお店で藤崎さんがわたしを呼んでいます。彼女がわたしに見せたのは、 赤いリボンの形をしたブローチでした。 「そうですか?」 「うん。とっても似合うと思うよ。つけてみましょうよ」 そういうと藤崎さんはわたしの胸のところにブローチをつけました。 「ほら。とってもよく似合う」 そういうと鏡の前にわたしを連れて行きました。自分では分からないけど、似合 うのでしょうか。あんまりそういうこといわれたことないので、ちょっと恥ずか しいです。 「ほら、よく似合うよ」 藤崎さんがわたしの後ろに立ちわたしを鏡に向けさせます。鏡にはひどくはにかん だ自分の顔が写っています。やはり恥ずかしいですね。でも、たしかによく似合い ます。 「ほんとに、よく似合いますね。これ、買ってきます」 わたしは思わずレジに向かってしまいました。 それから数軒お店を廻って、藤崎さんは黄色いヘアバンド(なんでも、藤崎さんは 黄色が好きで、黄色いヘアバンドがあるとすぐに買ってコレクションにしてしまう とか)とピンを買っていました。わたしは赤いリボンのブローチと白っぽいリボン。 時間はあっという間に過ぎてしまってもう夕方になっていました。 「ありがとう、今日は。つきあってくれて」 「いえ、そんなことないですよ。わたしも楽しかったですし」 「また明日から部活だね。がんばりましょう」 「ええ、がんばりましょう」 そういうと、わたしたちはわかれて帰宅の途につきました。 帰りがけにわたしは考えます。藤崎さんって魅力的だな・・・と。 それなのにわたしは全然魅力的じゃないですね。体だって弱いし、積極的でもない し。そんなことで演劇部でやっていけるのかしら? いちど心配を始めるとそれってとことんまで心配してしまうものです。 自宅に戻ってからもずっとそのことを考えてました。 (入学してからまだ2ヶ月だというのに藤崎さんはもうクラスの人気者) (それに比べてわたしは・・・) 自分に嫌気がさしてきます。こういう時の自分は端からみるとさぞかしいやらしく 見えるのでしょう。 でもいつも思うのです。藤崎さんが藤崎さんであるようにわたしはわたしでしかな いのですから、いくら考えても仕方ないのです。それでも考えてしまうわたしは、 どうしようもないですね。 そういうときはお風呂にでも入ってさっぱりするのが一番ですね。さて、お風呂に でも入って、明日のために早く寝なきゃ。朝練も有りますからね。